多くの都道府県は立地や地勢、あるいは江戸時代の「藩」の歴史を背景に、いくつかの大きな地方・地域に分けられる。それらの地域はさらに複数の自治体に分かれる。こうした地方・地域・自治体単位の悲願があるのだ。
昨夏、長年の悲願をついに成就させて甲子園に出場した千葉の専大松戸は、松戸市から初となる甲子園出場校だった。東京のベッドタウンでもある松戸市は人口約48万人。これだけの規模の都市で甲子園出場校がないというのは全国的にも珍しかった。
また、2006年、春夏連続で初出場を果たした八重山商工は、石垣島から初の甲子園と騒がれた。かつては同じ島の八重山が夏の沖縄大会決勝で敗れたこともあるなど、島の高校野球関係者やファンにとって、甲子園出場はまさに悲願。こいった例が「地域の悲願」である。
「地域の悲願校」の典型が北海道の稚内大谷だろう。北海道の高校球界は10の支部(地区)に分かれ、全道大会や南北・北海道大会は、まず支部予選を勝ち抜くことから始まる。この支部の中で、実はひとつだけ、まだ甲子園出場校を輩出していないのが、稚内大谷が所属する名寄支部なのである。
そんな地域の期待を背負って1980年代から稚内大谷は3度、北北海道大会の決勝に進出するも、すべてサヨナラ負けで散るという悲劇を味わってきた。
近年はやや低迷していたが、今春はセンバツ出場の札幌第一に敗れたものの1点差ゲームを演じるなど、状態は復活ぎみ。かつては支部内公式戦100連勝も記録したことのある、まさに「北の雄」なのだ。
学校のある稚内市の宗谷岬から見える海の北は礼文島、そしてロシア。甲子園出場となれば最北の代表校となることは確実である。ロマンあふれるこの悲願校、甲子園の土を踏むことは果たしてできるか?
八戸学院光星、青森山田の2強が君臨。そこに弘前学院聖愛や八戸工大一が絡む青森県で、覚えていてほしい悲願校が大湊。実は八戸学院光星、青森山田がまだ甲子園出場を果たしていない頃から県上位に進出していた県立校で、2009年夏準優勝、2012年夏は4強と、今も青森の実力校の一角である。
学校があるのは下北半島にあるむつ市。そう、大湊は「下北半島から甲子園へ」という期待も集める存在なのだ。
西日本で「地域の悲願」を集めるのは沖縄の宮古だろう。冒頭で八重山商工に触れたが、同じ沖縄の離島勢で石垣島と並んで規模が大きいのが宮古島だ。
しかし、いまだ甲子園出場校は出ていない。野球以外も含め、石垣島に対するライバル意識は強いはず。宮古、あるいは宮古総合実業は、そんな島の期待を背負う存在といえよう。
高校野球は人々の地域ナショナリズムや郷愁を刺激するのが人気の理由のひとつ。「地域の悲願」を背負う悲願校は、まさにそういった点が色濃く出た存在ともいえるのである。
文=田澤健一郎(たざわ・けんいちろう)