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指導者2人体制の時代…駒大苫小牧高の強さの本質を見た

 ついに開幕したセンバツ。開幕日、大会2日目のたった2日間でも十分な話題はあった。

 まず僕の注目は、初日の第三試合に登場した山梨学院大付高。清峰高を率い、全国制覇、準優勝の実績を持つ吉田洸二監督が昨春、移って1年足らずでのセンバツ出場は、やはり「持ってる」人であることは間違いない。

 何を持っているのか。清峰高時代から、チームの空気を作ったり、選手をその気にさせたり……。目に見えない部分で非常に長けたものを持った人だった。対して目に見える部分は前佐世保実業監督の清水央彦氏が担い、まさに横浜高の渡辺元智・小倉清一郎コンビの再来とばかり、2人体制で清峰高のあの強さを作っていったのだった。

 昨年の夏前、山梨学院大付高を訪ねると、その吉田監督が「いやあ、最近、技術を教えるのが面白くて」と言ってきた。環境が変わったことも大きく、これまで以上に「その」部分への興味が増し、積極的にかかわるようになった。とはいえ、技術的にも進み、メンタル面の指導も遥かに細かくなった今。やはり指導者が2人体制でしっかり細かい指導ができるチームが強いと僕は思っている。だから、山梨学院大付高を訪ねた時にも、吉田監督の“相棒”となるべき人物に注目した。

 実は前監督の代からコーチとして関わっている人がそのままチームに残っていた。法政大学で主将を務め、社会人野球でもプレーした人物。パッと見は近寄りがたい雰囲気で、スマイル吉田とは対照的。この人物との連携が山梨学院大付高の浮沈を握っていると見ていたのだが……。

 今回、試合前の室内練習場にその人の姿はなく、聞けばスタンドで見ているという。チームも初戦で敗れてしまったので、その後の吉田との連携状態を確認することはできなかった。ひとまず、新体制発足からわずかな期間での秋の山梨県大会制覇、関東大会ベスト4。そしてチームにとって20年ぶりのセンバツ出場の結果を見れば、スムーズに滑り出したのか。吉田監督は就任時、目標として過去に原貢氏しかいない「2県の高校での日本一」と挙げていたが、大きな鍵はこの“相棒”が握っていると思っている。ここからどう2人の関係が深まり、展開していくのか。見届けたい。


 吉田監督が2県での全国制覇なら、こちらは選手、監督と立場を変えての全国制覇。2004年夏、駒大苫小牧高が初めて全国制覇を達成した当時の主将・佐々木孝介が監督となって戻ってきた。2日目の第一試合で対した創成館高も社会人でも指導経験を持つ、稙田龍生監督の指導の下、内野守備と走塁面をきっちり鍛えてきた好チーム。立ち上がりは五分に見えた。

 しかし、駒大苫小牧高は1番・伊藤優希の快足だけでなく、全選手の攻守にスキのない動きが回を追うごとに創成館高に重圧を与えていったのだろう。堅守を誇った創成館高の守りにミスが出て、エース・廣渡勇樹の疲労もいつもの試合とは違っていただろう。

 さすがきっちり作ってきた。駒大苫小牧は全国制覇時も部長だった茶木圭介氏と教え子との2人体制がしっかり確立されている。雰囲気としてはGMといった感じの茶木部長は「香田誉士史で出来たことが佐々木孝介でできないことはない。佐々木孝介を男にするのが私の仕事です」と意気込んでいる。

 試合が終わり、佐々木監督は感慨を口にするよりもまず、開口一番、秋の明治神宮大会の話題を口にした。初回、あっという間に3点を先制され沖縄尚学高に3-5で敗れた一戦だ。


▲佐々木孝介監督

「とにかく何もできなかったし、選手に何もさせてやれなかったし、あれほど悔しいことはなかった。あの悔しさを持って、冬の間もトレーニングしました。今日はそんなことだけは絶対ないように、僕も一番前に立って選手に聞こえようが聞こえまいが、思い切り声を出しました」

 まだ27歳、まさに青年監督のフレッシュさを全身から伝えながら、折々に飛び出す力強い言葉に、駒大苫小牧高の本質を見た思いがした。

 この1月、雪の舞う中、駒大苫小牧高のグラウンドを訪ねた。膝まで埋まるような大雪の中、雪上ノックは見られなかったが、バッティング練習を見ることができた。噂には聞いていたが、あの寒さの中、雪もしっかり降っている中、手のしびれなど気にせず、声をガンガン出し、無人のグラウンドへ向かってのバッティング。横では打者が声を張り上げながらのネットティー。練習というより極寒の中での修行と呼ぶにふさわしい風景に、それは気持ちも強くなる……、と大いに思わされたものだった。

 その中で勝ってきた男たち。メンタルがしっかり注入されたチームは揺るぎない、スキがない、自分たちから崩れる姿が浮かばない。次の履正社は、戦力は厚いが、付け入るスキがあるとすればそのあたり。2回戦屈指の好カードを制すれば、一気の勝ち上がりも十分現実味を持った話となってくるだろう。


■ライター・プロフィール
谷上史朗(たにがみ・しろう)/1969年生まれ、大阪府出身。関西を拠点とするライター。田中将大(ヤンキース)、T−岡田(オリックス)、中田翔(日本ハム)、前田健太(広島)など高校時代から(田中は中学時代から)その才能に惚れ込み、取材を重ねていた。『野球太郎』では「阪急ブレーブス あれからの勇者たち」が好評連載中。

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