大物がごっそり引退した2015年シーズン。連日どこかの球場で引退セレモニーが行われ、ファンの涙を誘った。
団体競技ながら、投手対打者という一対一の見せ場を堪能できる野球という競技。それゆえに、カラ回りの結末を見ることもある。さらにシーズン終了直前という、真剣勝負の避けられない舞台設定もあって、今年も花道を飾るハードルは高かった。
21年間西武一筋の西口文也は、クライマックスシリーズ争い直接対決のロッテ戦で5回二死から登板。
井口資仁にフルカウントから投じた渾身のウイニングショット・スライダーがわずかに外れてボールの判定。解説者からも「この場面で、なぜこれをボールと言うのか」とソフトに物言いがつく微妙な判定に、温厚なイメージしかない西口も、判定への不満から、別人のような挑発的な顔に…。
試合後のセレモニーでは気を取り直して「ノーヒットノーラン未遂2回、完全試合未遂1回、そして、きょうフォアボール…と、ファンのみなさまの期待を裏切ることもたくさんありましたが、声援には勇気と力をもらいました」と陳謝と感謝。しかし、その言葉からは、現役最後の1球が、一世一代の大記録失敗に匹敵するほどの重さだったことが読み取れる。試合の方も2−4で手痛い黒星を喫した。
谷繁元信(中日)は、現役最後の出場を、古巣の横浜で迎えた。第1打席で内野ゴロに倒れて交代。ヒットで締めくくれなかったものの、最下位脱出を争うDeNAとの直接対決で、9回表を終えて2−1と中日がリード。貴重な勝利とともに胴上げとなるはずが、まさかの暗転。リリーフの浅尾拓也が、ホームランを2発浴びて逆転サヨナラ負けを喫してしまう。
試合後には、中日とDeNAナインが谷繁を胴上げ。両チームでワッショイワッショイの輪から、半歩離れたところで力なく両手を上下する浅尾の姿は、宙に舞う谷繁よりずっとずっと目にしみた。
阪神では、数少ない生え抜きの関本賢太郎が引退。今季最終戦に代打で迎えた打席はピッチャーゴロ。ここまではよくあることだが、3位を争う広島に完敗してCS自力進出が消滅という、別の涙も流すことになってしまった。最後は広島が敗れたおかげで、何とか阪神は3位に滑り込み最悪の結果だけは免れた。
阪神が引退試合で、選手だけでなく別の大事なものまで失うのは、初めてではない。
2013年のCSファーストステージ第2戦。引退する桧山進次郎の最後の打席は、5点を追う9回2死の場面で回って来た。「代打の神様」は、2ランを放つも、焼け石に水。CS敗退が決まった。
さらに遡って2010年、矢野燿大の引退試合。ここで起きた悲劇は、もはや伝説となっている。引退試合で最も恐れられる男・村田修一(当時は横浜)が9回に逆転3ランを叩き込み、2死から予定されていた矢野の出場だけでなく、阪神の自力優勝までぶっ飛ばした。
もしもに備えて、ファンの怒りの矛先をかわすために、球団が仕組んでいるのでは? と疑いたくなるほどの伝統行事になりつつある。
今シーズンも、和田一浩(中日)や谷佳知(オリックス)のように、打って勝ってという有終の美を飾った選手もいるが、手痛いオチがついた方が記憶に残りやすいのか、成功例は少なかった気がする。
引退試合をやってもらえるのは、プロで成功したほんの一握りだけ。そんな偉大な選手であっても、有終の美を飾るまでの道のりはやはり険しかった。
文=小林幸帆(こばやし・さほ)