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【石井裕也独占インタビュー 第1回】マウンドに上がったら補聴器のスイッチを切って、集中力を高めています

文・取材=高橋安幸

プロ10年目に突入

 左耳は聞こえず、右耳には補聴器を付けてプレーする左腕。生まれつき難聴の障害を持ちながらプロ入りした石井裕也(日本ハム)が、今季で節目の10年目を迎えた。

 五体満足であっても、入ること自体が難しく、長く活躍し続けるのはもっと難しいプロ野球の世界。

 なのにハンデを持つ石井は、過去9年間で中日、横浜(現DeNA)、日本ハムと渡り歩いてきて、通算235試合に登板。故障や体調不良による停滞もあったが、おもにリリーフとして18勝18敗、6セーブ、63ホールドという成績を挙げた。日本シリーズのマウンドも経験して、中日時代の2007年にはチームの日本一に貢献している。

 昨年、2013年は51試合に登板して4勝6敗、17ホールド、防御率2.74。登板数が自己最多なら、勝ち星もホールドもキャリアハイと、中継ぎとして首脳陣の信頼を得る結果を残した。

 10年前、ドラフトから1カ月後に石井にインタビューさせてもらった者としては、よくここまで成長して頑張っているな、と感慨を覚えずにいられなかった。プロとして、長く着実に歩んできた理由を聞いてみたくなった。

 ただ、今年は開幕1軍を果たせず、初登板は5月11日のオリックス戦。交流戦に入って対中日戦で1勝を挙げるも、その後は結果を出せず、6月半ばにファーム降格となってしまった。

 少しだけ心配しつつ、猛暑の鎌ヶ谷スタジアムで調整する石井に会いに行く。10年目の再会となる。試合前の練習を終え、球場の応接室に現れた彼は、意外なまでに明るい表情だった。


 テーブルに置いた取材用の録音機材を見ながら、「大丈夫ですか? OKですか?」とこちらを気遣う余裕は10年前にはなかった。まずは、変わる可能性のあった彼のポジションについて聞いてみる。

今シーズンの取り組み


───石井投手の場合、今年の開幕前は「先発転向」という話もありましたが、実際にはどうだったのですか?

石井 先発は去年のシーズンが終わった頃に、監督から直接、言われました。「来年、先発あるかもしれない。やってみないか?」と話をしていただき、僕は正直、びっくりして、戸惑いました。自分では、先発でやろうとは思っていなかったので。でも、しっかりやるしかないと思って、練習は毎日、毎日、先発ローテーションに合わせてやりました。

───春のキャンプからは先発に合わせた練習、調整をやっていたんですね。

石井 そうです。それで、やってみようかな、と思いました。でも、そのあとでチームの事情があって、先発はできなくなって、中継ぎをやっています。それはしょうがないですね。先発は難しいと思いますので。


───昨年は50試合以上に登板して、中継ぎというポジションが自分のものになってきたと思います。それでも中継ぎなりの難しさもあると思うのですが、普段のブルペンではどのように準備しているのですか?

石井 ブルペンでは、先発ピッチャーが早い回で点を取られる展開になったとき、気持ちとしては、いつでもいくつもりでいます。僕はだいたい二番手か三番手なので、4回か5回になったら肩をつくります。

───そうして呼ばれるのを待っている。

石井 その前に軽く投げて、ベンチからブルペンに電話が来たら出ていきます。たまに、準備ができているのに順番が回ってこないときはありますけど、それはしょうがないですね。

───では、回ってこないと思っていた順番がやっぱり回ってきたとき、それでもしっかりした気持ちでいけますか?

石井 いけると思います。交代の順番が変わるときは難しいですけど、いつでもいくための準備はしていますからね。

───いざ、マウンドに向かうときに心がけていることは?

石井 いつもどおり、いつもどおり、と思うことですね。

───マウンドに上がったときは?

石井 マウンドに上がったら補聴器のスイッチを切って、集中力を高めます。

───やはり、スイッチは切るんですね。「音がないほうが集中できる」ということで、高校時代から切っていたと以前にうかがいましたが、プロでもそれは変わらないと。

石井 全然、変わらない。高校のときからずーっと、変わってないと思います。当然、応援とか声援はありがたいと思っていますけど、僕は、聞こえないほうが集中できますね。

次回につづく


■ライター・プロフィール
高橋安幸(たかはし・やすゆき)/1965(昭和40)年生まれ、新潟県出身。日本大学芸術学部卒業。雑誌編集者を経て、「野球」をメインに仕事するフリーライター。1998年より昭和時代の名選手取材を続け、50名近い偉人たちに面会し、記事を執筆してきた。著書に『伝説のプロ野球選手に会いに行く 球界黎明期編』(廣済堂文庫)などがある。2014年5月より『根本陸夫伝〜証言で綴る[球界の革命児]の真実』(web Sportiva)を連載開始。ツイッターで取材後記などを発信中。アカウント@yasuyuki_taka

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