「8番ショート鳥谷」
甲子園球場にスターティングメンバーがコールされ、スタンドがどよめいたのは、5月21日の広島戦だった。
8番への降格。
金本監督が鳥谷を再度奮起させるための苦汁の決断とも受け取れるが、この降格が、本来の調子を取り戻すための起爆剤になるとは、金本監督自身も確信しているようには思えない。
阪神入団以来、誰よりも早く球場入りし、個人練習で自らを鍛え上げてきた鳥谷。人一倍努力する姿は、金本監督が現役時代に歩んできた道と同じだ。
ゆえに金本監督が、現在、もがき苦しんでいる鳥谷の一番の理解者であると言ってもいいだろう。
また、連続フルイニング出場を続ける鳥谷には、自分との戦い、相手チームとの戦い、そして結果を出すことで、連続フルイニング出場を周囲に認めさせる戦いがある。
言うまでもなく、これも金本監督が現役時代に歩んできた道と、全く同じだ。
バッティングだけでなく、守備においても、今年は鳥谷らしくないプレーが目立つ。
金本監督に「フライが取れないようでは野球にならない」と酷評された、5月17日の中日戦で起きたプレー。スパイクが甲子園の天然芝にひっかかったとはいえ、イージーフライを落とすことは、試合の流れを変えてしまい、試合を落とすことにつながることは、鳥谷自身が一番理解しているはずだ。
ほかにも捕手・原口文仁からの二塁への好送球をファンブルするなど、まさかのプレーは、鳥谷自身の健康状態を心配する声もあがるほど。
筆者は最近の鳥谷のプレーを見て、ある阪神OBの言葉を思い出した。
「40を過ぎると、インコースが見えなくなる」
内角のボールは、ぼやけ、時には視界から消えると言うのだ。視力の低下によるものだ。
鳥谷はまだ34歳。決して40歳を過ぎたわけではない。しかし、視力の低下は個人差があり、必ずしも年齢に準ずるものではない。
2007年オフにレーシック手術を受けた鳥谷なら、10年近くたった現在、その後の経過が心配ではある。
開幕からここまで若手選手が台頭し、超変革が着実に進みつつある阪神。原口文仁、高山俊、板山祐太郎など、若手選手の活躍はチームに活気をもたらしている。
だがシーズン後半戦になれば、福留孝介や、藤川球児などの優勝経験を持つベテラン選手の力は欠かせないはずだ。
「お前が変わらなければチームが変わらない」と、鳥谷への叱咤激励で始まった「超変革」は、背中で後輩たちを引っ張る鳥谷敬が完全復活し、グラウンドで躍動してこそ本当の変革となりえる。
文=まろ麻呂
企業コンサルタントに携わった経験を活かし、子供のころから愛してやまない野球を、鋭い視点と深い洞察力で見つめる。「野球をよりわかりやすく、より面白く観るには!」をモットーに、日々書き綴っている。