「解説を難しいと思ったことはないですね」 実況中継の裏側を探るべく里崎智也氏にインタビュー!
「解説を難しいと思ったことはないですね。毎回、楽しくやらせてもらっていますよ」
「野球を伝える声」の裏側を紹介するこのコーナー。今回は“解説者”里崎智也さん(元ロッテ)に登場いただく。2014年限りで現役引退。つまり、昨季が「解説者1年目」だったわけだが、その1年を振り返って出たのが冒頭の言葉だった。
解説を「楽しい」と言い切るその理由とは? 既存の野球中継や野球用語への疑問など、“里崎節”全開のインタビュー、前編をどうぞ。
頭の中で考えていたことを、そのまましゃべるだけ
千葉ロッテひと筋16年。2005年と2010年の日本一に貢献したほか、北京五輪や第1回WBCでも主力として活躍した里崎氏が現役を引退したのが2014年。翌15年からは、ニッポン放送、千葉テレビ、日刊スポーツを中心に「野球解説者」としてのキャリアをスタートさせた。
「でも、解説者の仕事って、ある意味では現役時代と変わらないんですよ」
里崎氏は語る。自身がキャッチャーとして球を受けながら、投手のことや打者、ランナー、監督、球場、カウント状況、試合の流れなど、あらゆることを想定して、自分なりに解釈・分析し続けてきた。その頭の中で考えていたことを、そのまま喋れば、立派な野球解説となるのだ。
「だから、悩んだりすることなく、楽しくできる仕事といえます」
里崎氏にとっては“楽しい”解説の仕事。そのため、予想もしなかったハプニングや、トラブルも全くなかったという。
「想定外なんてないですね。もし実況アナウンサーに何かトラブルがあったとしても、僕が一人で喋れば何も問題ないですから。ラジオのDJもやっていますし、むしろ『俺に任せろ!』と言いたいくらい。だって、喋りたいんだから(笑)」
『居酒屋解説』になったら解説者を辞める時
解説は楽しい仕事。想定外もハプニングもない! と即答する里崎氏。だからといって、決してこだわりがないわけではない。現役時代同様に解説業を“分析”したことで導きだされた「里崎ルール」があるという。
「結果論でモノは言わない。これを心がけています。僕がもしキャッチャーだったら、バッターだったらこの場面ではこうするけど、選手は何を選択するのか? そこまで言うんです」
例えば、速球派投手を攻めあぐねている、と感じれば、『ストレートを<1、2の3>でいいから狙っていくべき』変化球でカウントを整える投手に対しては『変化球に山を張って打つのも手ですよ』といった具合に、現状を分析し、こうなっているからこうしたほうがいい、という結論をふまえた解説を心掛けているという。
もちろん、起きた結果についての解説をしなければならない場面もある。それでも出来る限り、結果論では終わらない解説をしたい! と言葉を続けた。
「何か起きてから喋っているようじゃ、居酒屋の野球談義と一緒! だから、『居酒屋解説』になったら解説者を辞める時だと思っています」
里崎智也の「ここが変だよ、野球解説用語」
結果論に終始する解説に違和感を感じていた、という里崎氏。他にも、野球中継で当たり前のように使われているフレーズで気になるものがあるという。「ここが変だよ、野球解説用語」その一部を紹介してもらった。
《2ストライクから打たれたら、もったいない》
「もったいなくないカウントなんてあるんですか? と問いたいですね。『もったいないから一球外した方がいい』と続くことが多いんですけど、僕からしたらそっちの方がよっぽどもったいない! わざわざ1ボール2ストライクにする意味なんてないと思うんです。打者一人につき、一球ずつ余計に外したら、1試合で最低でも27球も余計に必要です。投手からしたら、そっちのほうがもったいないですよ」
《ここは強気に攻めてもらいたいですね》
「“強気”って曖昧な表現ですよね。仮に[インコースにストレート=強気]という定義でも、その球でホームランを打たれた場合、『いやあ、ホームラン打たれましたけど、強気なリードで良いですね』とは言えないじゃないですか」
《ここは丁寧にやってもらいたい》
「丁寧とは反対の、雑なリードはあるんですか? と。キャッチャーはいつも丁寧にやっています。仮に[丁寧なリード=アウトコース低め]だとしましょう。でも、それを投げられるかどうかは、ピッチャーの問題。選手はTVゲームのように、コントローラーを持ってプレーしているわけではないですから。そういう細かいコントロールができるかどうか、そのピッチャーの技術について語るべきだと思います」
《ここ、初球から打ってきますよ》
「初球から打ってくるかどうかは、観ているお客さんもわかってますよね。じゃあ、どうすればいいのか。僕が解説者であれば、『この場面、バッターは初球から打ってくるので、ピッチャーは勝負球、もしくはワンバンになるくらいのフォークから入ったほうがいいですよ』まで言います」
止まらない、野球中継への提言・直言。今年からはテレビ・ラジオの仕事に加えて、オンラインコミュニティ「乾杯!ほろ酔いプロ野球部」の部長にも就任し、野球ファンと積極的な交流も図っている。4月21日には新企画「里崎智也のプロ野球語り呑み」で仁志敏久氏(元巨人ほか)とのトークイベントを開催するなど、「乾杯!ほろ酔いプロ野球部」での活動はさらに賑わいをみせている。
※「里崎智也のプロ野球語り呑み」について、詳しくは「乾杯!ほろ酔いプロ野球部」が運営する専用のホームページ(http://bukatsu.hikaritv.net/campaign/0014/)へ
「『里崎智也のプロ野球語り呑み』でも、それ以外でも画期的な面白い企画を考えています。野球界の間違った常識を正していくのが僕の仕事。アイデアはいくらでもあるので、それをどんどん世に出していくだけ。とにかく新しいことがやりたい。二番煎じが一番つまらないですからね」
常に好奇心旺盛な里崎氏。紹介したイベントでは、インタビュー以上の歯に衣着せぬ野球トークが聞けることは間違いない。さらに元プロ野球選手との会話が実現するからこそ、ワンランク上の野球談義を体験できるはずだ。
(後編に続く)
取材・構成=オグマナオト
1977年生まれ、福島県出身。広告会社勤務を経てフリーライターに転身。「エキレビ!」「R25」などでスポーツネタを中心に執筆中。『木田優夫のプロ野球選手迷鑑』(新紀元社)、『高校野球100年を読む』(ポプラ社)では構成を、『漫画・うんちくプロ野球』(メディアファクトリー新書)では監修とコラム執筆を担当している。著書に『福島のおきて』(泰文堂)、『爆笑!感動! スポーツ伝説超百科』(ポプラ社)。Twitterアカウントは@oguman1977
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