山本由伸はドラフト4位で都城高から入団。高校1年のときに内野手から投手に転向。そこからみるみる成長し、最速151キロを記録。甲子園出場はならなかったが、九州BIG4のひとりに数えられるようになる。
「由伸」の名前は、巨人ファンであった父親によって、高橋由伸(現巨人監督)にちなんでつけられたという。
山本は5月9日の広島戦でウエスタン・リーグ初先発。1回を投げて安打を打たれたものの、併殺で無失点に切り抜ける。その後の登板では3回、5回と投球イニングを増やしていく。
7月18日のソフトバンク戦では、5回を投げて被安打3、無失点でファーム初勝利。8月3日の広島戦では、最長の7回2/3を投げ、被安打4、7奪三振、無失点で2勝目を記録した。
山本はウエスタン・リーグ通算で8試合に登板。33回2/3を投げて2勝0敗、自責点1、防御率0.27、奪三振28という素晴らしい成績を残した。特筆すべきは四球を2つしか与えていないこと。9イニング当たりの四球の割合、BB/9は0.53だ。
8月20日の1軍での初登板。山本由伸の名前がコールされると、スタンドのオリックスファンから大声援が起こった。ファームでの好成績を知るファンの期待の表れだ。
1回表、山本はいきなりピンチを迎える。先頭打者は打ちとったものの、2番・サントス、3番・鈴木大地に連続ヒットを打たれ1死一、三塁。ここで一発のある4番・ペーニャを迎える。しかし、山本は落ち着いたピッチングでペーニャを空振り三振に切って取る。続く角中勝也も内野ゴロに打ちとり、この回を無失点に抑えた。
プロの洗礼を浴びたのは2回表。2死を取った後、8番・田村龍弘にソロ本塁打を打たれてしまう。ファームでは本塁打を打たれていなかった山本。1軍の厳しさを感じたのではないだろうか。
オリックスが2対1とリードした5回、山本は連続安打などで1死満塁と攻められ、この日2度目のピンチを迎える。この場面で、ロッテベンチが打席に送ったのは代打の井口資仁。井口はプロ入り21年目の42歳。山本は3日前に19歳になったばかりで、その年の差は23歳。今季限りでの引退を表明した井口に対し、ルーキーの山本は大事な場面で相対することとなった。
山本の投球はボールが先行し、3ボール1ストライクとなってしまう。押し出し四球が恐いところだが、そこで山本はスライダーを投げて空振りを取る。これはなかなかの度胸である。
そして、フルカウントからのラストボール。ここでもスライダーを投じ、井口は引っかけてサードゴロ併殺。山本は、最大のピンチを無失点で切り抜けた。
スタンドからは大歓声が沸き起こった。ルーキーの期待以上のピッチングに対する賞賛だ。ニューヒーロー誕生の瞬間である。
山本は5回を投げ勝利投手の権利を持って降板。しかし、次の回に同点に追いつかれ、初勝利はおあずけ。82球、7安打、6奪三振、1四球、1失点の成績。7安打されているが、そのうち3安打はアンラッキーなヒット。四球も敬遠気味のものだ。勝利投手に値するピッチングだった。
福良淳一監督は山本の投球で、四球の心配がないところを高く評価。次回も登板があると明言している。山本はファームでは80球をメドに起用されてきた。今回の登板も82球を投げての降板だった。今後は球数を増やしていくことが課題だろう。
山本の姿を見ていると、オリックスの将来のエース出現を予感させる。次回以降のピッチングに期待したい。
文=矢上豊(やがみ・ゆたか)
関西在住の山本昌世代。初めてのプロ野球観戦は、今はなき大阪球場での南海対阪急戦と、生粋の関西パ・リーグ党。以来、阪急、オリックス一筋の熱狂的ファン。プロ野球のみならず、関西の大学、社会人などのアマチュア野球も年間を通じて観戦中。