オフの風物詩でもあるFA移籍。今年も、40名程度が新たに権利を獲得する見通しで、有力選手に関しては、シーズン終了を待たずに、様々な情報が飛び交うことも恒例となっている。
今回はそんな選手たちのなかから広島勢をピックアップし、FA移籍の可能性を探ってみたい。
今季の広島は新井貴浩やエルドレッドの退団、田中広輔の極度の不振も重なったとはいえ、やはり丸佳浩の巨人へのFA移籍が痛かった。その影響もあって、広島の4連覇はかなり厳しい状況となっている。丸は2017年、2018年のリーグMVP選手。そんな大駒が抜ければ、戦力ダウンも当然といえば当然か。
その丸と同学年の菊池涼介が、国内FA権を獲得。それを見越して、昨年オフの契約更改の席上で、すでに球団に対しメジャーリーグへのポスティング移籍を訴えている。
今季オフの菊池の動きは主に3パターンが考えられる。
一つは、ポスティング希望がかなって、メジャーリーグ球団からの入札があり、交渉が成立して渡米が実現するケース。前田健太もポスティングによりドジャースに移籍しているだけに、広島球団が容認する可能性は高そうだが、はたして米球団からオファーがあるかどうか。菊池が納得する条件提示がなされるかは未知数だ。
別格の守備力を持つ菊池ではあるが、打撃は勤続疲労もあってかややダウン傾向。そのあたりも含めて米球団の関係者がどう受け止めるかがポイントになる。これまで、期待に見合う活躍ができなかった日本人内野手が多いことも少なからず影響するかもしれない。
次に考えられるのは、国内の他球団に移籍するパターン。何らかの事情でメジャー移籍が実現せず、FA宣言し「国内他球団もOK」という姿勢を表明すれば、多くのチームが興味を示すだろう。すでに、一部では巨人が獲得に乗り出す可能性も報じられているが、もし実現すれば、まさかの巨人で「キクマル」再結成となる。また、二塁手がなかなか固定できないソフトバンクも、動きがあって不思議はない。
そして最後に、メジャー、国内他球団との移籍交渉がまとまらず、広島残留という「元サヤ」パターン。いわゆる「残留前提のFA宣言」ではなく、移籍を意識して権利を行使し、交渉しながらも、最終的に元サヤにおさまったケースは、三浦大輔(元DeNA)や松田宣浩(ソフトバンク)らの例がある。
どのパターンに帰結するかはわからないが、移籍となれば、所属元である広島は影響大だ。なにより、歴史的とも言える守備範囲の広さで多くのヒット性の当たりを阻んできた二塁手・菊池がいなくなることで、投手陣の負担が増すことは間違いない。
同じ広島で「キクマル世代」の野村祐輔も国内FA権利を取得済み。ルーキーイヤーの2012年に9勝11敗で新人王を獲得した野村は、2013年に12勝6敗で自身初の2ケタ勝利、2016年には16勝3敗で最多勝、最高勝率の二冠。今季は6勝5敗、通算71勝52敗の右腕だ。
9月2日にはアクシデントで登録抹消となっているが、もし野村がFA宣言すれば争奪戦になること必至。計算できる先発は、どこの球団も欲しい。
なかでも右の先発を最も欲しているのはDeNAだろう。上茶谷大河、大貫晋一、平良拳太郎らはいるものの、まだまだ経験も安定感も不足しているのが現状。ドラフトでは2015年の今永昇太、2016年の濱口遥大、2017年の東克樹と3年連続で即戦力左腕を1位で獲得しており、サウスポーは人材豊富。右の野村が加わればローテーションの厚みが増す。
広島としても、今年も含めて、ここ3年で野村が稼いだ貯金(勝ち越し分)は6勝分しかないことを踏まえれば、移籍による影響はそこまで大きくなさそう。人的補償による新戦力の加入、さらに若手投手陣の活性化が促進されるなら、デメリットばかりではないのかもしれない。
文=藤山剣(ふじやま・けん)