野球界における元祖神様は「打撃の神様」こと川上哲治(元巨人)だろう。1958年を最後に引退するまで2351安打を積み重ね、プロ野球史上初となる2000本安打も達成している。一時は赤色のバットを使用していたことから「赤バットの川上」とも呼ばれた。
川上の現役最終年の1958年は長嶋茂雄のルーキーイヤーにあたる。1年だけではあるが「打撃の神様」と「ミスタープロ野球」がチームメイトとしてプレーしていたのだ。
現役引退後の川上はコーチを経て巨人の監督へ就任。伝説的な強さを見せ、プロ野球史に燦然と輝くV9を達成した。「打撃の神様」は監督となっても神がかりてきな強さを誇っていたのだ。
今から11年前となる第1回、2006WBCでは日本代表の川崎宗則(当時ソフトバンク)が決勝のキューバ戦で「神の手」と称される絶妙なスライディングで魅せてくれた。
6対5と日本が1点リードして迎えた9回表。1死一、二塁の場面でイチロー(当時マリナーズ)が一、二塁間を抜けるヒットを放つ。二塁走者の川崎は微妙なタイミングではあったが三塁を蹴り本塁へ突入。キューバの右翼手から好返球が返ってくるが、川崎は一瞬、捕手の股下に右手の指先を潜らせベースに触れた。
テレビで観戦していてもアウトかと思われたが判定はセーフ。リプレイ映像では川崎の指先がホームに触れていることが確認できた。実況のアナウンサーと解説者が「審判がよく見てくれました」と語るほどの際どいプレーだった。
ボブ・デービッドソンの誤審がクローズアップされる2006WBCだが、決勝ではナイスジャッジが生まれていたのだ。まさに一瞬の判断で得点をもぎ獲った「神の手」と呼ぶにふさわしいプレーだった。
田中将大(ヤンキース)の楽天入団1年目の2006年。3試合連続でKOされたものの味方打線の奮起もあり黒星がつかなかった。この幸運な巡り合わせについて、楽天の野村克也監督は「マー君、神の子、不思議な子」とコメント。田中は野村監督によって「神の子」となった。
それから7年が経った2013年、田中は破竹の24連勝を記録し「神様、仏様、稲尾様」こと稲尾和久(元西鉄)の開幕20連勝を更新。「神の子」が「神様」稲尾の記録を超えたのだ。
またタレント界からも、野球の「神」がやってきた。CMで見せたパワフルなスイングから人気に火がついた稲村亜美。彼女のスイングは「神スイング」と呼ばれている。
学生時代には野球をやっていただけあり、そのスイングは美しい。現在は様々な試合での始球式の登場し、100キロ近いストレートを投じている。CS番組『プロ野球ニュース』のMCも務めるなど、まさに「神スイング」をきっかけに神がかり的な人気を得たと言っていいだろう。
今シーズンはどんな神が現れるのだろうか。2017WBCが始まり、プロ野球開幕もすぐそこに迫っている。新しい神様の降臨を楽しみにしたい。
文=勝田 聡(かつたさとし)