中学、高校、プロ・・・すべての野球ファンのための情報サイト
プロ1年目からチームの抑えを担い、毎年結果を出し続けてきた山崎康晃（DeNA）。今年は最多セーブを初受賞し、押しも押されもせぬ日本の守護神になった。
帝京高校時代はプロ志望届を提出するも指名されず、一時は野球をやめたいとさえ思ったという。だが思い直し、強豪・亜細亜大に進学。2年連続侍ジャパン大学日本代表に選出され、抑えを任される……こう書くと順風満帆な大学野球生活に見えるが、実際はそう簡単ではなかった。
思えば彼にとって厳しい状況に陥った出来事や当時の話を聞いても、嫌がる素振りや口ぶりが重くなることは一度もなかった。どんな質問にも冷静に、はっきりと自分の意見を述べてくれた。
大学で一番成長したことを訊ねた時は「素直さが増したこと」と精神面の充実性を挙げてくれた。高校時代はプライドが邪魔をして、なかなか素直になれなかったという。
「今は人から言われることを謙虚に受けとめられる。もちろん、言われることをできない自分に悔しさもあるんですけど、それを『いけないことなんだ』と思えるようになったのは大学に入ってから。1年生の時に学んで、3年生でようやく形になったと感じています。元々、亜細亜大が『できなかったらごめんなさい』と素直にやっていくチームなので、練習をして次に結果を出すんです」
大学4年の東都大学リーグ・開幕カード初戦に先発して敗戦投手となったものの、チームは2戦目に勝利して3戦目にもつれた。だが先発は託されなかった。それだけでなく、マウンドに上がることなくチームは敗れた。山崎曰く、2戦目に後輩が投げているにも関わらず、自身がブルペンで準備をしなかったことが理由らしい。
もちろん山崎は、「何とか2戦目をつないで3戦目」と見据えていたし、ブルペンにも行っていたという。だが生田勉監督の目にはそうは映らなかった。それでも山崎はふてくされるのではなく、「ほかから見る姿が本当の自分の姿。周りが言ってくれることを素直に聞き入れて、どう打破していくか、どう変わっていくかが今の僕には一番必要なこと」と、向き合い続けた。
ラストシーズンはなかなか好結果に恵まれなかったが「もっともっとよくなれると信じてやっているので、練習の時から素直さを出してやっていかなきゃとは思いますね」と、再三“素直”という言葉を用いて取材に応じてくれた。
チームの2学年上には東浜巨（ソフトバンク）が、1学年上には九里亜蓮（広島）がいた。「結果がともなっているということは何か理由がある。勝つにはこういう取り組みをしなきゃいけないというのを見せられたり、学びました」と彼らの姿は山崎に大きく影響を与えた。自らの振る舞いが後輩にとってプラスにもマイナスにもなると実感していたからこそ、「エースとしてあるべき姿」を追い続けた。
「最上級生として見せなきゃいけない背中というのがあると思うんです。昔と比べたら見ている世界もまったく変わっていますね。でも、やることは変わっていないので、その中で後輩を育てながら次につながるようにという思いが僕の頭にはあるんです。今はずっとチームが勝ってばかりで、負けた世界を後輩たちは見ていないと思う。そこで、僕がうまくいかなかった時に素直になって練習に取り組んでみたりだとか、人より朝早く起きてやってみたり。そういう姿勢を後輩に学んでほしいと思っています。背中で、もっともっと後輩に見せていかなきゃいけないのかなと、最上級生として思いますね」
山崎が4年の時だった。亜細亜大の試合前、神宮球場の記者室にメンバー表を取りに行き、再び場内への通路に戻る階段を上がっていると、「こんにちは」と声がした。顔を上げると、そこには山崎が。「暑いですね」と、自身が先発する試合直前にも関わらず、非常にリラックスした笑顔でこちらに語りかけてきた。
プロ入り後、数年ぶりに取材をする機会があった時は、同行した編集者とカメラマンに「よろしくお願いします。山崎です」とあいさつし、私には「お久しぶりです」と挨拶してくれた。プロ入りして間もなくして、ファン思いの選手ということが多くの人に知れわたったほど、コミュニケーション能力は高い。これからもピッチングのみならずさまざまな面で愛される選手で居続けてくれるだろう。もちろん無理のない程度に、自然体を貫いてほしい。
文＝山田沙希子（やまだ・さきこ）
