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ドラフトが間近だからこそ敢えて提言! 高校生諸君、プロのフロントの方々、進路選びは慎重に!

過酷を極める「高卒」での育成ドラフト指名


 いよいよ数日後に迫った2013年プロ野球新人選手選択会議(ドラフト会議)。そのドラフト会議()が終了した時点で、選択された選手が120名に達していない場合に行われる「育成選手選択会議(育成ドラフト会議)」をご存じだろうか。昨年は6球団が参加を希望して合計13名の選手を「育成契約選手」として指名した。

 この制度が始まったのは2005年。初年度に育成選手を獲得したのは4球団で6人に過ぎなかった。しかし、その一期生のなかに巨人の鉄腕左腕・山口鉄也がいた。2年の育成期間を経て、支配下選手契約を勝ち取り、2007年は1軍で2勝をマーク。その後の活躍はご存じの通りで、今シーズンもそのタフネスぶりを発揮し、巨人のリーグ連覇に大きく貢献した。

 この成功例を契機に、各球団も育成選手の獲得に力を入れるようになった。しかしながら、山口のような成功例はほんの僅かなのが現状だ。今回のやじうまジャーナルでは、この育成ドラフトで起きている問題点について提言したい。


【2009年育成ドラフト勢はほぼ全滅…。高卒育成選手の猶予期間は余りにも短い】

 初年度の2005年に続いて、翌2006年には5球団12人、2007年は8球団15人、2008年は8球団26人と、育成選手指名数は増加傾向にあった。2009年は8球団17人と減少するも、2010年は29人、2011年は26人と再び20人台となり、そして昨年は13名と大きく指名選手を減らした。

 山口鉄也の成功を筆頭に、巨人やロッテ、ソフトバンクなどが提唱していた「3軍制構想が実を結んでいる」、「育成選手もハマれば大きな戦力となる」と判断した球団が増えた一方で、育成選手を獲得しても、育てる、経験を積ませる機会が少ない、とチームにとっても選手にとっても不利益で、保有選手の上限を考えると指名を控える年もあり、増減を繰り返してきた、と見る。

 制度開始以来、10年も経っていないので、まだまだ各球団はこの制度をどうやって有効活用するか、模索しているのが現状といえるだろう。

 その各球団の「手探り状態」を裏付けるのが、獲得した高卒選手をあっさりと解雇してしまう、いわゆる「ポイ捨て」現象が起こっている点だ。例えばあの菊池雄星フィーバーに沸いた2009年のドラフト会議。育成ドラフトで指名された菊池と同じ年の高校生6名のなかで、現在もプロ野球に身を置くのは河野元貴(巨人)と国吉佑樹(DeNA)だけだ。彼らと戦っていた球児たちは今年、大学4年生でドラフトにかかる年である、ということもことさら皮肉なことになっている。

 さらに翌2010年のドラフトでは29人中14人が高校生だった。しかしながら広島の育成1位・山野恭介(明豊)や楽天の育成2位・木村謙吾(仙台育英)などは今年、戦力外通告を受けている。さらに過酷なのはオリックスの2選手。2011年の育成ドラフトでオリックスから指名を受けた育成1位・稲倉大輝(熊本国府)、育成2位・柿原翔樹(鎮西)の2選手は、今年の10月に戦力外通告を受けた。わずか2シーズンでプロ野球界から去ることになってしまったのだ。

【早々にクビを切られた高卒選手の運命やいかに…。誰のための育成制度か?】

 そもそも育成選手とは、現状はプロのレベルに達していないが「鍛えれば化ける可能性がある」選手を指す。例えば、類い稀な豪速球を投げるがコントロールに難のある投手、打撃は良いセンスを持っているが守備は下手な野手などなど。プロの世界で鍛えたいと思わせる、一芸に秀でている選手たちにチャンスを与えたい、ということが“理想論”だった。

 しかし、現実は独立リーグ、大卒の選手だけでなく、高卒から育成ドラフトにかかった選手でも、結果が出ない、見込みが無いと判断されると、短期間で解雇されてきた。

 もちろん、選手生命を断念せざるを得ないケガや、何かしらの事情があるのかもしれない。そうはいっても、育成ドラフトで入団した高卒選手の猶予は余りにも短い。安い契約金と年俸が義務づけられている育成選手契約だが、球団側が「とりあえず指名しておこう」と考えているのであれば、それは大問題だ。

 右も左もわからず、体もまだできていない高卒ルーキーたち、さらにドラフト指名選手よりも足りていない部分があるから、育成ドラフトで指名される選手たちに、そんな過酷な状況で結果を出すことは、かなりハードルが高い。それこそ、無理をして体を壊したら元も子もないのだ。理由があるにせよ、もし高卒選手を短期間で解雇にしてしまうケースが後を絶たないならば、はじめから「育成ドラフトで高卒選手を指名できない」くらいのルールができてもいいほどである。

【西野勇士、千賀滉大、河野元貴ら成功した高卒育成選手たち】

 しかし、高卒で育成契約を結び、そこから成功した例もある。特に今シーズンはそんな選手たちが目立ったような気もする。

 西野勇士(ロッテ)は先発ローテーションを守り9勝をマーク。千賀滉大(ソフトバンク)はリリーフ投手による公式戦連続無失点イニングのパ・リーグタイ記録(34回1/3)を樹立し、オールスターゲームにも選ばれた。前述した河野元貴(巨人)はシーズン終盤に1軍に抜擢され、捕手として一番大事な経験を積むことができた。

 この3人に共通するのは、所属する球団に育成選手へのビジョンがあり、ある程度、長い目でチャンスを与えてくれる点だ。もちろん本人たちのたゆまぬ努力もあるだろう。ロッテは2008年育成ドラフトで入団した西野が開花するまでジックリと待った。千賀の場合はソフトバンクが3軍制を敷いており、独立リーグなどと試合を重ねるなかで登板機会が増え、そこで経験を積み、実力をつけてきた。河野は巨人の編成部から直々に「強化指定選手」として徹底的に鍛えられ、阿部慎之助の後継捕手として大事に育てられている。そういう意味では3人とも運良く、今の球団に入団したといえるだろう。


▲千賀滉大(ソフトバンク)



大切なのは指名された球団の育成方針とチャンスをモノにする力だ


 育成選手に限らず、1軍選手に成り上がるために、最も重要な点は「チャンスをモノにする強い力」だ。

 西野の場合はローテが壊滅状態だったロッテ投手陣のなかで、雨天中止になったゲームに先発した翌日、斉藤明夫投手コーチに「次(翌日)も行きます」と懇願して結果を出した。敗戦処理専門だった千賀は、ファルケンボーグ、森福允彦ら中継ぎ陣の不調で廻まわってきた勝ち試合での登板で好投を重ね、首脳陣の信頼を勝ち取った。河野はWBC日本代表としてチームを離れていた正捕手・阿部がいない間のオープン戦で本塁打を放つなど活躍し、原監督や1軍コーチに名前を覚えてもらった。

 高卒で育成選手契約し、さらにそれから1軍で活躍するということは、相当な“運”と“実力”とそして“強いハート(精神力)”を併せ持っていないと、実現できないのだ。

 今年のドラフト会議終了後に行われる育成ドラフトでは果たして、何人の高校生が指名されるだろうか。「憧れのプロ野球選手になれる!」と舞い上がる前にしっかりと現状を把握して、慎重に、それなりの覚悟を決めてほしいし、またプロ側も指名をするからには、17、18歳の高校生の人生を変える“重さ”をよく考えてほしいと切に思う。


■ライター・プロフィール
鈴木雷人(すずき・らいと)…会社勤めの傍ら、大好きな野球を中心とした雑食系物書きとして活動中。"ファン目線を大切に"をモットーに、プロアマ問わず野球を追いかけている。Twitterは@suzukiwrite

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