最後まで隠し玉にしておきたかった。だから、春の『野球太郎』にも地方大会前の『野球太郎』でも隠しておいた。10月のドラフト特集号でさりげなくポンと名鑑に挙げて、オッ! と思ってほしかった。そんな隠れた逸材が投手で一人、野手で一人、今度の甲子園に勝ち進んだ。
日川高・山田基樹投手(3年・194センチ88キロ・右投右打)は、この春まではまだ恐る恐る投げている投手だった。194センチの超・長身だ。おそらくはコントロールを気にしてのことだったのだろう。そのピッチングは、楽しそうにも快適そうにも見えなかった。そのわりに、体を持て余しているようにも見えない。むしろ、器用というか、優れたボディーバランスのほうが光って見えた。全力で腕が振れるようになったら、ガラッと変われるな…。関東では期待の<一番星>になっていた。
この予選で見た山田投手は、別人の印象だった。ヒョロッと背が高いだけのユニフォーム姿に厚みが加わって、マウンドでの動きがかっこよくなっていた。腕が遠慮なく振れるようになって、スピードもコンスタントに140キロ前後をマークして、そのピークは146キロにまで及んだ。
いちばん変わって見えたのが、そのピッチングスタイルだ。外、外を突いてカウントを苦しくしていたのが、打者の懐を突けるようになった。内を突けば、ボール球を振って打ち損じを誘うケースが増え、ピッチングのテンポが軽快になって本人も投げることを楽しく感じて投げているように見えた。
「山梨のダルビッシュ」。すぐそういうことを言うのが、今の新聞の軽はずみなところだが、この投手に限ってはその片鱗を認めよう。ただし、あくまで片鱗である。ダルビッシュ有(レンジャーズ)なら頭脳とハートだ。打者を推理しながら、ピンチにも全力投球で打者と闘えるメンタリティー。甲子園の本番でどんなパフォーマンスを見せてくれるのか。この大会いちばんの楽しみである。