プロ野球選手の必殺技をクローズアップする本連載『これぞ名人芸。プロ野球必殺技列伝!』。今回はあまり注目されない左翼の守備を取り上げたい。
日本プロ野球界におけるゴールデン・グラブ賞では外野手3人と規定されている。MLBのゴールドグラブ賞はライト、センター、レフトに分かれているが、日本では自然と中堅、右翼中心の選出になってしまう。
そもそも左翼の守備は軽視されがちだ。現役で名手を挙げるとすれば、金子侑司(西武)だろう。長い髪をなびかせて、左翼を駆ける姿は、まさに颯爽としているだが、それは秋山翔吾が中堅に固定されていた事情もある。秋山がメジャー移籍した今季は中堅を務める予定だ。なぜ、金子がゴールデン・グラブ賞を受賞できなかったのかと一部では議論されたが、詰まるところは「左翼だから」ではないだろうか。
1990年代から2000年代にかけてオリックスやメジャーで活躍した田口壮が左翼守備の名手として挙げられるが、メジャーでも中堅を守る身体能力の持ち主で、オリックスで左翼に就くケースは中堅手に本西厚博もしくは谷佳知、右翼手にイチローという組み合わせだけに、“正左翼手”と言い切れるかは微妙なところだ。
現役プロ野球選手で「左翼らしい左翼」を挙げるならば、やはり中村晃(ソフトバンク)だろう。
これまでゴールデン・グラブ賞の受賞経験はなし。どちらかといえば、卓越したバットコントロールと高い出塁率が注目されがちな選手だが、左翼の守備は玄人を唸らせる絶品だ。
特に左翼特有のフェンス際へのハイフライへの対応は右に出る者はいないだろう。優しく体をフェンスに預けながら、柔らかく正確にキャッチできる。難しい“壁際”をクールに捕る姿は「職人」そのものだ。
また、スライディングキャッチも非常に柔らかい。ここで発揮されているのが「左投げ」だ。左翼にコンバートされた選手が悩まされるのが、三塁線方向に曲がるいわゆる「フック」だ。しかし、三塁線側の右手にグラブがある中村はナチュラルに落下点に入ることができる。ズバリ、左投げの旨味を体現している。
メジャーではアレックス・ゴードン(ロイヤルズ)が左翼で7度のゴールドグラブ賞を獲得しており、名手として知られるが、こちらは右投げでダイナミックな守備が光る。ただし、柔らかさという点では、中村晃も決して負けない味がある。唯一、大敗しているところを挙げるならば、肩の強さだ。
ちなみに今季、巨人に加入したヘラルド・パーラは2011年に左翼、2013年に右翼でゴールドグラブ賞を獲得した実力者だ。オープン戦では右翼で起用され、メジャー級の超強肩を披露しているが、左投げかつパワフルな左翼守備はあまり日本ではお目にかかれない。
引き続き、右翼での起用が濃厚だが、シーズンに入れば左翼に回ることもあるかもしれない。左翼での名人芸にも期待したい。
文=落合初春(おちあい・もとはる)