9月6日に千賀滉大(ソフトバンク)、9月14日には大野雄大(中日)と、今季は2人の投手がノーヒットノーランをやってのけた。昨季は山口俊(巨人)が7月に、菅野智之がCSで記録しているが、レギュラーシーズンで複数の投手がノーヒットノーランを達成したのは2012年の前田健太(当時広島/現ドジャース)、杉内俊哉(当時巨人/引退)、西勇輝(当時オリックス/現阪神)以来7年ぶり。
ちなみに、日本でプロ野球が発足した1936年以降、ノーヒットノーランは93回(CSでの1回、完全試合15回を含む)達成されている。栄光の記録を振り返ってみたい。
個人での最多ノーヒットノーラン記録は3回で、2名が達成。そのうちの1人が沢村栄治(当時巨人)だ。
沢村は戦前、戦中の投手で、現役での活動期間は短かったものの、最多勝や最優秀防御率など数々のタイトルを獲得。ノーヒットノーランは、1936年9月25日の大阪戦(甲子園)、1937年5月1日の大阪戦(洲崎)、1940年7月6日の名古屋戦(西宮)の3回。1936年の大阪戦は、日本プロ野球史上初の快挙だった。
毎年、シーズン後に表彰が行われる「沢村栄治賞」は、投手の勲章のなかでもとくに格式高い賞で、先発型が主な対象。今季は19年ぶりに該当者なしとなったが、来季はノーヒットノーラン3回の沢村の名にふさわしい先発投手の登場を待ちたい。
もう一人は外木場義郎(当時広島)だ。外木場の3回のノーヒットノーランは、1965年10月2日の阪神戦(甲子園)、1968年9月14日の大洋戦(広島)、1972年4月29日の巨人戦(広島)。このうち、1968年の大洋戦は、1人の走者も許さない完全試合だった(史上10人目)。
通算勝利数は131勝と突出してはいない外木場だが、1975年には20勝13敗で最多勝のタイトルを獲得するとともに、広島のセ・リーグ初制覇(創設26年目)に大きく貢献。ベストナインにも選ばれている。このシーズンがプロ11年目。まさに、広島の初優勝を支えたエースだった。
ノーヒットノーランを2度記録している投手は石田光彦(当時阪急)、亀田忠(当時イーグルス、黒鷲)、中尾輝三(当時巨人)、藤本英雄(当時巨人)、真田重蔵(別登録名:重男/当時太陽、阪神)、金田正一(当時国鉄)、鈴木啓示(当時近鉄)の7名。
鈴木啓示が1971年9月9日に2度目のノーヒットノーランを記録して以降、新たな複数回達成投手は誕生していない。
なお、メジャーリーグにおける日本人投手では、野茂英雄(当時ドジャース、レッドソックス)が2回、岩隈久志(当時マリナーズ)が1回記録している。
さらに、完全試合は、上記の外木場も含めて15人が達成しているが、複数回記録した投手はいない。それどころか、槇原寛己(当時巨人)が1994年5月に達成して以降、25年間も出ていないのだ。槇原の前は、1978年8月の今井雄太郎(当時阪急)だから、さらに16年さかのぼることになる。
(2007年の日本シリーズ第5戦にて、山井大介と岩瀬仁紀(ともに中日)による継投での「完全試合」は1度だけ成し遂げられている。複数投手の継投による記録はこの1例のみ)
1950年に2リーグ制になってから今井が記録した1970年代までは、少なくとも数年に1回程度は達成されていた完全試合も、いまでは絶滅危惧種的な記録。ノーヒットノーランが比較的コンスタントに出ていることから、一概に打高投低が進行しているとも言いづらいが、「生きているうちに1度は見てみたい」は大げさにしても、かなり希少性の高い記録となっていることは間違いない。
文=藤山剣(ふじやま・けん)