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米・マイナーリーグから見るベースボールのグローバル化〜インド、モルドバなどからもプロ野球選手誕生

【この記事の読みどころ】
・元巨人の村田透が3Aで最多勝&メジャーで初登板!
・北米プロ野球には35の国と地域から選手が集まる
・インド、モルドバ、南アフリカからプロ野球に挑戦している選手もいる

村田透(元巨人)が成し遂げた2つの大記録


 去る9月24日、2つある3Aリーグのチャンピオン同士の頂上決戦「トリプルAナショナルチャンピオンシップ」がテキサス州エルパソで行われた。この一発勝負を制したパシフィックコースト・リーグのチャンピオン、フレズノ・グレズリーズ(アストロズ傘下)の優勝でアメリカ・マイナーリーグの2015年シーズンは幕を閉じた。

 この試合では敗れてしまったものの、インターナショナル・リーグのチャンピオンとなったのはコロンバス・クリッパーズ(インディアンス傘下)。このブルペンで待機していたのは村田透(元巨人)だ。この試合でも登板はなく、また、6月末に続くコールアップ(メジャー昇格)の声はかからず、彼のシーズンも終了してしまった。


 ドラフト1位で入った巨人では、鳴かず飛ばずだった彼だが、今季、偉大な記録を2つ打ち立てている。

 まず1つは、1995年の野茂英雄のドジャース入り以来、20年続いてきた日本人選手の新規メジャーロースター入りの灯を継続させたことだ。6月28日のオリオールズ戦での先発登板(結果は敗戦)だけに終わってしまったが、この登板がなければ、今年は新たな日本人メジャーリーガーの誕生はなかったことになる。

 もう1つが、今年1年間、3Aで先発ローテーションを守った彼が残した15勝という勝ち星だ。彼は日本人選手として初めて3Aクラスの最多勝に輝いた。

 メジャーとの昇降格を繰り返した選手を除くと、今年メジャー傘下のマイナーでプレーした日本人選手は村田ともう一人、元DeNAの冨田康祐のみ。冨田はレンジャーズ傘下のショートシーズンA、スポケーン・インディアンズでプレーした。リリーフとして17試合に登板、勝ち負けなしの防御率4.71という成績を残している。
(※昨年のMLBドラフトでヤンキースから指名された加藤豪将もいるが、アメリカ生まれアメリカ育ちなので、ここでは除外した)

 また、今季、独立リーグでは7人の日本人選手がプレーした。

北米プロ野球には35の国と地域から選手が集まる


 ところで、カナダを含む北米では、一体どれだけの選手がプレーしたのだろうか。シーズン中にロースターの変動はあったが、実に8545人の選手が上はメジャーリーグから、下は独立リーグまで、各地に散らばるプロチームでプレーしていた。

 彼らの出身国・地域数は実に35を数える。
 約7割が北米出身で、日本でもおなじみ、2013WBCの覇者であるドミニカ共和国は1068人を北米プロ野球に送り出している。このドミニカをはじめとするラテンアメリカ、カリブ地域出身者の数は2112人を数え、今や一大勢力をなしている。アメリカへ渡った日本人選手が、片言のスペイン語を覚えて帰ってくるのもうなずける。彼らは北米以外の出身者の9割を占めるので、アメリカで外国人選手と言えば“ラティーノ”というのが今や相場となっている。

 彼らの出身国は、ベネズエラやメキシコ、パナマといった、NPBでもおなじみの国ばかりではなく、野球ではあまり名の聞かない、ホンジュラス、ハイチ、バハマに、“陸上の国”というイメージのあるジャマイカなど多岐に及ぶ。前回のWBCで強豪を破って予選を突破し、第1次ラウンドで日本のファンにも強烈な印象を残したブラジルからは7人の選手が北米に渡り、そのうち2人がメジャーでプレーしていた。

 これらの選手は、今や世界中に広がるメジャーのスカウト網にかかり、アメリカにやってきた選手で、もちろん即戦力ではなく、育成される存在だ。彼らの育成の場として機能しているのがルーキー・リーグ。ルーキー・リーグのそれぞれのチームでは、チームの過半数が外国人というのは珍しくなく、ドミニカンがマジョリティというチームすらあるくらいだ。

 名をあまり聞かない“野球発展途上国”の選手だけでなく、ドミニカンやベネズエランでも、期待されてアメリカにきたものの、競争に敗れ、モノにならなければ、簡単に契約を切られてしまう。ルーキー・リーグからシングルA、2A、3Aと上がるに従い選手は絞られ、一部の勝ち残った選手が、メジャーリーガーとなっていく。

 その過程で切り捨てられていく選手は多く、ほとんどの国はマイナーリーガーの割合が高い。そんな中、ラテンアメリカの国々で例外なのは、キューバだ。現在のところ正規ルートではアメリカに渡れない彼らは、即戦力を期待できるレベルでないと、リスクを冒してまで北米野球に挑戦できないということだろう。しかし、アメリカとキューバの国交正常化が進む中、ラテンアメリカ勢の勢力図が大幅に変わることは必至だ。

 メジャーリーガーの割合が多いという点では、アジアの2大野球大国、日本と韓国の名前が挙がる。自国にプロリーグがある場合も、選手たちはリスクを冒してまで渡米しない、ということだ。

 ただ、同じアジアでも台湾人のマイナーリーガーの多さは、この国のプロリーグの報酬の少なさによるものだろう。

 メジャーのスカウト網は中国にも広がり、アカデミーも開設されたというが、ルーキー・リーグに1人しか送り出していない、という現状からはこの地のスカウティングが難航している様がうかがえる。

インド、モルドバ、南アフリカといった珍しい国からも


 このほか、アジアからはインドがシングルAに1選手を送り込んでいる。映画「ミリオンダラー・アーム」のモデルにもなったリンク・シンだ。今年はパイレーツ傘下のシングルA、ブラデントン・マローダーズに在籍していたが、故障しているのだろうか? マウンドには上がらなかったようだ。


 そんなアジアの各国よりも多く、ラテンアメリカ勢を除くと、最大の勢力となっているのがオーストラリアだ。メジャーリーガーは1人だけだが、実に32人が北米プロ野球に在籍している。今年は日本でも、四国アイランドリーグplusから中日へ移籍したネイラーが1軍の戦力となった。このようにオージーたちが世界の野球シーンで活躍する場面は増えていくだろう。

 注目すべきはヨーロッパで、9カ国から30人の選手がやってきている。うち3人がメジャーに在籍というから、今後、ヨーロッパから野球選手の国際移動は増えていくものと思われる。日本でもオランダ出身のリック・バンデンハーク(ソフトバンク)が大活躍した。「野球不毛の大陸」と思われていたヨーロッパにもダイヤの原石は転がっているようだ。来年からは、このバンデンハークの父親が中心となり、ヨーロッパ各国のトップチームを集めたプロリーグも発足するらしい。

 ヨーロッパ勢の中には東欧出身者もいる。バディン・バランは旧ソ連の小国・モルドバ出身の選手だ。バディン・バランとは3年前、イタリアのアカデミーで話したことがある。母国から37時間かけてイタリアにやってきたという彼は、アメリカンドリームをつかむため、スカウトを前にした紅白戦で勢いのあるボールを投げ込んでいた。

 あれから3年。彼は、ツインズのルーキー・リーグのチームでプロデビューを飾っている。1試合だけの登板に終わったものの無失点。彼の活躍いかんでは、東欧への野球普及が進むかもしれない。


 また、南アフリカからも7人の選手がマイナーリーグでプレーするなど、アフリカへも野球は確実に広がっている。


 競技人口が多いオリンピック競技に比べれば、野球の広がりはまだまだだが、日本でもミャンマー、ブルキナファソ出身のプロ野球選手が生まれ、アメリカではもっと多くの国からプロ野球選手が生まれている。今後も、北米やアジアのプロリーグに新しく挑戦してくる“野球途上国”出身選手の活躍に期待したい。


文=阿佐智(あさ・さとし)
1970年生まれ。世界放浪と野球観戦を生業とするライター。「週刊ベースボール」、「読む野球」、「スポーツナビ」などに寄稿。野球記事以外の仕事も希望しているが、なぜかお声がかからない。一発当てようと、現在出版のあてのない新刊を執筆中。ブログ「阿佐智のアサスポ・ワールドベースボール」(http://www.plus-blog.sportsnavi.com/gr009041)

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