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本を読む遺伝子はどこへ……(第39回目)

 子どもを野球好きにさせるには? 子どもを将来野球選手にしたい! そんな親の思惑をことごとく裏切る子どもたち。野球と子育てについて考える「野球育児」コーナー。


活字を読まないわが子たち


「しかし、ほんま、うちの子らは活字を読まんなぁ…」

 定期的に飛び出す、私のボヤキだ。

 高1と中2の我が家の息子たちのことだが、びっくりするくらい、本や新聞を読まない。

「一応、あいつらも球児やねんから、家にスポーツ新聞があったら、一面だけでも読まないもんかねぇ!?」

 読む習慣がないから、活字を読みたくても読み続けられる体力がない、という感じだ。そりゃあ二人とも国語の成績が悪いのも(国語だけじゃないのだが)うなずける。

「マンガはいくらでも読むんだけどねぇ〜」

 そんな妻の返しに、またイラッとしてしまう。なんでそんな他人事なのかと。その姿勢が、こんなにも本を読めない二人を作り上げる結果になってしまったのではないかと。

 よその家の子どもの話を聞いていると、小学校に上がったくらいの時期から、新聞を楽しんで読んでいる子もいる。最初は興味がなかった子たちにしても、ある時期を境に、本や活字に目覚める瞬間があるようなのだ。

「中学生になった途端、野球の本を自分のお小遣いで買うようになった」
「服部さんの書いた原稿、この前むさぼるように読んでましたよ。それがきっかけで本自体をまるまる一冊読んでました」
「『クリスマスプレゼントになにがいい?』と聞いたら『野球太郎』という答えが返ってきましたよ」

 いやいやいや…。うちでは考えられませんわ。

「みんな服部さんのところの息子さんたち、羨ましがってますよ。家じゅうに野球関連の本があるんでしょ? うちの子にしたら宝の山ですよ!」

 いや、その宝とやらに、まったく見向きもしないんですけど…。

 妻はよく「家に野球の本があふれかえっているから、それが当たり前になってしまって、ありがたみがないんじゃないの?」みたいなことを言う。

 一瞬、もっともらしく聞こえるが、私はやはりそれは違うと思っている。

 しかし、自分の子がこんなにも活字と縁遠い人間になるとは。自分の小さい頃とはぜんぜん違う。こういう要素って、遺伝はしないんだなぁとつくづく思う。

日本語の活字に飢えた少年時代


 私自身は、4歳から小4まで、父の仕事の都合でアメリカのオレゴン州で育った。

 インターネットもビデオデッキもない時代。日本の情報は祖母から月に一回、船便で送られてくる、小学館発刊の「小学〇年生」という雑誌だけが頼りだった。

 船便で1カ月かけてアメリカにやってくるため、9月号が9月に届く。通信費を安くするために、付録は日本に残されたまま。それでも日本語が書かれた書物がたまらなく嬉しく、次の号が1カ月後に届くまで、ボロボロになるまで毎日のように読み続けた。

 日本のプロ野球情報も届けてくれていたので、この本がきっかけで、日本のプロ野球に俄然興味を持つようになった。といっても、話題の中心は読売ジャイアンツ。時代的には70年代の中盤だったので、「王選手、ベーブルースを破る715号達成特集!」「長嶋ジャイアンツX1特集!」といった記事を読みながら、日本のプロ野球への憧れ(巨人への憧れ?)をどんどん強めていった。

「服部さんは甲子園の近くに住んでいるのに、どうして巨人ファンなの?」とよく尋ねられるが、アメリカにやってきた日本野球の情報が巨人一辺倒だったため、気が付いたら…というだけの話である。

あなたの方が珍しいんだよ?


 小4で日本に帰国してからは、パラダイスだった。本屋に行けば、野球に関する本がいくらだって売っている。スポーツ新聞だって駅で売っている。一種類の本で何年も我慢してきた欲求が一気に爆発した。

 『週刊ベースボール』の愛読者となり、『月刊ジャイアンツ』も毎月、小遣いで入手した。「スポーツ新聞を取ってくれ!」という願いは親に却下され続けたが、一般紙のスポーツ欄読みたさに、朝の6時には目覚め、廊下で寝そべりながら読むのが日課であり、至福の時だった。

 中学のときに再度、アメリカに転勤することになったのだが、私は「自分だけでも日本に残る!」と最後まで激しく抵抗した。それほどに活字不足に陥るのが怖かった。

 社会人4年目に一年間、フランス・パリに駐在したことがあったのだが、パリ市内に到着し、イの一番にしたことは、日刊スポーツの衛星版と『週刊ベースボール』の定期購読の申し込み。白黒でペラペラの衛星版は一日遅れの宅配にもかかわらず、当時のレートで一部約350円。『週刊ベースボール』、『Number』といったスポーツ雑誌も、航空運賃が乗っているため、日本円換算にするとだいたい一冊1200円くらいの値段になってしまう。しかし、そんなことは一切おかまいなし。活字がなければ、おそらく死んでしまうのだから、仕方がない。

 そんな昔話を妻にすると、必ず、「あなたみたいな子どもの方が珍しいと思うよ」と返される。

「自分はそんな劣悪な環境で活字を求めてきたのに、子どもらはこんなにも野球の雑誌に囲まれて生きているのに、読もうともしない。そこがイライラを増幅させてるんでしょ? 『こんなに恵まれてるのにこいつらは!』って…」

 言われてみれば、それはあるかもしれない。

「本なんてね、無理やり読ませても仕方ないよ。本は『読みたくなった時が読ませ頃』って幼稚園の園長先生も言ってたよ」と妻。

 あなたいつもそう言うけど、小学校高学年なったら読むだろう、中学校に上がったら読むようになるだろう…。読みたくなったら、読むから自然に任せよう、と言い続けているうちに、上の子が高校生になってしまったんじゃないか…。

思わぬところに遺伝していた…!?


 そんな我が家に最近、ちょっとした異変が起きている。妻の提案で、トイレの棚に『野球太郎』をあえて一冊だけ置くようにしたところ、どうやら息子たちは用を足している間、読んでいるようなのだ。

「こないだ、あまりにもトイレに入ってる時間が長いから『まだ!?』って聞いたのよ。そうしたら『この記事読み終わったら出る』とか言ってんの。さすがに何もすることがない時に、目の前に一冊だけ置いてあると、いくらあの子らでも『どれどれ…』って手に取るのよ!」

 座って用を足す際に、ちょうど視界に入る位置に棚を据えたのが効いたのか。長時間読み続けることができなくても、用を足す間の数分なら、抵抗はさほどないということだろう。なんでもっとこの作戦を早く使わなかったのか。そんな後悔の念が渦巻く…。

「ま、いいじゃないの。手段はともあれ、ようやく自分から手に取るようになったんだから」
「そうだな…。とりあえずよしとするか」

 そんな会話を妻と交わした矢先、横浜に住む妹からメールが入った。内容は昨年から野球にはまった、小4になる甥のことだった。

「もうね、野球に完全にはまっちゃって大変! 野球の本は読みまくってるし、選手名鑑なんてもうボロボロ。今日は『頼むからスポーツ報知を宅配で取ってくれ』って言ってきて、きかないの。このやり取り、昔どこかで聞いたことあると思ったら…もう兄ちゃんの小さい頃そっくりだよ!」

 自分の子に遺伝しないと思ったら、そっちに出たのか…。

「『甲子園のおじさんの家には山ほど野球の本がある』って言ったら、目を輝かせてるよ! この子は兄ちゃんの家に生まれるべき子だったんだよ!」

 なかなか世の中、うまいこといかないものですな…。


文=服部健太郎(ハリケン)/1967年生まれ、兵庫県出身。幼少期をアメリカ・オレゴン州で過ごした元商社マン。堪能な英語力を生かした外国人選手取材と技術系取材を得意とする実力派。少年野球チームのコーチをしていた経験もある。

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