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不調で降格の今こそ……打たれながらも試合を締める不思議なクローザー・中崎翔太の魅力に迫る

文=井上智博

不調で降格の今こそ……打たれながらも試合を締める不思議なクローザー・中崎翔太の魅力に迫る
 交流戦の順位は3勝7敗1分で最下位に沈み、苦戦を強いられている広島。苦しいチーム事情のなか、3連覇中そのすべてで胴上げ投手となった守護神・中崎翔太もまた不振で苦しんでいる。チーム浮沈の鍵を握るクローザーに何が起きたのか? 復活への期待を込め考察したい。

(※成績は6月17日現在)

クローザー失格……原因は勤続疲労か?


 6月9日のソフトバンク戦、広島が1点リードの9回、この緊迫した場面でマウンドに上がったのは、クローザーの中崎ではなく、セットアッパーを務めていたフランスアだった。

 交流戦で苦しむチームの大切な1勝を守る。その局面でフランスアが送り込まれたということは、中崎よりもフランスアの方が信頼度が高いことを意味し、また、中崎がクローザーの任務を解かれたことも意味していた。

 中崎は通算104セーブを挙げ、3連覇を成し遂げたチームの絶対的なクローザーとして活躍してきた。しかし、今シーズンは2勝2敗8セーブ、防御率2.94と、クローザーとしてはやや苦しい成績だ。数字だけ見れば「そこまでの不振なのか?」と思うかもしれないが、数字以上に深刻なのは、その内容なのだ。

 昨シーズンあたりから、セーブのつく場面で塁上を賑わす場面が多く見られたが、今シーズンはそれがさらに悪化。1イニングあたりで平均1.63人の出塁を許している。2018年のセ・リーグの平均が1.35人なので、これと比べるといかに塁上を賑わせていることがわかる。

 また、自責点はつかないものの大量失点を喫し、試合を壊してしまう場面もあった。
 ここまで28試合の登板で失点を許した試合は8試合。その内セーブシチュエーションでの失点は4試合。セーブ失敗は2試合ながら安定感を欠いた内容に、試合を締める大役を解かれる形となった。

 では何故、今シーズンの投球内容が悪化してしまったのか? その最大の理由は、「勤続疲労」だと考える。

 昨シーズンまでの4年間ほぼ毎年60試合以上に登板、しかも昨シーズンは68試合と極めて多い。この登板数の多さから疲労が蓄積しているのではないだろうか。疲れが影響してか、本来の球速、球のキレを失い痛打を浴びる場面が増えているように見える。

打たれていても何故か抑える、不思議なクローザー


 昨シーズンまでの4年間、広島のクローザーを務めた中崎は、従来のクローザーのタイプと比べるとかなり異質な存在だ。

 球速は150キロを上回ることもあるが、平均では145キロ前後。ストレートとツーシーム、決め球はスライダー。この3つをアウトサイド中心に投げ込み、三振を取るではなく、ゴロを打たせるスタイルが特徴だ。

 例外を除けば、通常「球が速い」「三振を取れる(三振を取れる決め球がある)」「メンタルの強さ」がクローザーの条件だろう。球速と奪三振という点では、中崎がクローザーに向いているとは思い難い。

 その中崎がなぜクローザーとして活躍できたのか? その要因は残る条件の一つ、「メンタルの強さ」にあると筆者は考える。

 例えば、調子の悪い今シーズンの被打率を見ると、ランナーなしの時はなんと.305も打たれている。しかし、複数のランナーが塁上にいるときは被打率が下がってくるのだ。特に満塁では6打数1安打で.161、自軍リード時には.000とほぼ完全に抑え込んでいる。

 このように、ピンチになるほど力を発揮できるのは強いメンタルがあってこそ。絶体絶命のピンチでも慌てることなく、いつものように外角にスライダーを投げ抜く様は、もはや芸術的とすら言える。

「中崎劇場」の再開を待つ


 常にランナーを背負い逆転の危機に瀕しながら投げる姿に、ファンの多くはフラストレーションを溜め「中崎劇場」と揶揄しがちだ。ファンが求めるクローザー像と、不思議なクローザー・中崎とのギャップがあるからだろう。

 それでも今日まで104セーブを挙げ、チームの優勝に貢献した実績が示す通り、広島史上屈指のクローザーであることは言わずもがな。クローザーというのは、何点取られても逆転されることなく試合を締めれば任務成功なのだ。

 2013年には血行障害を患い、手術を行なったこともある。腰痛もあり一時的に離脱した期間もある。

 それでもクローザーという過酷なポジションを4年間、続けていられたのは、その裏での努力があるからこそ。クローザーを万全な状態で務められる期間は決して長くない。毎日選手生命を削りながら試合を締めくくっているのだ。そのなかでコンスタントに救援を成功させている中崎の努力や能力の高さは称賛に値する。

 とはいえ広島ファンの筆者は、多くのファンと同じようにセーブシチュエーションでの中崎には毎度肝を冷やしているのは紛れもない事実だ。

 ただ、最近ではそのスリルを楽しめるくらいにはなっている。負けの味を知る精神的マゾヒストファンには、これくらいの刺激は心地好いくらいだ。そう思えるようになるのも中崎を応援するファンのたしなみと言えよう。

 いずれにせよ、今の中崎の状態ではクローザーとして出番すらないのが実情。ならば勤続疲労を癒すことに努めるべきだろう。そして、再び「中崎劇場」の開演を待ちたいと思う。

(※編集部注 6月18日のロッテ戦、延長11回に登板した中崎は4失点。試合後、2軍降格が決まった)

文=井上智博(いのうえ・ともひろ)

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