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《野球太郎ストーリーズ》DeNA2018年ドラフト1位、上茶谷大河。今春に初勝利&三冠と大躍進の151キロ右腕(2)

取材・文=山田沙希子

《野球太郎ストーリーズ》DeNA2018年ドラフト1位、上茶谷大河。今春に初勝利&三冠と大躍進の151キロ右腕(2)
大卒即戦力投手を当て続けるDeNAが見初めたのは東都の三冠投手。モノが違う同級生に負けん気を燃やす男は、3年秋に投球フォームの改造を決断。今春の大ブレイクからドライチへの道を駆け上がった。

前回、「父との練習で培った制球力」

開幕投手、そして初勝利


 4年春のリーグ開幕戦。先発マウンドにいたのは上茶谷だった。

「まさか1戦目を任されるとは思っていなかったのでビックリして。でもオープン戦で自信をつけたので、やってやるぞと」

 公式戦での先発も初めてだった。だが6安打16奪三振の完封勝利。2日後の3回戦も4安打完封でチームに勝ち点をもたらし、あっという間に2勝を挙げた。

 5月4日の駒澤大3回戦ではリーグ記録を塗り替える、1試合20奪三振をマーク。しかも8回0/3での偉業だった。

 結局このシーズン、6勝2敗で個人三冠。特筆すべきは70回2/3を投げて与四死球が17という安定感。チームの3連覇に大きく貢献した。

 3年間、目立った実績のなかった上茶谷が見せた活躍。その要因を、ストレートに磨きがかかったことで変化球が生きたことを挙げた。そしてもう一つ、大きなきっかけがあった。

「自分はブルペンでは完璧に投げたいと思うので、ずっとアウトローを狙って投げるんですよ。それも思いっきり投げたボールで。それを杉本泰彦監督が見られた時に『何で試合で打たれるかわかるか?』と聞かれたのですが、自分はわからないので、そう答えたんです。そうしたら『そのボールを初球から投げようとしてるだろ?』って。もう自分の中でめちゃくちゃ『はい!』でした(笑)。
『だからあかんねん。初球でそのボールを投げてしまったら、それがベストボールになる。そしたら段々甘くなるんだ。逆だよ。アバウトにどんどんいけ。最後にそこ放るんや』と。試合ではずっと気を張って、絶対に“そこ”に投げないと、と思っていたんです。でもいい意味で相手を見下すピッチングをしたら、自分の中でリズムができて、それがよかった。
『打たれたら打たれたや。ピンチになってから抑えたらいい』という気持ちで追い込んで、最後に勝負という感覚で投げられるようになりました」

 一つの成功体験が強い自信を与えてくれた。自信がつけば結果にも表れ、さらに自信が深まる。そんな連鎖が飛躍の一因になった。

素質の差を努力で埋める


 梅津と甲斐野のうらやましいところを上茶谷に聞くと「球が速いところです」と即答。上茶谷は最速151キロながら、平均的には145キロほど。常時140キロ台終盤から150キロ台を投じる2人とは少し違っていた。

「同じ先発として梅津に『何で常に150キロ出るの?』って聞いたことがあるんです。そうしたら『調子よかったら軽く投げてもいくよ』と言われて。自分にはその感覚はないなあと。甲斐野は抑えなので短いイニングですが、あの2人のやることは考えてもできることじゃないですし、2人の感覚なのでわからないです(笑)」

 杉本監督は上茶谷についてこう語っていた。

「目標を持ってストイックに練習する選手だと思いました。上茶谷の場合は甲斐野や梅津に追いつけ追い越せという、負けず魂や精神的な強さがあったんじゃないかな。やっぱりあの2人は持っているものはすごいですからね。ポテンシャル的には、彼らには劣っていると認識しているはずだと思うんです。でも、認識しているが故に上茶谷はよくなったんじゃないかなと。ポテンシャルの高い選手に負けないためには自分がどういった努力をしたらいいんだ、と考えていたと思います。練習をやる意味、意義が、上茶谷はより一層明確なんです」

 同級生捕手の浦岡真也もこう証言する。

「上茶谷は授業が大変な法学部なんです。それでも1年の時から自主練習はずっとしていました。ウエート場でしっかり自分でメニューを組んでやっていて。4年夏のオープン戦では、試合前に『ストレートとスライダーしか投げないから』と言われたんです。スプリットやチェンジアップを使えば打ち取れるから、課題である2つの球種だけで勝負したいと。ストレートの威力自体も上がりましたし、元々よかった制球力にも磨きがかかりました。ストレートを軸にしても投げ切れるだけのボールを持っていると思います」

目指すは沢村賞投手


 同じような背丈の右腕投手。そして1年時から行動をともにしていた甲斐野、上茶谷、梅津はそれぞれの苗字から何字か取り『カイチャタツ』と呼ばれていた。「カイチャタツってまとめられて比べられていましたね。全然違うのにつけ加えられているなと思っていました。最初は意識していませんでしたが、それは2人が意識できる相手ではなかったからです。でも3年の頃からは、まだまだですが『追いつけてるのかな?』という思いは心の中でありました」

 ドラフト会議では、入学時から背中を追いかけていた甲斐野や梅津よりも先に、名前を呼ばれた。

「ドラフトの前から高校生が注目を浴びているのはわかっていたので、途中で『1位はないな』と思いましたが、名前が呼ばれて嬉しかったです。横浜スタジアムには行ったこともあり、チームの雰囲気がいいと思いました。ファンの声援がすごく、あの輪に入りたいと思いました。DeNAのチームカラーの青色が好きなので、どんどん好きになりました」

 笑顔で、そして饒舌に答えていた上茶谷。プロでの目標についてはかねてから、こう語っていた。

「ケガなくずっと1軍で活躍する選手になりたいです。そして高校の大先輩である沢村栄治さん(元巨人)の“沢村賞”を取らないといけないですね。そこは最大の目標。一番遠いんですけど」

 確かに高い目標だが、上茶谷なら沢村賞に向かって一歩ずつ近づいていくに違いない。地道に努力を重ねたこの4年間のように。

(※本稿は2018年11月発売『野球太郎No.029 2018ドラフト総決算&2019大展望号』に掲載された「32選手の野球人生ドキュメント 野球太郎ストーリーズ」から、ライター・山田沙希子氏が執筆した記事をリライト、転載したものです。)

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