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「走者は衛星」という観念で完成させた健大高崎の「機動破壊」の真髄に迫る

 今夏の甲子園大会で野球ファンに衝撃を与えたのは、健大高崎(群馬)の走って壊す野球「機動破壊」だろう。選手1人で1大会最多盗塁のタイ記録に並ぶ8盗塁、チームでは1試合11盗塁、4試合で合計26盗塁を成功させ、文字通り相手を戦術的・精神的にも崩壊させた、恐ろしい戦術であった。今回はこの「機動破壊」について再検証したい。


▲2012年のセンバツ。1回戦で名門・天理から7盗塁を奪い、「機動破壊」はその名を全国に轟かせた。

「機動破壊」が生まれるまで


 健大高崎の正式名称は「高崎健康福祉大学高崎高等学校」。なんとも長い校名だが、もともとは群馬女子短期大学附属高等学校という女子校だった。群馬県高崎市にあり、2001年に共学化、野球部は翌2002年に群馬県高等学校野球連盟に加盟した。

 就任当初の青柳監督は「打ち勝つ野球」を目指していた。「でも、高校野球では勝ちにくいことを実感しました」と語る同監督の転機は、2010年夏の群馬大会準決勝。延長10回、前橋工に0-1で敗れた試合だ。準々決勝までの4試合で32得点を挙げ、自信を持っていた打線が完封負けを喫したことで、一発勝負のトーナメントを勝ち抜く厳しさを痛感。指導方針をガラリと変え、「足を絡めてノーヒットでも点を取れる野球」にシフトしたのだった。

走塁死を怒らず、走らない選手を怒る


 青柳監督自身が「(野球に対する)考え方を変えました」と言うように、選手に対しても「走らない選手は使わない」と、意識改革を徹底。まずは出塁後、できるだけ多くの牽制球をもらうよう指導した。牽制を多くもらえれば、相手投手のクセを見抜くことができるからだ。「ランナーの役割はレーダー(衛星)です」と語る同監督は、出塁したランナーが多くの牽制球をもらうことで、投手のクセなどの情報を得てベンチに持ち帰る。つまり、ランナーを情報収集のための「衛星役」として考えているのだ。


▲初代監督に就任したのが、今夏の甲子園でも指揮を執った青柳博文監督。前橋商で1990年のセンバツに出場。東北福祉大卒業後は、サラリーマンも経験した異色監督だ。

 そして、盗塁は基本的に「行けたら行け」。さらにアウトになっても怒らない。むしろ、勇気を持ってスタートを切らない選手に対して怒るという。

「気持ちが弱くて走れない選手は使えません」と語る青柳監督の采配は、すぐに好結果をもたらした。2011年夏は群馬大会新記録となる28盗塁を記録して甲子園初出場。2012年春のセンバツではベスト4入りを果たし、「機動破壊」で高校野球界に旋風を巻き起こした。

新たな高校野球のスタンダードになるか


 打撃は水物だ。健大高崎も前述の2010年に敗戦した試合のように、また、いい投手と対戦したら、そう簡単に打ち崩すことはできない。そして、毎年のように強打者が並ぶ打線を作ることは、限られた有名私立高校でなければ難しい。
 それに比べれば、打力を磨くより走力を磨くほうが、より多くのチームで実現の可能性が高いのではないだろうか。片岡治大(巨人)や聖澤諒(楽天)のように、抜群に足が速い選手でなくても技術で盗塁王に輝く選手がプロでもおり、センスや素質を練習で十分に補うことができる。

 もちろん、スタートやスライディング、約27メートルの塁間で速く走る、クセを盗むコツなどを教えられる指導者は必要だが、高い意識と勇気を持つことができれば、打ち勝つよりも確実に勝利を積み重ねることができる可能性があるのだ。もしかしたら「機動破壊」は、今後、高校野球界に新しい戦法として定着するかもしれない。


(2014年9月13日/マイナビニュース配信)

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