わたり&高森ベイバナ!《前編》僕らは「木塚」でつながっている
村瀬:「わたり&高森のベイバナ」。平日ど真ん中の水曜日にベイスターズとは何の縁もゆかりもない歌舞伎町でのトークライブは、水曜日が「もつ鍋わたり」の定休日であり、この後、歌舞伎町でわたりさんが飲むからです。
中野渡:どうも。今日はベイスターズの話はしません。木塚(敦志)の話だけしてさっさと帰ります。出てこい、キーちゃん。
高森:(木塚投手の投球フォームで登場)……どうも。
中野渡:……いいじゃねぇか。俺は高森と現役時代かぶっていないんだけど、キーちゃんのモノマネをYoutubeで見て知ってさ……久々に笑ったね。木塚本人にも『高森はどんな奴だ?』って聞いたんだけどよ『真面目で可愛い奴ですよ。僕のモノマネをやってくれているんです』って。公認だもんな。
高森:ありがとうございます。この前も横須賀に行ったんですけど、木塚さんに会うなり「どう? やってる?」って言われまして。その後、コーチ室で山下(大輔)2軍監督に挨拶したら「おぉ、じゃあ早速真似やってくれよ」って。早速ってなんすか? モノマネしにきたわけじゃないですよ…。
村瀬:わたりさんの時代の選手も、木塚さんのモノマネは相当やられていたみたいですけど。
中野渡:みんなよくやってましたよ。小宮山(悟)さんとか野村(弘樹)さんとかベテランがマネするんだけど、全然似てないのよ。あの独特の深いセットポジションは前足にかなり負荷が掛かるから、できねぇんだよな。高森は若いからグッと腰が入って…いいねぇ。
高森:ありがとうございます。光栄です。
どうすればベイスターズはCSに出られるのか?
高森:今年、惜しいところまで行きましたけど、そもそもずっと最下位だったチームがいきなり強くなるほど甘くないですよ。シーズン前に琢朗さん(石井/広島コーチ)とお話した時も『今年の横浜は怖いよ』と言っていたんですよ。『何が怖いんですか?』って聞いたら、「ブランコ」って。それ以外は怖くないってことですよ。これまでの横浜はぬるま湯の体質でしたから、そこにブランコという熱湯を1滴垂らしたところでぬるま湯に呑まれてしまう。全体を熱くしなければいけないんです。ただ、今年の戦いで足掛かりは作ったとは思います。あと一歩、というところまで来て、悔しさを知った選手たちが来年どう戦うか。いい戦いになるとは思いますよ。ドラフトで松井君(裕樹/桐光学園)が獲れればですけど。
村瀬:なるほど。わたりさんはどうですか?
中野渡:今年で僕が辞めてちょうど10年になるんですけど……まぁ、その時から横浜は腐りきってましたからね。腐ったものは一度捨てなけりゃならない。会社が変わっても、中身は変わっていない。そんな中でも戦っていくのであれば……やっぱり木塚を現役復帰させる。そこだけです。年間30試合ぐらいに留めてくれれば、あと8年ぐらいはできます。
高森:この前、横須賀でひちょりさん(森本稀哲)のバッピ(バッティングピッチャー)をやってましたけど、インハイとアウトローしか投げていなかったです。打たせようなんて気はさらさらないです。
中野渡:だろ。やっと疲れが抜けてきて、今いい球がいってるって。
ベイスターズ選手掛かりつけの名医
中野渡:俺がヒジの手術した病院な。看護婦が激ブスすぎて手術して2日で退院してきたんだけど、あそこには名物の先生がいてな。おじいちゃんなんだけど、注射をうつ前に全部薬剤出しちゃうような感じでさ、肘の幹部に×印を付けて注射するんだけど、手が震えちゃって全然違う肩とかに刺さる。でも、不思議と肘が治っちまう。神業だよな。あれは。
高森:僕もお世話になりましたね。キャンプではじめて一軍に合流する時に首を寝違えてしまって、その先生に掛かったんですけど、やっぱり注射の時に“×印”を首筋につけられたんです。ベイスターズの選手の間でもその先生に“×をつけられたら最後”と聞いていたんで、うわー怖い怖いと思っていたら……バッチリ治ったんですよ。すごいですよね。名前とか全然憶えてくれないんで7回ぐらい自己紹介しましたけど……。
中野渡:ベイスターズの選手は皆あそこに世話になっているからな。佐々木(主浩)さんとその先生で救急車に乗ってカツ丼食べに行ったってのは有名な話だろ。
高森勇旗「期待の若手」
村瀬:高森さんは現在多方面で活躍しておりますが、ライターとして今年一年取材活動された中で、目についた若手選手を発表していただきたいと思います。わたりさんは高森さんの論評を評論してください。
中野渡:知ってる人にしてね。
高森:そうですか。それではまず、中日の吉川(大幾)選手。1年目のフェニックスリーグで見た時は、身のこなしも素晴らしい。足も速い、バッティングもいい、内野にコンバートされても動きがいいと感じていたのですが……。
中野渡:おい、ちょっと待てよ。横浜の若手じゃないのか? ベイバナだろ? マジメか!
高森:あ……ハイ。スイマセン。えっと、ベイスターズなら…乙坂(智)ですよね。乙坂のメンタルは凄いですよ。普段は至って真面目な奴なんだけど、ゲームに入ると話し掛けることも躊躇われるほど集中するんです。スイッチが入るというか、一昨年のロッテ戦で、インコースのボールをセーフティー(バント)しにいって、避けて自分で転げてしまったんです。そしたら、「おいっ!」って言って、ピッチャーの方へ歩いて行ったんですよ。高卒1年目ですよ。ロッテベンチは騒然となって「なんじゃお前は!」となったんですけど、そんなロッテベンチに向かって更に中指を立てるんです。尋常な闘争心じゃないですよね。
1年目の後半には、内野と外野の間にフラフラと上がった打球を追って、ショートの大原淳也さん(現・香川オリーブガイナーズ)と衝突して、膝が思い切り頭に入ってしまったんです。でも、あいつ、倒れないんです。気質がヤンキーですから「倒れる」ということにすごい抵抗感があるんですよ。立っていられないぐらいの衝撃のハズなのに、無理して立ってるけど目の焦点が合ってない。「おいっ! 座れ座れ!」って皆言うんですけど、背中が着いたら負けなんでしょうね。担架が来ても、『やめてください絶対乗らないです』って断固拒否する。最後にはコーチの中根(仁)さんが怒って『いいから乗れ!』って無理やり乗せられるんだけど、それでも担架の上で座ってるんです。あいつ寝るのが負けと思っているみたいですね。面白い選手ですよ。
中野渡:面白ぇじゃねぇか。……あとでYoutubeで見るわ。
俺の給料は「ティネス」から出ていた
中野渡:俺の時代は、高い給料をもらっている巨人の選手を抑えて、そいつらから金を獲れって教えられていたからな。遠藤(一彦)コーチの福島なまりで。
高森:わたりさんが現役当時の巨人打線といえばミレニアム打線と呼ばれた、4番打者揃いの打線ですよね。清原(和博)さん、松井(秀喜)さん、(高橋)由伸さんに江藤(智)さん、二岡(智宏)さん、仁志(敏久)さん、清水(隆行)さん…すごい打線ですよね。
中野渡:あとティネスな。
村瀬:ティネスって誰ですか?
高森:マルティネスです。でもその話を聞いて、二軍ばかりだった僕はどこから給料が出ていたのかと考えたんですけどね。ずっと小林太志さんに言われていたんですよ。『オマエの給料の半分は野球教室で、半分はモノマネだからな』って。試合前に野球教室をやったり、負けが込んでチームが暗い時に、試合前のロッカーで、ノリさん(中村紀洋)のモノマネやって選手にバーッと笑って貰うと、太志さんが必ず言うんです。「おっ、今日は給料分稼いだな。もう帰っていいぞ」って(笑)。
村瀬:そんな高森さんですが、ここまで話してみてどうですか?
中野渡:まぁ……俺とは真逆だよな。ただ、現役じゃあたいして活躍もしてねぇのに、野球が終わってもこういう風に応援してくれる人がいてよ、野球界に携わって生きようとしているのは、純粋に頑張ってほしいと思うよな。こういうマジメにやってる子たちが、セカンドキャリアでちゃんと食える野球界になってもらいたいね。逆に俺なんかと一緒にこういうトークショーをやったらよくないと思うんだけど、まぁこういう繋がりがあったんだから、これを機に、何か俺で力になれることがあれば言ってこいよな。俺たちは木塚で……絆ではなく木塚で繋がっているんだからな。
(後編に続く)
中野渡進(なかのわたり・すすむ)…1976年生まれ、東京都出身。東海大菅生高〜三菱自動車川崎〜横浜。99年ドラフト7位で横浜に入団すると、2年目の2001年に63試合に登板し、5勝1敗、防御率2.61。同期入団の木塚敦志(現コーチ)と馬車馬のようにリリーフで活躍。故障の影響もあり03年に引退後は東京・国分寺に「
もつ鍋わたり」をオープンした。もつ鍋、水炊きは絶品。
高森勇旗(たかもり・ゆうき)…1988年生まれ、富山県出身。岐阜・中京高〜横浜。2006年高校生ドラフト4巡目で横浜に入団。2年目の08年にイースタン最年少のサイクルヒットを記録。09年にはイースタンで打率.309、15本塁打、1軍でも2試合に出場し、1安打をマークした。12年に戦力外通告を受け、引退後はスポーツライターとして
『野球太郎No.006』でデビューした。
村瀬秀信(むらせ・ひでのぶ)…1975年生まれ、神奈川県出身。出版社・編集プロダクション勤務を経てライターとして独立。幼少期から大洋・横浜ファンで、多くの関係者に取材した著書
『4522敗の記憶 ホエールズ&ベイスターズ涙の球団史』(双葉社)が大ヒット。『Number Web』で連載中のコラム「野次馬ライトスタンド」は読者から多くの支持を受けている。『野球太郎』では「ドラフト最下位指名選手」を連載中。
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