第1回、「高校時代の控えからドラフト1位へ」
第2回、「社会人でのさらなる飛躍」
今年のドラフト会議は、各球団が事前に1位指名を明言せず腹の内を探り合う「隠密ドラフト」だった。そのエアポケットにはまるように、オリックスは「競合必至」と目された即戦力右腕の単独指名に成功。高校時代は3番手格。社会人で花開き、2年連続都市対抗準優勝の原動力になった右腕の軌跡と魅力に迫る。
「社会人で磨いてきた球種」と話すのが、変化球の中ではもっとも投球比率が高いスライダーだ。
社会人に入る前は、「ひねる」意識が強かったが、今は手首の角度を変えるだけにしている。小指をバッターに向けてリリースし、ストレートと同じように腕を振るイメージだ。
「あとは、中指と人差し指でボールの上側にスピンをかける。横ではなく、斜めに曲がるようになりました」
このスライダーを、左打者の外のボールゾーンから曲げる術も身につけた。今夏の都市対抗予選で頻繁に使い、カウント球として重宝していた。試合を見ていると、打者の頭の中にないのかあっさりと見逃している。
「都市対抗の前に投げられるようになったんです。いろいろ試してみた結果、あのスライダーで楽にカウントが取れる。あれを覚えてから、ピッチングがよくなりました」
プロに入れば、数試合でピッチングパターンは分析されるはずだ。この左打者の外へのスライダーがどこまで通用するか、楽しみである。
そして、決め球に使うのがチェンジアップだ。吉田の特徴は左打者だけでなく、右打者にもチェンジアップを投げられること。インコースに沈みながら落ちていく。
「チェンジアップも社会人に入ってからよくなりました。気をつけているのは、腕の振りが緩まないこと。ストレートと同じように腕を振る。勝負球でまだ浮くことがあるので、そこが課題になります」
目標とするピッチャーを聞くと、球界を引っ張った大エースの名前を即答した。
「斉藤和巳さん(元ソフトバンク)です。フォームもすごく参考にしています」
右肩を痛める前は、球界を代表するエースとして活躍し、2003年から4年間で64もの白星を積み重ねた。足を上げた時のシルエット、体重移動の仕方など、斉藤を意識してきた部分も多いそうだ。
斉藤といえば高速で落ちるフォークが思い出されるが、吉田はフォークをほとんど投げていない。昨年、練習するも「かぶせようと」したために、右肩を痛めてしまったという。そのかわりに磨いたのがチェンジアップだった。
プロでも「先発として」との思いが強い。先発でいかにゲームを作るか。その日の調子に関わらず、マウンドに上がった時には結果を出す。それが、先発の仕事、役目だと思っている。
「調子で野球をやるな」
今でも心に強く残る言葉である。
社会人で発揮した安定感を、プロでも見せることができるか。ドラフト会見時に語った目標は、「開幕1軍で10勝」。1年目から、先発陣の柱として大きな期待がかかる。
(※本稿は2013年11月発売『野球太郎No.007 2013ドラフト総決算&2014大展望号』に掲載された「30選手の野球人生ドキュメント 野球太郎ストーリーズ」から、ライター・大利実氏が執筆した記事をリライト、転載したものです。)