日本シリーズも終わり、今シーズンの総括の時期。巨人、阪神、中日、オリックス、楽天は新監督を据えてシーズンに挑んだ。采配手腕はどうだったのか、忌憚なく採点してみたい。
新監督ではあるが、3度目の就任で実績と経験は十分。目論見通り、リーグ優勝を果たした。日本シリーズでは選手の経験の差、分析力の差で完敗を喫したが、そこまで求めるのは酷だろう。十分100点と言える采配だった。
特に打線の構築は見事だった。1番・亀井義行、2番・坂本勇人、3番・丸佳浩の並びは5月末には確立しており、核になった。
気になるのは継投策。中川皓太がポリバレント・クローザーと言われたが、要は「便利屋」。ほかにもいつでも投げられるタフなリリーフ投手を多く作っていったが、ブルペンでの負担管理はさすがに後手に回った印象だ。原監督もそれは承知の上で「勝利への最善」を尽くしたのではないだろうか。
ただし、巨人の場合は温存を考える必要はあまりない。ソフトバンクのように常に「勝利への最善策」を続ければ、勝っていく地力がある。むしろ、出し惜しみなしは原監督のスタイルでもあり、巨人の伝統。積み重ねの一段目は間違いなく出来上がった。
ジリ貧に陥っていた阪神を3位に押し上げ、CSに進出。結果は十分に及第点だっただろう。しかし、近本光司の台頭や新加入の西勇輝、伝統的に充実しているリリーフ陣に支えられたところもある。
戦力的に問題を抱えるなか、厳しい評になるが、打線の組み方は何のインパクトもなかった。特に4番・大山悠輔にはこだわり過ぎた。得点圏打率こそ3割を超えたが、143試合で打率.258、14本塁打、76打点は物足りない。
かつて1990年代の暗黒時代の象徴といわれる「4番・平塚克洋」よりも打てていないし、出塁率.312では4番の風格を感じない。1997年に主に4番を担った桧山進次郎の成績と比較してみよう。136試合、打率.227、23本塁打、82打点、出塁率.333。どちらが希望を持てるか。
シーズン終盤の5番・糸原健斗も得策ではなかった。結果的に強みの選球眼が生かせない強打の場面が多く、四球数をグンと減らしてしまった。相手投手からすると、組み易かったのではないかと想像する。
6月にはすでに月間打率3割をマークしていたマルテが8月10日に4番に昇格するまで、5、6、7番をウロウロしていたのだから、波に乗れるはずもない。リアルに徹した采配でもなく、中途半端になってしまった印象は拭えない。現状、暗黒時代を思い起こさせる野手の手駒をどう動かすか。補強に向け、フロントの重い腰を上げさせるのも監督の仕事である。
とはいえ、最下位から3位の粘り、チームのモチベーションの高さは矢野監督が築いた功績といえる。この流れを来季に生かすほかない。
伸び悩んでいた高橋周平や阿部寿樹を波に乗せた打線の組み方はうまかった。8月下旬から3番に指名された福田永将も気持ちよく打った。京田陽太の打順にこだわらなかったこともよかった。並みの監督であれば、「うーん、2番!」と思考停止で固定してしまいそうなものだ。
投手陣は苦戦したが、若手に「谷間」ではなく、しっかり出番を与えた点は評価したい。谷元圭介、田島慎二に固執せず、福敬登や藤嶋健人を勝ちパターンで投入したのには、肝の太さを感じる。
補強なしの1年目だった上、全体成績は5位。正直評価は棚上げにしたいのだが、唯一明らかなマイナス点は「お前騒動」だろう。
昨季途中から監督代行に就任しているが、フルシーズンでは1年目。最下位から3位に押し上げたのは、間違いなく平石監督の手腕も大きかった。
フロント権限が強いチームなので、どこまでが功績が測りかねる面はあるが、岸孝之、則本昂大のダブルエースを欠くなか、必死のやりくりを続け、打線も粘り強かった。浅村栄斗とブラッシュの加入も大きかったが、臨機応変に打線を組み替え、無い袖から機動力も絞り出した。
しかし、残念ながら退任が決まっている。生え抜きの監督がこの成績を収めてチームを去ってしまうのは寂しい限りだ…。
ヘッドコーチからの昇格で最下位では夢も希望もない。残念ながら現時点では50点。
野手陣ではドラフト7位ルーキーの中川圭太が台頭したが、打率1割台に沈んだ7月を除けば、もっと起用してもよかったはず。特に三塁は代えもおらず、中川に期待するほかない状況だ。西浦颯大、佐野皓大を叩き上げる意気込みは見えたが、目に見える結果は出ていない。現状、希望的観測の域を出ない。
先発陣では山本由伸が最優秀防御率に輝き、榊原翼も芽を出しているが、ここは昨季からの規定路線が当たった結果。すばらしいが采配手腕として評価できるとは言えないところだ。
それにしても助っ人の不振は悩ましい限りだろう。メネセスの不発とドーピング退団に至っては論外だ。まずは補強でベースを整えなければ、采配も戦術もあったものではない。50点を付けておいて申し訳ないが、お気の毒であることだけは確かである。思い切って自身で海外視察に行ってもいいレベル。ガンガン動いて来季の手腕発揮に期待したい。
文=落合初春(おちあい・もとはる)