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第10回■「伝説のプロ野球選手に会いに行く」(著者 高橋安幸)



 突然ですが読者の皆さん、「怪物」と「妖怪」の違いをご存知でしょうか?

   野球界の「怪物」といえばやはり江川卓でしょう。高校生らしからぬ豪速球でズバズバっと三振の山を築いたその活躍と、自身の大きな耳が漫画「怪物くん」の主人公に似ていることから「怪物・江川」と呼ばれていたことを思い出します。他にも清原和博や松坂大輔など、甲子園で怪物と呼ばれた選手は数多くいますが、野球界のみならず、その衝撃的な活躍や行動で世間にインパクトを与える人物を「怪物」と呼ぶ傾向にあるようです。

   かたや「妖怪」について。怪物と同じく、世間一般に影響を与えるような並外れた能力を持つ人物を「妖怪」と呼ぶ時もありますが、怪物のイメージとはちょっと異なる、日本古来から伝承された民間信仰から発生した不思議な話に出てくるのが妖怪であり、いわば日本独特の神々しい、気高くて神秘的なイメージを想像させるのが妖怪ではないでしょうか。「怪物」に比べると、あまり「妖怪」と呼ばれる人はいないですよね。

 さて、ナゼこんな話題を引っ張ってきたのか。理由はズバリ、この本を読んで一番強く感じたことは「伝説のプロ野球選手とは怪物を超えた、妖怪である」と思ったからです。もちろん妖怪といっても悪い妖怪ではありませんよ。怪物をも越えた神々しいオーラが宿り、さらには日本野球界古来から継承される様々な野球神話の体現者であり当事者である、そんな偉大な野球人たちが続々登場するのが、この一冊なのです。

 「苅田さんは座椅子に片膝を立てて座り、背後から吹いてくる風に身をまかせていた」で始まる苅田久徳さんへのインタビューは浮世絵のようなワンシーンを想像させ、次から次へと語られる、日本古来から伝承される貴重な野球神話にグイグイ引き込まれていきます。なんだかこう、現代からタイムスリップして異次元の人物と話をしているような、あたかも「野球」という言語で交信しているような、不思議な感覚にはまっていきました。

 さらにはその野球神話を引き出している、著者である高橋安幸さんの良い意味での「普通のプロ野球ファン」っぷりが最高です。文章の所々で垣間見ることができる偉人たちへの緊張感や隠せない興奮は、堅苦しくなく、かといって偉大な選手たちへのリスペクトを忘れない、何とも言えない良い雰囲気が全編を通じて流れています。例えばあの天皇・金田正一さんへのインタビューは終始、カネやんペースで進んでいきますが、それに対して細心の注意を払ってインタビューを試みる高橋さん。そのやり取りのなかから「長嶋茂雄を4打席連続三振」に代表される、語りつくされた過去の神話とは全く異なる、様々な野球神話が再生されていきます(高橋さん、生意気を言ってすみません)。

 「昔の野球はレベルが低い、ということは決まらんよ!」と語った猛牛・千葉茂さん。千葉さんを囲んで居酒屋に集まった純粋な野球好きたちが繰り広げる「大人の野球談議」は野球ファンにとっては夢のようなシチュエーション。読者の皆さんもこの一冊で必ず、新たな野球神話を体現できますよ!



※次回更新は12月25日(火)になります。


■プロフィール
小野祥之(おの・よしゆき)/プロ・アマ問わず野球界にて知る人ぞ知る、野球本の品揃え日本一の古本屋「ビブリオ」の店主。東京・神保町でお店を切り盛りしつつ、仕事で日本各地を飛び回る傍ら、趣味はボーリング。と、まだまだ謎は多い。
文=鈴木雷人(すずき・らいと)/会社勤めの傍ら、大好きな野球を中心とした雑食系物書きとして活動中。自他共に認める「太鼓持ちライター」であり、千葉ロッテファンでもある。

■お店紹介
『BIBLIO』(ビブリオ)
〒101-0051 東京都千代田区神田神保町1丁目25
03-3295-6088

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