新型コロナウイルスの影響でNPBはオープン戦が無観客試合で行われており、開幕戦も4月10日以降への延期が決まっている。そんな落ち着かない状況のなか、ビッグニュースが飛び込んできた。所属先の決まっていなかった鳥谷敬がロッテと契約したのである。
オープン戦も残すところあと数試合という3月11日に鳥谷敬がロッテに入団した。阪神一筋でプレーしてきた鳥谷は2004年から昨シーズンまでに球団史上最多となる2085安打を放っている、言わずと知れた阪神のレジェンドである。
しかし、昨シーズンの最中に事実上の戦力外通告を受け、シーズンオフに阪神を退団。移籍先を模索していた。年が明け、キャンプが始まり、オープン戦の季節に入っても所属が決まらなかったが、ようやくここでユニフォームに袖を通すことができたわけだ。
ロッテ入団後に「移籍先がなければ引退だった」と語っていたことからもわかるとおり、まさにギリギリのところで首の皮一枚つながったのである。
現在のロッテのチーム状況を見ると、鈴木大地が国内FA権を行使して楽天に移籍したことで内野手にはリーダー的な存在はいない。
今年の6月で鳥谷は39歳となり、チームでは細川亨(40歳)に次ぐ高年齢。鳥谷は決してグイグイと引っ張るタイプではないが、ベテランながら練習量は球界でも随一と言われており、背中で見せることが求められる。
井口資仁監督もその部分に触れており、「戦力として考えている。彼の練習量は現役選手で一番。若手を引っ張っていけると思う」と戦力としてだけではなく、若い選手の手本としての貢献にも期待を寄せている。
すでに浦和球場(2軍)の練習に参加しており、まずは若手選手たちとの化学反応に注目が集まる。
そんな鳥谷に対し井口監督は、「内野の全ポジションを守ってほしい」とも語っている。その言葉を受け、鳥谷はすでにファーストミットを発注しているという。阪神では一塁を守ったことはなく、まさにゼロからの挑戦である。
では、現実的にレギュラーを奪取可能性はあるのだろうか。ロッテの内野陣をぐるりと見ていきたい。まずは一塁。レギュラーの井上晴哉がオープン戦で打率1割台と低迷しているものの、現在の鳥谷はファーストミットがない状態。不慣れなポジション故に守備面での不安も大きい。実現の可能性は低いだろう。
二塁は中村奨吾に若手の西巻賢二が挑んでいるところだが、2年連続で全143試合に出場している中村を押しのけて試合に出るには、相当な結果が必要だ。西巻のような若手ならまだしも、ベテランの鳥谷を中村に代わるレギュラーとして起用することは考えにくい。
三塁は主砲のレアードに安田尚憲と長距離砲がひしめいている。長打力が求められるポジションだけに、ここでも実現度は低い。
残る遊撃は藤岡裕大にルーキーの福田光輝、出遅れているものの平沢大河や三木亮が争っている。福田光が3月14日の中日戦で2打席連続本塁打を放つなど猛アピールしているが、確約されている存在はいない。内野のなかではもっともレギュラーを奪いやすく見えるが、ここ数年で衰えが見えるとも囁かれる守備面を考えると、やはり厳しいと言わざるを得ない。
こう見ると、どのポジションも現実的にレギュラーとして鳥谷が起用されるという可能性は限りなく低い。
しかし、開幕が延期されたことで鳥谷には時間ができた。自主トレは行なっていたものの、春季キャンプを行なっておらず、実戦での練習は限りなく“ゼロ”の状態だったはず。4月10日以降の開幕戦に向けて、少しでも状態を上げることができれば、控えとして開幕1軍入りは不可能なことではないだろう。
途中出場がメイン、おそらく代打となるだろうが、そこで結果を出しつつ、徐々にスタメンの機会を増やしていくというのが理想のストーリーとなる。
はたして阪神レジェンドだった鳥谷は、新天地で羽ばたくことができるのだろうか。ギリギリのところで契約を勝ち取った奇跡をフィールドでも見せておほしい。試合終了後の掛け声「We Are」を鳥谷が発する姿を待ち望んでいるファンは多いはずだ。
文=勝田聡(かつた・さとし)