2月後半から4月後半にかけては、ある選手たちにとっては最も辛い時期となる。そう、「花粉症」に苦しむ選手たちだ。
現在は治療法が進化し、市販薬を含め薬でもある程度緩和できる。しかし、プロ野球選手になるとドーピング違反となるリスクがあることから簡単に薬に頼るわけにはいかない。
そのために花粉症を我慢しながら試合を戦うことになる選手も多く、それがスランプの原因となる選手もいる。
プロ野球史上初となる勇退発表後の日本一に輝いた秋山幸二前ソフトバンク監督は、現役時代に「ミスターメイ」という愛称で呼ばれていた。
これは4月の開幕直後は花粉症によりスランプに近い低空飛行が続き、5月になると本来の調子に近づくことで成績が上昇。その成績の急上昇ぶりからついたニックネームだ。
秋山は現役時代に3度の月間MVPを獲得しているが、そのうち2回は5月の受賞だ。花粉症の時期が終わったことが、受賞に繋がったともいえそうだ。
また、秋山にはプレー以外でも「4月」にまつわる面白いエピソードがある。
現役引退後の2003年秋、福岡県築上町が数学者の秋山仁氏と間違えて、なんと秋山に中学校での講演会をオファー。しかし、秋山は「オファー違い」を快諾し即席で「代打講演会」を行った。
その12年後となる2015年4月、築上町が今度は正式にトークショーをオファー。秋山は当時を懐かしみながら再び講演を行った。現役引退後ということもあり、このときは「花粉症の4月」をはねのけ、拍手喝采のトークを披露。現役時代のスランプとは無縁の結果を見せた。
高校時代には甲子園での「5打席連続敬遠」が社会的な騒動となり、プロ入り後は日米通算507本塁打を放った「ゴジラ」こと松井秀喜(元ヤンキースほか)。松井は花粉症を公言しており巨人時代、メジャー時代ともにシーズン序盤は苦しんだ。
それは「花粉症でない松井を見たかった」という声も聞こえるほど成績に影響を与えた。
杉の少ないアメリカでは花粉症も少ないといわれるが、実際は違い、ヤンキースのスプリングトレーニング地であるタンパでは花粉症が猛威をふるった。ある年は鼻の中に花粉症対策のクリームを塗るなどの対策を施したが効かなかったほどだ。
アメリカでは杉は少ないもののブタクサ、グレープフルーツ、オレンジなどの花粉が飛散している。タンパのあるフロリダでスプリングトレーニング中に行われるリーグは「グレープフルーツリーグ」と呼ばれているが、これはフロリダ州の特産品がグレープフルーツであることに由来している。このことからもグレープフルーツの花粉の飛散量の多さが想像できるだろう。
「元祖怪物」こと江川卓(元巨人)も現役時代、花粉症に悩まされた。江川の現役初期にあたる1980年頃から日本では花粉症が認められているが、現在のように一般的ではなかった。そういう物珍しさもあってか、スポーツ紙などには江川の花粉症についての詳細が載ったほどだ。
「スピードガンの申し子」と呼ばれた小松辰雄(元中日)も花粉症に悩まされた。そのために扁桃腺を除去する手術も行っている。
このように、花粉症で悩まされ開幕直後の成績が上がらない選手は数多くいるのだ。春先の調子が上がらない選手はスランプの原因が花粉症にあるのか、それともほかにあるのか見極めが必要になる。
花粉症疑惑の選手が屋外球場で試合をする際は、当日の花粉飛散情報のチェックも大事だ。
文=勝田 聡(かつたさとし)