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聖域突破の快足高校生を発見!一塁かけ抜けタイムでセンバツを総括した!

 高校野球の世界ではあまり表現として使うことがない“フレッシュ”な顔合わせによる決 勝戦の末、東海大四に完勝した敦賀気比が福井勢としても初となる紫紺の優勝旗を手に入れた今年のセンバツ。

 3回目を迎えた『炎のストップウオッチャー』は、2回目までに紹介した一塁かけ抜けタイムをさらに更新した結果から、今大会のスピード事情を総括したい。

■春のセンバツ・一塁かけ抜けで驚く好記録が!

 まずは下の左打者のランキングをご覧いただきたい。大会2日目までに出場したチームの選手を測定した初回記事、それにベスト8進出チームの測定結果を加えた2回目の記事でのランキングに加えて、今回は1回戦の中でまだ測っていなかったチームのデータが入ってランキングもかなり変化した。これでも全チームの全場面を網羅したわけではないので、まだまだ“韋駄天”高校球児が潜んでいる可能性は否定できないが、それでもかなりの選手は抑えたつもりだ。


 特に舩曳海(天理)の3秒89には少し驚かされた。元々、前評判の高い俊足選手で、このタイムを出した時は、打ち終わった態勢から自然に走る側へ体重移動しているスムーズなスタートを切れた。それでも、これだけのタイムを甲子園で出す選手はそうはいない。今大会のみならず、歴代高校生の中でもトップクラスと言えるだろう。

 今回新たにランキング上位に入ってきた百瀬雅也(松商学園/4秒05)と池田陵太(奈良大付/4秒09)、斎藤佑羽(天理/4秒09)を含めて、4秒00台のタイムを出した選手については、余程のことがない限り、将来的にも俊足の持ち主として大きな武器にできる素材だ。

 この中で、個人的に気に入ったのは池田である。というのも、毎日放送系のテレビ中継の中に表示される自身のセールスポイントを「打ってからのスピード」としていたから。

 いいねぇ〜。まさにストップウオッチャーのために登場してくれたような選手である。今後もその足に注目していきたい。

 また、9位に入ってきた大城龍生(糸満)は実戦向きの選手として目についた。とにかく、打ったらすぐに全力疾走を始めて、早くトップスピードに乗ろうとする意志を見せてくれる。糸満は歴代の沖縄代表の例にもれず、身体能力の高い選手が揃っていたが、バットを振りすぎてバランスを大きく崩してからのスタートになったり、打ったあとに打球を見てしまって最初の数歩が全力にならなかったりする選手が多かった。50メートルのタイムは速い選手が多いのに、ランキングに入ってきたのが大城だけだったのはそのためだ。


 実を言うと、これは今に始まったことではなく、沖縄の高校の選手に時折見られる傾向である。もちろん、完璧に証明するものではないし、速い選手はいるものの、感覚的に「きっと、みんなすごいタイムだすんだろうなぁ」とワクワクして測ると、「あれ? 意外に……4秒20台が多くない?」ということが、これまでの測定では多かったのだ。読者のみなさんには、「そうらしい」という程度の豆知識として活用して頂けたらと思う。

■右打者および本塁〜一塁後半のタイム

 一方、右打者のランキングは、以下に示す通りである。元々測定している人数そのものが少ないというのはあるが、4秒50未満の選手として青木玲磨(仙台育英)が1人加わったのみにとどまった。


 打ち終わった後の態勢や打席の距離の違いにより「0秒20〜30くらい」が右打者と左打者のタイム差が生まれる。さらに、右打者の場合、打ち終わったあとに体が三塁側へ開くようだと、一度そこから立て直してのスタートとなるため、かなり遅くなることも多い。特に近年、甲子園に出てくるような高校生選手には、当てるだけのタイプは少なく、ある程度しっかりスイングするため、かけ抜けタイムは毎年今回のような4秒30前後が右打者のトップとなっているのが現状だ。

 そこで、そうした左右の条件の差をなくした比較をするために行っているのが、本塁〜一塁の後半区間のタイムの測定である。本塁〜一塁間にはちょうど距離が半分となる地点からスリーフィートラインが引かれているため、一塁かけ抜けの時のみ、こうした測定が可能だ。私は測定にあたってTV中継の映像を利用しているので、毎回は難しいのだが、それでも時折、画面に映り込んだプレーを利用してタイムを測るようにしている。今回測定できたタイムの上位のランキングは以下の通りだ。


 ここで、俊足選手のみが記録できるタイムの「聖域」は1秒50台である。プロには1秒40台を記録する選手もいるが、高校生なら十分トップレベルと言える。この測定では、スタート時の条件が異なるバント時のタイムも含めることができるのも大きい。そのため、通常の打撃では(ゴロを打たなかったなどにより)測定する機会を得られなかった選手の名前が数多く並ぶ結果となった。

 ここでの注目は、優勝投手となった平沼翔太(敦賀気比)の存在だ。50メートル走のタイムは5秒9と公表されているとはいえ、打撃でも主軸として期待されているせいか、平沼は打った後に余韻が残るタイプでスタートが遅く、かけ抜けのタイムも芳しくない内容だった。ところが、後半からのタイムは1秒58ということで、堂々1秒50台にタイムをのせており、類まれなバネがあることを示していた。


 今大会は投手として、その資質をいかんなく発揮した平沼だが、野手としても好素材であるのは間違いなく、私はむしろ将来的には野手としても期待している部分がある。この先どうなるか? ぜひ、見守っていきたいと思う。

■いい意味で「平年並み」だった今大会

 以上が、今回のセンバツ大会を通じたストップウオッチの測定レポートである。全体の総括としては、いい意味で平年通り、といったところだろうか。前回も書いたが、4秒00前後のタイムが数名いて、4秒10台以降は多数いる、というのが毎年の傾向であり、舩曳が異彩を放った以外は、予想の範囲内であった。

 ただ、選手の雰囲気が地味めで昨年の岡本和真(智辯学園→巨人)のような大物っぽい選手はあまりいなかったものの、能力はきっちり出している、という印象はある。こうした高校の時点では目立たなかった世代から、将来的に伸びてくる選手が出ることもあるので、要注意ではある。

 今回は残念ながら打球の滞空時間など、他の部門の測定はほとんどできなかったが、それはおいおい測定して蓄積し、迫り来る夏に向けての基礎データとして活用したいと思う。

 その過程で、それらを披露する機会があれば、また、この場でお会いしませう。


■プロフィール
文=キビタキビオ/1971年生まれ、東京都出身。野球に関するありとあらゆる数値を測りまくる「炎のストップウオッチャー」として活動中。ライター活動の傍ら、『ザ・データマン〜スポーツの真実は数字にあり〜』や『球辞苑』(ともにNHK-BS)に出演するなど、活躍の場を広げている。

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