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第7回■谷沢健一の酒マッサージ―とてもよく効く日本酒健康法(著者 谷沢健一)



 表紙のイラストで快打を飛ばすのは好打者・谷沢健一。ニコやかな表情に目を奪われがちですが、実は谷沢の足が御猪口に浸っているのがポイント。今週紹介する野球古本はサブタイトル「とてもよく効く日本酒健康法」とあるように、テーマは酒なんです、はい。「プロ野球選手と酒」といえば水島新司先生の「あぶさん」が有名ですが、あちらは「ぷふぉっ!」とバットに酒しぶきを浴びせるのに対し、この本で紹介されている酒マッサージとは、日本酒を身体に塗り、指圧でゆっくりと患部付近を擦り続けると、あら不思議。ジワジワと体内に日本酒が浸透していき、患部の毒素を外に出してくれる…という奇妙な健康法なのです。しかしながら、この健康法は当時のチームメイトだった牛島和彦郭源治モッカや中尾孝義、当時広島に在籍していた高橋慶彦などのプロ野球選手の他、大相撲の琴風関、競馬の田原成貴騎手や競輪選手まで…と愛好者は多く、谷沢自身の野球人生を救ったのがこの酒マッサージ健康法なのです。

 ここで谷沢健一の野球人生を振り返ってみましょう。昭和22年、千葉県に生まれ、習志野高校から早稲田大学を経て、45年に中日に入団。いきなり新人王を獲得しました。49年にはリーグ優勝に貢献し、51年には首位打者を獲得、と順風満帆にみえた野球人生でしたが、そんな谷沢に悲劇が襲います。もともと学生時代から足首の捻挫の痛みをかばってプレーしていた影響で、アキレス腱付近に米粒大の白い塊のような軟骨を発症。次第にアキレス腱の痛みが酷くなり、ついには段差のあるところを歩いただけで飛び上がるような痛みを感じるようになり、野球どころではなくなってしまいます。かつての輝きを失った谷沢は中日ドラゴンズのカレンダーからも姿を消し、年俸も大幅ダウン。この苦しみと戦っていた谷沢は、とにかく治すために「身体に良い」と聞けばどこにでも出向き、何でも試したそうです。なかでもカミソリを痛い箇所の上空にかざして、シュッシュッと空を切ると患部が治るというオカルト的な治療法も試したとか…。藁をもすがる思いのなか、冒頭の酒マッサージと出会うのです。

 失意の谷沢に一筋の光を与えたのが、酒マッサージの提唱者であり考案者でもある小山田秀雄という人物。この本ではその小山田先生の生い立ちにも触れていますが、これがまたスゴい。明治37年生まれの小山田先生は19歳の時に戸籍を抹消して、陸軍中野学校の前身の特務機関諜報部員(いわゆるスパイ)になり、インドネシアや満州で活躍していたとのこと。ある時は上海近郊で敵に捕まってしまい、酷い拷問を受け、瀕死の状態のなか、看守に「死ぬ間際に欲しい物はないか?」と聞かれた際に「せめて死ぬ前に故郷の酒を…」と日本酒をもらいます。そして、その日本酒を丹念に体に塗り、マッサージをすることで瀕死状態からなんと一晩で復活。さらには看守を得意の古武術で倒し、脱獄まで果たすという、数ある脱獄映画も真っ青な奇妙な体験を持つ複雑怪奇な人物なのです。

 そんな小山田先生と出会い、酒マッサージを施してもらった谷沢のアキレス腱は徐々に回復していきます。本人の地道なリハビリ活動の甲斐もあり、痛みの原因だった米粒大の軟骨は姿を消し、実に二年間の歳月を経て、天才打者が復活を果たすのです。昭和55年には再び首位打者に輝き、同時にカムバック賞を受賞。この本が出た60年、37歳にしてバリバリの主力として活躍…と、谷沢の野球人生は再び輝きを見せました。

 小山田先生は、スパイ活動から離れた後に日本へ戻り、酒マッサージの施術所を開設。次第に評判を呼び、過去にはあの西鉄ライオンズの黄金時代を支えた「陰のトレーナー」として稲尾和久さんの鉄腕の肩を酒マッサージで揉み解し、連投に次ぐ連投をを裏方として支えたのが、他ならぬ小山田先生だったという話も掲載されています。酒マッサージよりも小山田先生が何者なのか? 読み進めると、そちらのほうが謎めいていて、気になってしまいますね。

 たしかに謎めいていていますが酒マッサージは効く! と、この本ではその酒マッサージを一般人が体験することでこんな効果があった! というような体験談も記されています。これは無茶があるだろうと思うのが「日本酒で歯を磨いたら歯槽膿漏が直った」「トイレの後は日本酒でふくと膀胱炎が直る」さらには水虫や痔瘻、髪の毛に日本酒を塗ったら抜け毛も減った…とまあ、なんでもあり。小山田先生の奇妙な運命を含めて、さらにはこの不思議な酒マッサージについてお伝えしたいことはまだまだたくさんありますが、この続きを知りたい方は野球古本の品揃え日本一の「ビブリオ」で、是非ともこの本を手に取って読んでみてくださいませ!




■プロフィール
小野祥之(おの・よしゆき)/プロ・アマ問わず野球界にて知る人ぞ知る、野球本の品揃え日本一の古本屋「ビブリオ」の店主。東京・神保町でお店を切り盛りしつつ、仕事で日本各地を飛び回る傍ら、趣味はボーリング。と、まだまだ謎は多い。

文=鈴木雷人(すずき・らいと)/会社勤めの傍ら、大好きな野球を中心とした雑食系物書きとして活動中。自他共に認める「太鼓持ちライター」であり、千葉ロッテファンでもある。先日鎌ヶ谷スタジアムで行われたNPBトライアウトには有給休暇を取得し、現地参戦。突撃レポートを担当した。

■お店紹介
『BIBLIO』(ビブリオ)
〒101-0051 東京都千代田区神田神保町1丁目25
03-3295-6088

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