今オフのFA戦線はなかなか面白かった。『週刊野球太郎』ではこれまで何度も“チームの顔として貢献しているのに報われない男”として稀代のユーティリティープレーヤー・鈴木大地にエールを送ってきたが、ついにFA移籍を決断。移籍先はなんと予想外の楽天だった。
鈴木大地のこれまでを改めて振り返り、そしてこれからの展望を探ってみたい。
鈴木大地のユーティリティー性についてはもはや語るまでもないだろう。遊撃手として入団し、2017年に二塁にコンバート、2018年には三塁にコンバート、今季は一塁をメインで守り、緊急時には左翼まで守ってみせた。
さらに今季はこれまで「並」だった打撃でも大活躍。打率.288、15本塁打、68打点、出塁率.373、9年目のシーズンでいずれもキャリアハイの好成績を残し、6月には自身初の月間MVPを獲得した。
キャプテン、選手会長も務め、その貢献度は並ではない。しかし、今季はレアード(とバルガス)の加入によって、開幕スタメンを外れるなど、顔を立ててもらえなかったのも事実だ。普通、FA移籍でのファンの反応は憤怒と同情に二分されるが、鈴木大地は「同情」の反応が多かった。
そんな事情もあって、「鈴木大地は定位置を求めている」というのが、大方の見方だった。そこに現れたのが巨人だった。今季、二塁や三塁が流動的だった巨人のFA参戦はまさに渡りに船に見えた。
しかし、鈴木大地の選択は楽天だった。楽天濃厚の報道が出たとき、「おや?」と思ったファンも少なくないのではないだろうか。
楽天は選手層の問題はあるとはいえ、現状、内野は固まっている。一塁・銀次、二塁・浅村栄斗、遊撃・茂木栄五郎は故障さえなければ、まずスタメンの座は堅い。
空きが出るとすれば、やや成績、打撃内容が悪化しつつあるウィーラーが守る三塁だろう。ウィーラーを左翼に回せば、鈴木大地と両雄並び立つことも可能だ。さらに言えば、指名打者のブラッシュも大柄だが、右翼守備はひどいというほどではない。
一塁の銀次との併用との推測もある。本来、銀次が生え抜きであることを加味して、ないと断言したいところだが、最近の楽天の聖域なき改革を見ていると「ないこともない」。お互いの調子次第では視野に入るだろう。
つまり、パズルのように組み合わせれば、三塁、指名打者、一塁での出場が考えられる。しかし、今季、一塁での定位置を確保したことを踏まえると、ロッテよりも厳しいポジション争いに身を置いたことになる。
競争もやぶさかではない。鈴木大地らしい決断といえる。メディアやファンは安住先を探したが、鈴木大地の焦点はそこではなかったのだろう。
来季の展望が読みきれないが、楽しみであることも間違いない。来年、鈴木大地は杜の都でどこを守っているのだろうか。
文=落合初春(おちあい・もとはる)