年も押し迫ったこの時期、お決まりとなっている催しが「今年の漢字」の発表だ。最近は「何の意味があるの?」とか「一文字で表せるわけない」といった意見もちらほら目にするようになってきたが、だからといってこれがないと一抹の寂しさを感じる人もいるはず。そんななかで、12月12日に京都・清水寺で発表された今年の漢字は「令」。新元号にも使われており、まさに直球ど真ん中のセレクトと言っていいだろう。
この恒例行事になぞらえて、週刊野球太郎でも、プロ野球界の「今年の漢字」を独断でいくつか選出してみた。
「退」と言えば、引退。今季も多くの選手がユニフォームを脱いだが、そのなかでも東京ドーム開催となったマリナーズとアスレチックスの開幕2試合目にして、イチロー(元マリナーズ)が下した決断は、日本中で大きなニュースとなった。
たしかに、ここ数年は出番が減り、成績も下降していた。それでも、多くの日本の野球ファンは、「打てないイチロー」を認めていなかったのではないだろうか。引退を決めた時点で45歳だったが、公言していたように50歳になってもグラウンドを走り回っているイチローの姿が見られることを信じて疑わなかった人は多かったに違いない。
現役最後の試合でグラウンドから「退」場するまでの立ち居振る舞い、また約1時間半にわたって行われた引「退」会見など、「退」き際は、実に個性的でイチローらしさにあふれていた。日米問わず現場の選手や首脳陣からファンに至るまで、多くの野球人の胸に刻まれたことだろう。
たとえば高卒で攻守兼ね備えた遊撃手なら「立浪二世」、長身で細身の速球投手なら「○○のダルビッシュ」など、毎年のようにキャッチフレーズを背負った多くの逸材がプロ入りするが、それを具現化するケースはほとんどないのが実状だ。
しかし、「赤星二世」として、2018年のドラフト1位で阪神に入団した近本光司は違った。開幕からスタメンに抜擢されると、途中、交流戦では打率1割台とスランプも経験しながら、そこから立て直して安打を量産。そして出塁すれば「足」でかき回す。その結果、シーズン36盗塁。2リーグ制となった1950年以降では、赤星憲広以来2人目となる新人での盗塁王を獲得した。
また、ファン投票で選ばれたオールスターでは、その「足」を生かし、史上2人目のサイクル安打も記録している。
一方のパ・リーグの「足」と言えば、ソフトバンクの周東佑京だろう。春のキャンプ時点では育成契約だった周東だが、開幕前に支配下登録され、故障者の多かったチーム事情もあって4月7日に1軍初出場。
そこから、スタメンだけでなく、守備固めや代走としても出番を得て、終わってみればトータル25盗塁。数ではタイトルを獲得した金子侑司(41盗塁)に及ばなかったものの、成功率.833は、パ・リーグで20盗塁以上記録した選手のなかでトップ。「足」だけで侍ジャパンに選出され、オフに開催されたプレミア12でも、初めて対戦するバッテリー相手に4盗塁を決め、優勝に貢献した。
今年も、何人かの球界レジェンドが「天」に召されたが、なかでも、偉大な成績と豪快なキャラクターで球界に君臨していたのが金田正一(元国鉄ほか)だ。実力・実績と圧倒的な存在感から、国鉄時代は、またの名を「金田『天』皇」とも言われた。
現役生活は国鉄で15年、巨人で5年の通算20年。その間に記録した史上最多の通算勝敗数(400勝298敗)、14年連続20勝以上、4490奪三振などは、おそらく未来永劫抜かれることはないだろう。また監督としてもロッテを8年間率いて、日本一も経験している。2019年10月6日、86歳でその生涯を閉じた。あらためてご冥福をお祈り申し上げます。
文=藤山剣(ふじやま・けん)