今シーズン、本塁打が激増している。6月30日終了時点でセ・パ両リーグあわせて888本。昨年の同時期は797本だったことを考えると、実に91本も増えていることになる。
今シーズンからロッテの本拠地であるZOZOマリンスタジアムにホームランラグーンが設置され、球場が単純に狭くなった要因もある。しかし、それだけではないだろう。この本塁打激増の理由について本誌『野球太郎』編集部の持木秀仁編集長とカバディ西山に話を聞いてみた。
──今シーズンは本塁打が増えています。ZOZOマリンスタジアムの改修などの要因はありますが、それ以外にも思い当たるフシはありますか?
持木:今、坂本(勇人、巨人)が本塁打を量産していますよね。坂本は首位打者をとっていることからもわかるとおり、コンタクトする力はもともとあります。そこから先、長打をどう打つのかを追求した感があります。
カバディ西山:昨年の秋山(翔吾、西武)や宮崎(敏郎、DeNA)もそうですが、「ヒットは打てる」という選手たちがコンタクトする技術を失わずに長打を打つ工夫をしているのかなと。かつての福留(孝介、阪神)や、ボールの違いがあったにせよ青木(宣親、ヤクルト)も同じですね。もともと技術のある選手が、首位打者を獲得して数年後に長打を増やしています。
──なるほど。技術のある選手がさらにその先を目指すのは自然なことかもしれません。確かに昨年は宮崎や秋山といったアベレージヒッターも本塁打を増やしました。
持木:90年代後半には、鈴木尚典(横浜)が2年連続首位打者を獲得したあとに、長打を増やすべく打撃フォームの改造を目論みました。でも、うまくいかず成績を落としましたよね。その時と今とでは時代背景が違うかなとも思います。
──時代背景というと?
持木:情報の入手しやすさ、といえばわかりやすいかもしれません。映像も手軽に撮れるようになりましたし、インターネットなどを通じて、参考になる映像を容易に見られるようになりましたよね。それによって、たとえば長打を打つ選手の各所の使い方などもすぐに見られます。教える側からも選手に映像を見せればパッと伝わる状況になりました。また、打撃理論も「昭和のダウンスイング」からは隔世の感がありますよね。
──確かに話し手と受け手の意思の疎通がしやすくなったんでしょうね。
カバディ西山:鈴木の時代から比べても(話し手と受け手の)乖離が少なくなってきたはずです。理論の多様化、映像の進化などによってイチから作り直すリスクを犯すことなく、『ここのワンポイントを変えればいい』というアプローチができるようになったんではないでしょうか。
──以前は感覚でとらえていたポイントが映像によって視覚化されるようになった、ということですね。
持木:昔は落合(博満、元中日ほか)が「(右打者であるにもかかわらず)ライトの方に打つときこそ引っ張らなくてはならない」と語っていましたが、映像で確認できるようになり、その技術が詳細にわかるようになりました。映像でインパクトの瞬間を見ると、違いがわかるはずです。「ならばそこだけを変えてみよう」と練習すればよくなったのは大きいですよね。
コンタクトする力のある選手たちが、単打ではなく長打を増やすために技術を落とさずに進化した結果が本塁打増加の理由のひとつだと見ているようだ。
また、ここ数年でインターネットや映像の技術革新が進み、情報を入手しやすくなったことは間違いない。また、フライボール革命をはじめとした様々な理論が提唱されるなか、誰でもアクセスができるようになった。それによって教える側(話し手)と選手(受け手)の乖離がなくなり、打撃技術が向上しやすくなった、ということだろう。
──技術の向上だけでなく、筋力(パワー)の向上はどうでしょうか。
持木:昔は清原(和博、元西武ほか)が体を大きくして失敗しましたよね。今はアウターマッスル系だけを鍛えるトレーニングはかなり減ったと思います。坂本はスラッとしていますけど、おそらくインナーマッスル系のトレーニングはすごくやっていて、筋力は強いんでしょうね。
──鍛え方も変わってきていますね。
カバディ西山:体を大きくするにしても、大谷(翔平、エンゼルス)のように目的をしっかり持って、「大きくした体を使いこなす」トレーニングになってきていますね。「とりあえずでかく!」といった発想ではなくなってきているのは間違いないです。
坂本だけでなく山田(哲人、ヤクルト)も山川(穂高、西武)のようないかにも長距離打者という大柄の体型ではない。トレーニングのやり方、体の鍛え方が変わってきているということだろう。
──球場が狭くなったことはどうでしょう。「まぁそうですよね」としか言いようがないかもしれませんが(笑)
持木:「ホームランは野球の華」と言われますが、このへんは世論というか、そういったものも影響してくるのではないでしょうか。たとえば、球場が狭くなったり、飛ぶボールに変わって本塁打を1人で70本、80本も打つようになるとおかしな話になってきます。必ずしも本塁打が増えれば野球が面白くなるわけではありません。それに本塁打を打たせないための投球技術も上がってくるはずなので、自ずとバランスは取れてくると思います。
最後に2人に推している長距離砲を聞いた。
持木:打ったときは完璧な本塁打を飛ばすような打者が好きですね。バット投げも決まるような感じで。ツボったときに完璧な本塁打を放つ選手って誰がいますかね。あ、バット投げがメインではなくて、数は少なくても打ったときはバット投げするような本塁打を放つ選手ですね。となると福田(永将、中日)でしょうか。
カバディ西山:この打ち方でよく入るなぁ、と思うのはグラシアル(ソフトバンク)ですかね。「すげぇ飛ばすな!」と思うのは育成(※)なんですけどコラス(ソフトバンク)。ソフトバンクだとデスパイネとグラシアル、投手も外国人が多いので、他の球団に移籍しないと1軍では見ることができないかもしれませんが(笑)。
本塁打が増えた理由としては理論の確立、映像・インターネット技術の進化、筋肉の付け方、鍛え方、使い方の変化。こういったところがポイントとなっていると推測している。近年、フライボール革命が提唱されだしたように、これから先も新たな理論が生み出される可能性は大いにある。
それによって本塁打が増えるのであれば、ルール改正などによって調整は入るだろう。持木編集長も言っているが、年間で70本塁打、80本塁打を打てるような打者が現れてしまうと、バランスが崩れてしまうからだ。
前半戦ものこりあとわずか。これから先、本塁打は増え続けるのだろうか。
(※コラスはインタビュー後の6月24日に支配下登録)
取材・文=勝田聡(かつた・さとし)