2012年、日本ハムはメジャー挑戦を表明していた大谷翔平を敢然と1位単独指名。「大谷翔平君 夢への道しるべ 〜日本スポーツにおける若年期海外進出の考察〜」なる資料を作り、口説き落とした。
前代未聞の「二刀流」で挑むこととなった大谷、その起用法にゴーサインを出した球団、栗山英樹監督には「投手か打者か。どちらかに専念すべき」「そんなに甘くない。野球を舐めるな」といった厳しい言葉も浴びせられた。もちろん「二刀流」にワクワクするファンも多かった。
そんな喧騒のなか、大きな注目を浴びたルーキーイヤーの2013年は投打ともに目立った成績を残していない。とはいえ、高卒1年目で3勝を挙げ、打率.238を記録。今となっては「大谷にしては目立っていない」という評価が適切だろう。
しかし、2年目にはベーブ・ルース以来の「10勝・10本塁打」を達成し、アメリカでも話題に。「二刀流」が真価を発揮し始めた年となった。3年目は、「投手・大谷」としては最多勝、最優秀防御率、最高勝率のタイトルを獲得。一方「打者・大谷」としては前年より成績を落とし、打率.202と低調な結果に終わる。ここで再び「やはり投手に専念すべき」という声が大きくなった。
こうして迎えた昨シーズン。大谷は周囲の想像を遥かに超える成績を残した。投げては10勝、防御率1.86。打っては打率.322、22本塁打。NPB史上初めて、投手、指名打者の両部門でベストナインに選出された。
結果で二刀流に否定的な声をシャットアウトし、日に日に「メジャーで二刀流の大谷を早く見たい」といった声が大きくなっている。また、試合状況に応じた「二刀流解除」などの栗山監督の起用法も話題を呼び、新しい野球の楽しみ方を見せてくれた。
これまでの4年間を見ると、日本ハムの大谷獲得は大正解だ。「二刀流」での起用に応えた大谷も、それを貫いた球団と栗山監督の姿勢も見事だった。
【2013年成績】
13試合:3勝0敗/61.2回/奪三振46/与四球33/防御率4.23
77試合:打率.238/3本/20打点
【2014年成績】
24試合:11勝4敗/155.1回/奪三振179/与四球57/防御率2.61
87試合:打率.274/10本/31打点
【2015年成績】
22試合:15勝5敗/160.2回/奪三振196/与四球46/防御率2.24
70試合:打率.202/5本/17打点
【2016年成績】
21試合:10勝4敗/140回/奪三振174/与四球45/防御率1.86
104試合:打率.322/22本/67打点
『野球太郎』本誌のドラフト特集による大谷の評価を振り返ってみよう。
まず、ドラフト前に発行された『野球太郎No.001 2012ドラフト直前大特集号』を取り出してみる。
大谷は152名が掲載されている巻頭の「ドラフト候補名鑑」でトップの藤浪晋太郎(大阪桐蔭高→阪神)の次に名を連ねている。藤浪には1ページ、大谷には1/2ページを割いていることから、大谷は「注目度No.2」的な扱いにも見える(ちなみに大谷と同じページに1/2ページのスペースで掲載されているのは森雄大[東福岡高→楽天])。
しかし、表紙には花巻東高のユニフォームを身にまとった大谷が単独で登場。実質、藤浪と並んで「注目度No.1」だったといえるのかもしれない。
この名鑑にある「未来予想図」というコーナーを見ると、「右の金田正一(元国鉄)」の見出しが見える。金田は言わずと知れた400勝、4490奪三振という日本記録を誇る大投手。投手として最大級の評価が大谷に与えられていたのだ。
当時の大谷は、すでに最速160キロを計測していたが、文中では「スピードもすごいが、角度はもっとすごい。(中略)そんな怪物、400勝投手しか私は知らない」とまで絶賛されている。この号が出たときは、「褒めすぎ?」と思った読者がいたかもしれないが、今の大谷を見ると納得してしまう。それくらい最高級の素材だと評価していた。
ページを繰って、「12球団別・ドラフトの焦点はここだ!」という特集での日本ハムのページを見てみよう。指名のポイントとして最初の見出しに「有望な高校生投手を獲る」と打たれている。そして、文中では「1位指名は近未来のチームを支える人材でいきたい。その意味で理想は、花巻東高・大谷翔平となる」と断言。
まさにその通りに現実は進んだ。繰り返すが、この本はドラフト前に発売されている。『野球太郎』の見立ては的中だ。
続いてドラフト後に発行された『野球太郎No.002 2012ドラフト総決算プレミアム特集号』を見てみよう。
巻頭の「ドラフト指名パーフェクト名鑑70名」では、前号の藤浪に変わり大谷が筆頭で紹介されており、「投手で10年、野手で10年。そんな怪物だ」とある。さらに、ポジションは投手と記しながらも、育成ポイントとして「こっちなのか、どっちなのか、どちらにしても練習前に入念なアップを」とアドバイス。起用法が不透明な状況ではあるが、投打のどちらでもOKと見立てていた。
また、「新人王への道」というコーナーでは「ドラフトというルールに選手が唯一対抗できる手だては、実態の伴った“夢”を掲げることだ。貫き通してほしい」というメッセージが見える。この時点での大谷の夢は、もちろんメジャー挑戦だ……。
続いて、各チームのドラフト結果を考察した「ドラフトで笑ったのはこのチームだ!」という特集での日本ハムのページを確認してみよう。見出しには「もしも大谷翔平(花巻東高)が入団したとしても、マイナス20点……」と記されており、チーム全体のドラフト採点は80点となっている。編集部は大谷の入団拒否は濃厚と見ていたのがわかる。
文中には「大谷のメジャー挑戦は本人の意思で決めたこと。(中略)心の底から“日本のプロでやりたい”と望まない選手は、果たして“今年いちばん力のある選手”という球団の評価に当てはまるのだろうか」とある。日本ハムの強行指名にもやもやした思いを感じているようだ。
なお、同ページにある「近未来チーム編成シミュレーション」というコーナーを見ると2013年、2015年、2017年のいずれにも大谷の名前はない。
この号には、ドラフトの約1週間前に行った大谷のインタビュー記事も掲載されているのだが、ここでの大谷の言葉からは、「どちらに決断しても……」と気を配りながらも、メジャー挑戦への強い覚悟と意志がにじみ出ている。
この号全般を通してみると、難しい判断ではあるが、「周囲に流されず、意志を貫いて、メジャーに挑戦してみてもいいのでは?」という編集部の思いも伝わってくる。
しかし、大谷は日本ハムで「二刀流」としてプレーすることを選んだ。4年目のシーズンを終えた今、日本ハムにとっては十分すぎる大成功の指名となったことに異論を挟む者はいないだろう。
あとは近い将来、大谷が「メジャーリーグで大活躍」という夢を叶えて、ドラフト時に漂ったもやもやを吹き飛ばしてくれることを期待したい。
またこの号では、高校生では鈴木誠也(二松学舎大付高→広島2位)、北條史也(光星学院高→阪神2位)らも注目株として挙げられている。なかでも、北條への評価は高く、「時間をかけて自分のバッティングを作り直していくべき。その上で、いずれは阪神のショートを守ってもらいたい」とある。北條への見立ては、4年かけて叶えられそうだ。
文=勝田 聡(かつた・さとし)