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期待の若手から、大ベテランまで…FAの波に翻弄された人間ドラマ・人的補償のすべてに迫る!


 1月13日、千葉ロッテマリーンズは、東北楽天イーグルスに移籍した今江敏晃内野手(写真はロッテ時代)のFA移籍の補償に関して、人的補償は求めない旨を連絡したと発表した。

 この発表に落胆しているファンは少なくない。何故なら、近年人的補償での移籍に対する注目が高まってきているからだ。

 人的補償移籍選手は、結果的にはFA移籍選手の意思に巻き込まれる形の移籍となるため、周囲から見れば被害者的な目を向けられる事が多い。悲劇的側面と、その裏にあるチャンス。この複雑に絡んだ人間模様が、人的補償の注目度を大きくしている理由だろう。そんな人的補償は、過去19回行われている。事例は以下の通りだ。


●若手ベテラン入り乱れる人的補償その一覧

1996年 川辺忠義
河野博文の補償で巨人→日本ハム

2002年 平松一宏
前田幸長の補償で巨人→中日

2002年 ユウキ
加藤伸一の補償で近鉄→オリックス

2006年 小田幸平
野口茂樹の補償で巨人→中日

2006年 江藤智
豊田清の補償で巨人→西武

2007年 吉武真太郎
小久保裕紀の補償でソフトバンク→巨人

2007年 工藤公康
門倉健の補償で巨人→横浜

2008年 赤松真人
新井貴浩の補償で阪神→広島

2008年 岡本真也
和田一浩の補償で中日→西武

2008年 福地寿樹
石井一久の補償で西武→ヤクルト

2011年 高濱卓也
小林宏の補償で阪神→ロッテ

2012年 藤井秀悟
村田修一の補償で巨人→DeNA

2012年 高口隆行
サブローの補償でロッテ→巨人

2013年 高宮和也
平野恵一の補償でオリックス→阪神

2013年 馬原孝浩
寺原隼人の補償でソフトバンク→オリックス

2014年 一岡竜司
大竹寛の補償で巨人→広島

2014年 藤岡好明
鶴岡慎也の補償でソフトバンク→日本ハム

2014年 鶴岡一成
久保康友の補償でDeNA→阪神

2014年 脇谷亮太
片岡治大の補償で巨人→西武

2015年 奥村展征
相川亮二の補償で巨人→ヤクルト

 ご覧の通り、1軍当落線上の若手から全盛期を終えた実績あるベテランまで、じつに様々な選手が移籍している。ここでは、この人的補償移籍にまつわるドラマを挙げ紹介したい。

巨大戦力に弾き出された期待の若手たち


 現在、他球団に人的補償として選手を流出させた数は、読売ジャイアンツの9人が最多となる。巨大戦力巨人で埋もれていた若手が、移籍を期に注目を浴びるケースは否応なしに多い。

 2014年に大竹寛の人的補償で、広島東洋カープに移籍した一岡竜司は初年度からセットアッパーとして大車輪の活躍を見せオールスターゲームにも出場。人的補償選手の中でも上位にくる移籍成功者の一人と言えるだろう。

 同じく巨人からは2015年に奥村展征が、相川亮二の人的補償で東京ヤクルトスワローズに移籍した。

 若干19歳、2年目内野手の移籍は当然人的補償最年少。2年目での移籍という数奇な野球人生には世間的にも注目を浴びた。そんな奥村だが、2015シーズンはケガに泣かされ、1軍はおろか、2軍でもわずか26試合の出場と精彩を欠いた。しかし秋季練習には復帰しており、今年の飛躍に期待されている。

 今や、最強チームの名を欲しいままにしている福岡ソフトバンクホークス。積極的なFA補強と人的補償での痛みを超え、現在の強さを手に入れてきたのは紛れも無い事実。

 その中において、2013年に寺原隼人の人的補償で移籍した馬原孝浩が、移籍を知らされたのは、なんと寺原との合同自主トレの最中であった。この残酷な偶然には多くのファンが驚いた。


人的補償最高の成功者は、稀代のスピードスター


 これら人的補償による最大の成功例と言えるのは、2008年石井一久の人的補償で西武ライオンズから東京ヤクルトスワローズに移籍した福地寿樹がそれにあたるだろう。

 入団した広島、トレードで移籍した西武では、走力に定評のある選手ではあったが、レギュラーとして定着するには至ってはいなかった。

 その福地がスワローズ移籍1年目の2008年に初めて規定打席に到達。打率.320、9本塁打、61打点と大ブレイクした。さらには42盗塁をマークして、初の盗塁王を獲得したのだ。

 プロ15年目にしての快挙に、本人は元よりファンは大熱狂した。この福地の活躍を見る限り、人的補償で移籍した選手に対する可能性を感じずにはいられないだろう。

 通常のトレードに比べ、否応なしに注目を浴びる事となる人的補償移籍選手。移籍選手たちはこのチャンスを掴み取るべく、また、自身をプロテクトしなかった前所属球団を見返すためにも燃えるはずだ。そのあらわれが近年、多くの成功者を生んでいるのではないだろうか?

 様々な人間ドラマと、移籍を期に開花する選手たち、オフシーズンの一大行事を今後も注目していきたいと思う。


文=井上智博(いのうえ・ともひろ)

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