6月の高校野球。全国各地で練習試合が再開され、ようやく球春がやってきた。
本来であれば今春、兵庫の好投手として紹介したかったのが、地区屈指の右腕・野島勇太(神戸弘陵)だ。
中森俊介(明石商)や東田健臣(西脇工)など、今年の兵庫は好投手がひしめいているが、野島は昨夏から実戦派として名を上げ、プロのスカウトも注目する逸材だ。
「1年の冬に一気に球速が伸びました。下半身のトレーニングが中心でしたが、ハードルなどのバネ系のトレーニングで体の使い方が変わったと思います」(野島)
野島本人が語るようにフォームはまさにバネを感じるしなやかさだ。最速143キロ、コンスタントに130キロ台後半を投げ込むが、スピンがかかったストレートは実にキレ味鋭い。
その成果は練習試合ですぐに表れた。高校2年の3月、創志学園との練習試合で5回2失点。県外の強豪を相手に手応えをつかむと、夏前にはセンバツ出場の市和歌山から完封勝利を収め、県内の注目を集め始めた。
エースナンバーで迎えた昨夏もクセ者の東播磨を相手に9回4安打2失点で完投。試合は惜しくも1対2で敗れたが、次世代を担う安定感のある投球を見せた。
2年夏からエースナンバーを背負う最速143キロの野島勇太
秋は腕に張りがあり、やや不完全燃焼だったが、12月には兵庫選抜のメンバーにも選ばれ、台湾遠征を経験。冬場に練習を訪れた際にはさらにストレートのキレが増しており、ダークホースになることを確信させた。
同じく兵庫選抜に入った正捕手・上林直輝にも手応えはあった。
「やっぱり中森君はすごかった。球速もすごいけど、構えたところにピタッとくるので、受けていて気持ちいい。東田君もストレートのノビがすごくて、球の威力に押されないように頑張りました。でも野島もピンチのときのギアチェンジやストレートのキレは負けていません」(上林)
170センチ69キロとやや小柄な上林だが、小学生のときから捕手一筋の「ザ・キャッチャー」。試合中は周囲を注意深く観察し、野島以外の投手をリードしても大胆な配球で打者を手玉に取る。超強肩ではないが、セカンドベースの“入り”にピタリと収まる送球も持ち合わせており、易々と盗塁を許さない安定感の塊だ。
投手として、捕手としてセンスあふれるバッテリーが一冬でどう成長するか。それがこの春の楽しみだった。しかし、そこに待っていたのは新型コロナウイルス禍だ。
「休校期間中は体幹トレーニングをしたり、キャッチボールをしたり、できることはすべてやって準備を整えてきました」(野島)
176センチ73キロで大柄ではない野島はやはり実戦で光るタイプ。野島の春を見たいスカウトも多かったはずだ。
「まだ状態を上げている途中ですが、夏は全勝で終わりたい。最高の状態を作ってプロにアピールしたいです」(野島)
代替大会に向けて、ピッチを上げる野島&上林の好バッテリー。その名を轟かせることができるのか。最後の夏に注目したい。
野島とともに兵庫選抜に選ばれた“ザ・キャッチャー”上林直輝
文=落合初春(おちあい・もとはる)