先日、ニューヨーク・ヤンキースタジアムで行われた松井秀喜の引退セレモニー。
「久しぶり」と声をかけたイチロー。
「今日はチームメイトですね」と返した松井。
NYヤンキースというアメリカの象徴で、日本の象徴である二人の野球人生が遂に交錯した日、私の脳内では全く別のやり取りが交わされたのをここに白状したい。
「お前んとこの親父さんも、カレー売り出したんだって?」とイチロー。
「そうなんですよ。おなじカレーメイトですね」と返した松井。
前回、松井秀喜の父・松井昌雄氏監修によるレトルトカレー「松井家秘伝のカレー」が新発売されたことを紹介した。ところが、さかのぼること2年前から、イチローの父・チチローこと鈴木宣之氏もレトルトカレーを販売していたというから驚かされる。ニューヨークとカレーで交錯する二人の人生。なんとも運命的である。
イチローといえばカレー。
こんな図式ができあがったキッカケは、2008年の1月に放映されたNHK「プロフェッショナル 仕事の流儀」。
2002年の渡米以来、自宅のあったシアトルでの朝食は、いつも弓子夫人の手作りカレーだと報じられ、瞬く間に「イチローカレー」が注目を浴びた。
実際にはその後、朝はカレーではなくそうめんに代わったらしいのだが、それでも多くの人がイチローの朝食といえばカレーをイメージし、そのうちどこかが商品化するのでは? と思っていた。まさか実家がやってしまうとは……。あまり日の目を浴びていないのは、名古屋地区限定発売だから。しかし、通販でも購入できるのがありがたい。
この商品、アメリカでイチローが食べていたカレーがモチーフではなく、あくまでもイチローが少年時代に食べていたカレーの味を、父・宣之さんと母・淑江さんの監修の元に再現したカレーだという。なるほど。だからパッケージのどこにも「鈴木家」や「チチロー」の文字はあっても「イチロー」の文字が入っていないのか。
しかし私は、パッケージの中に記された「隠し味にはにんにく、ウスターソース、しょうゆ、そしてインスタントコーヒー」の文字を見逃さなかった。実は以前、弓子夫人の作る「イチローカレー」のレシピをあるテレビ番組で紹介していたのだが、やはり隠し味に使われていたのが“にんにく、ウスターソース、しょうゆ(土佐醤油)、インスタントコーヒー”だったのだ。
母・淑江さんから妻・弓子夫人に伝承された「鈴木家」の味なのか。はたまた、イチローの好む味を求めていった結果として似てしまったのか。真相はルーの中だが、少年イチローがこのカレーを食べ、そしてバティングセンターに通い続けた日々を想像して食べてみるのも悪くない。
日米通算4000本安打がいよいよ間近に迫ったイチロー。その原点の味がここにあった。