10月2日、ヤクルトが見事、14年ぶり7度目のリーグ優勝を果たした。歓喜の舞台となったのは本拠地・神宮球場だ。
1926年に開場した神宮球場といえば、「アマチュア野球の聖地」とも称される歴史ある球場。東京六大学野球や東都大学野球(1部)のリーグ戦でも長年使用され、明治神宮大会も開催されている。
“人気の六大学、実力の東都”といわれるようにやはり客入りは六大学が圧倒的だ。特に神宮球場建設に寄与した六大学は、土日の優先開催権を持っており、基本的に平日開催の東都よりも客入りは恵まれている。
六大学では毎試合スタンドには応援団が陣取り、キレッキレの動きで応援を指揮。お立ち台にはチアリーダーも上がり、試合途中にはアクロバティックな組み体操も披露。学生やOB・OGが一糸乱れぬ動きでメガホンを振り、応援席を見ているだけでも楽しさがある。野球だけではなく、球場全体がエンターテイメントという雰囲気だった。
一方の東都は忌憚なくいうと、少し寂しい印象だった。老若男女の観客がいた六大学に比べると、やはり平日の昼間だけあって、シニア層が中心。授業と丸被りのためか応援団やチアリーダーの数も少なく、一部大学の応援団はエアロビのレベル。日本大に至っては、応援席に控えの野球部員しかいないという状況だった。
しかし、野球そのものの質としては、東都が一枚上手だ。あくまでも主観だが、二番手以降の投手のクオリティーや野手の躍動感、力感は一見するだけでも東都が上。「野球を純粋に楽しみたい」という人にはぜひオススメ。ネット裏も比較的空いており、絶好のポジションでハイレベルな野球を堪能できる。
学生野球といえば、やはり「高校野球」のイメージが強い。そのため、筆者もキビキビとした試合が展開されると思ったのだが、それは誤りだった。
特に六大学は選手もどこか牧歌的。観戦当日の夜にヤクルト戦がなかったこともあるだろうが、整列もピシッと出てくるわけではなく、小走りで重い体を引きずりながら。攻守交代も全力疾走ではなく、余裕を持った小走り。どちらかといえば、「高校野球の延長」というよりは「プロの下」といった時間の使い方だ。
観戦当日の第2試合では、空が曇ってきたこともあり、攻守交代の際に審判団がベンチに行き、「はやくしよう!」「はい!ガンバレ! ガンバレ!」と声を掛けていた。
それでも応援席を見ているだけで時間は過ぎていく。土日の午後のちょっと眠たい心地よさを感じながら、のんびりと観戦するのが「通」のようだ。
一方の東都は高校野球ほどではないが、キビキビ感は上。1日3試合という風土もあるだろうが、整列や声出しには気迫もこもり、サクサクと試合が展開した。
特に現役プロOBが「軍隊」とも語る亜細亜大の動きは格別。近年、亜細亜大出身の選手がプロの世界で次々と芽を出していることが容易に納得できるほど、ひとつひとつの動きに迫力があった。
試合全体の印象としては、六大学は“ハイカラ”、東都はキャッチコピー通り“戦国”という言葉がよく似合う。
その他にも高校野球とは違う点は多かった。特に違和感を感じたのは背番号。高校野球では、エースは「1」、ショートは「6」といったように守備番号=背番号であるケースがほとんどだが、大学野球では背番号もプロ形式。
六大学では中心選手が「1」、東都ではキャプテンが「1」、エースは「18」などの背番号となるため、試合前練習などでお目当ての選手を見つけるには、選手名鑑付きのパンフレットの購入は必須だ。
また高校野球やプロ野球では、基本的に守備時は応援しないが、大学野球では守備時にもガンガン鳴り物応援をする。この応援のぶつかり合いも大きな見どころだ。
そして監督のポジションも面白い。選手交代時はもちろん、選手へのアドバイスや審判への確認など、背番号「30」(東都は「50」)がたびたびグラウンドに姿を見せる。
よく考えれば、中学野球やプロ野球でも選手に指示を伝えるのは基本的に監督だ。高校野球の「伝令」が頭の中に強く刻み込まれているため、初見では少しカルチャーショックを受けた。
見るも楽しく奥深い大学野球の世界。まだまだ面白さが隠れていそうだ。
文=落合初春(おちあい・もとはる)