週刊野球太郎
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第十二回:フライと軌道

『野球太郎』で活躍中のライター・キビタキビオ氏と久保弘毅氏が、読者のみなさんと一緒に野球の「もやもや」を解消するべく立ち上げたリアル公開野球レクチャー『野球の見方〜初歩の初歩講座』。毎回参加者のみなさんからご好評いただいております。このコーナーはこのレクチャーをもとに記事に再構成したものです。
(この講座に参加希望の方は、info@knuckleball-stadium.comまで「件名:野球の見方に参加希望」と書いてお送りください。次回第5回開催の詳細をお知らせいたします)


フライを捕る能力を見極める


キビタ:今回はフライの捕り方を中心にお話します。
久保:特に外野手の守備力はパッと見でわかりにくい部分です。明確な基準があれば、もっと「いい外野手」がわかるのですが…。
キビタ:前回にも軽く触れたように、前に守る外野手は守備力があります。なぜなら、前に守るということは、背後の打球にも対応できるからです。あまり守れない外野手は、背後の打球を追わなくていいように、フェンス沿いに守りたがります。
久保:ここまでの知識なら、おそらく読者のみなさんも持っているかと思います。もう一歩踏み込んで、どういう動きが判断の基準になるかを見ていきましょう。


外野フライの追い方


キビタ:たとえばセンターが右中間後方の打球を追いかけたとします。その時の落下地点への軌道を大まかに3つに分類してみました。



@は前に出たところから下がる軌道。昔の貴族のヒゲみたいな形になります。
Aは後ろに下がりながら、最後に回り込んで捕る軌道。たとえるなら、噴水のような軌道になります。
Bは守備位置と落下地点を一直線に結ぶ軌道です。
久保:当然、最短距離のBの軌道が一番いいですよね。
キビタ:そうです。プロの外野手は、落下点まで一直線に行けるよう、日夜努力しています。
久保:では、@とAではどう違うのでしょう。
キビタ:打球に合わせて追いかけるような動きをしていると、@のヒゲのような軌道になります。こういう軌道になるのは、あまり上手くない選手です。落下地点を予測できていないから、打球の位置に合わせて動こうとして、最後に追いつけなくなるのです。
久保:反対にAのタイプはどうですか?
キビタ:Aはある程度落下地点が予測できている選手の動き方です。まずは下がって落下点の近くまで動いて、そこから微調整して落下点に入ります。究極はBの直線型なので、その形にどれだけ近づいているかが、最終的に上手い外野手を見分けるポイントになるでしょう。
久保:話をまとめると、フライの落下点に無駄なく先回りしている選手が「いい外野手」と言えそうですね。
キビタ:実際に例をあげて見ていきますと、まずは阪神の大和選手。内野手としてのグラブさばきには定評がありますが、ショートには鳥谷敬選手がいるチーム事情もあり、近年はセンターを守っています。大和選手が外野ノックを受けている映像を見てください。
久保:前に出てから、慌てて下がりました。
キビタ:こういう動きが結構多いんです。内野から転向して日が浅いということもあるのかもしれません。内野手としては名人級のグラブさばきを見せる大和選手ですが、外野では脚力でなんとかごまかしている部分が随所に見受けられます。
久保:内野の名手が必ずしも外野を上手く守れるとは限らないんですね。
キビタ:今度は巨人の大田泰示選手の外野守備のシーンです。どうですか?
久保:おっ、素早く背走しています。
キビタ:さっきの大和選手の動きが@のヒゲ型なら、大田選手の動きはAの噴水型。スムーズに落下地点へ移動しています。
久保:大田選手、内野手だった頃はぎこちない動きが目立っていましたが…。
キビタ:こうして見てみると、外野手の適性はあると言えそうです。一軍でもセンターで出場しているのは、それなりに守れるという評価なのでしょう。
久保:我々もイメージや先入観にごまかされないようにしないといけませんね。


ファウルフライの軌道


キビタ:今度は打球そのものの軌道を再確認したいと思います。キャッチャーフライがバックネット方向に飛んだ時、どういう軌道を描きますか?
久保:アルファベットの筆記体の「ℓ」みたいに、ホームベース方向に戻ってきます。
キビタ:正解です。「ℓ」字状に打球が戻ってくるから、キャッチャーはフェア地域でも、常にバックネットの方に体を向けて捕球するのです。



久保:なるほど。
キビタ:続いての質問です。三塁のファウルゾーンに飛んだフライはどのような軌道になるでしょうか?
久保:わかりません。何か規則性があると思って見ていなかったですから…。
キビタ:こちらも「ℓ」状の軌道を描きます。正確には「ℓ」を左に90度回転させた形になります。
久保:ということは、このフライも戻ってくるのですか?
キビタ:三塁側ファウルゾーンに飛んだフライは、「ℓ」のようにクルッと回って、その後はフェアゾーンに戻っていきます。だから打球を忠実に追いかけようとする三塁手ほど、右に左にバタバタしてしまうのです。例に出すのは気が引けるんですけど、昔の長嶋一茂選手(元ヤクルト他)がそういう追い方をしていました。



久保:言われてみれば、そういう追いかけ方でしたね。珍プレー集で見た覚えがあります。
キビタ:打球がフェアゾーン方向に戻ってくることを考えると、サードの後方のフライはショートが回り込んで捕った方がいいんです。追いかけるショートの方向に打球が戻ってくるから、サードが無理に背走するよりも、ショートに任せた方がいい。昔の人たちは経験則で知っていたのでしょう。
久保:そういうことだったんですか。てっきり、サードがフライを捕るのが苦手だから、ショートがそこまでカバーしているのかと思っていました。
キビタ:ちょっと余談になりますが、現代野球で最も簡単なポジションはサードだと言われています。一定の水準の肩さえあれば、あとは身体を張って打球を止めるだけでいい。守備での約束事も多くありません。
久保:昔はファーストが一番楽と言われていましたけど…。
キビタ:ファーストは投内連携をはじめ、いろいろと絡む動きが多いので、イメージほど簡単ではありません。ショートバウンドの送球を捕る技術も求められますし、バントシフトでは三塁で刺せる肩と俊敏さも求められます。
久保:話を元に戻すと、フライの軌道を予測して、落下地点に行ける選手がいい選手。また落下地点に行きやすい人がフライを捕った方が、ミスも少なくなるということですね。
キビタ:そういうことです。今回は当たり前のことが多かったかもしれませんけど、「基礎の基礎」ということで、確認し直しました。






■プロフィール
キビタキビオ/野球のプレーをストップウオッチで測る記事『炎のストップウオッチャー』を野球雑誌にて連載をしつつ編集担当としても活躍。2012年4月からはフリーランスに。現在は『野球太郎』を軸足に、多彩な分野で活躍中。Twitterアカウント@kibitakibio

久保弘毅(くぼ・ひろき)/テレビ神奈川アナウンサーとして、神奈川県内の野球を取材、中継していた。現在は野球やハンドボールを中心にライターとして活躍。ブログ「手の球日記」

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