週刊野球太郎
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第一回:いろんな場所から見る

・はじめに
キビタ:突然始まりました「野球の見方〜初歩の初歩講座」へようこそ。
久保:僕らみたいなライター2人で果たして集客できるのかとの不安もありましたが、温かいお客さんのおかげで、ナックルボールスタジアムでの公開講座だけでなく、『週刊野球太郎』でも連載できる運びとなりました。
キビタ:我々には華々しい野球選手としての経歴もなければ、ライターとして自慢できるほどのネームバリューもありません。ただ読者のみなさんより多少は場数を踏んできたのは事実です。この講座では我々が上から目線で教えるというのではなく、取材の現場で見聞きした「野球観戦のコツ」をみなさんにわかりやすく、まとめて紹介しようというスタンスです。
久保:野球を見るうえでのモヤモヤを、みなさんと一緒に解消していけたらと思っています。どうぞよろしくお願いします。

・ボールばかりを追わないで
キビタ:球場で野球を観戦していて疲れてしまう原因のひとつに、ボールだけを追いかけすぎることがあります。みなさんもボールばかり見ていて、試合がわからなくなったことがありませんか?
久保:ボールばかり見ようとして、他の情報が入ってこなくなり、試合が退屈に思えてしまうことが多々あります。
キビタ:剣道の「遠山の目付け」ではありませんが、ボールを視野に入れながら、ぼんやりと球場全体を見ると、試合に関する様々な情報が入ってきます。外野手がライン寄りに動いているなとか、内野が前進したなとか…。
久保:「周辺視野」とか「ソフトフォーカス」などとも言いますね。
キビタ:もちろん客席の位置によっても、見えてくるものが違ってきます。たとえばネットに近づけば、選手の声や表情がよくわかります。ベンチで何を言っているのか、どんな雰囲気なのかといった情報がわかります。逆にネットから離れていくと、テレビ中継に近づくというか、球場の全体像が見えてきます。
久保:テレビ中継の実況席は球場のバックネット裏、一番上に作る場合がほとんどです。そこから全体を見渡しながら、画面でとらえきれない情報をテレビの実況で補足します。たとえばバッテリー間の映像を見せながら「内野は前進守備です」といった実況をしています。
キビタ:今回は見る場所を変えることで、どんな情報が得られるかということを、場所ごとに紹介していきます。

・全体像をとらえる
久保:野球観戦の王道はバックネット裏。ネット裏は特等席というイメージがあります。
キビタ:ピッチャーの球筋を見るのであれば、やはりネット裏が一番です。球種の見極めについては、次回以降に詳しく説明したいと思っています。
久保:反対に神宮球場の二階席のような、高い位置はどうでしょう。
キビタ:高い場所から俯瞰すると、さっきも少し言いましたけど、シフトがよくわかります。特に高校野球だと、データをもとに大胆に守備位置を変えるチームがあります。典型的な例が浦和学院高です。打者ごとに、ベンチから細かい指示が出て、外野手が位置取りを変えています。
久保:松坂大輔(レッドソックス)がいた頃の横浜高では、左打者に対して外野が極端に左に寄っていました。「松坂のボールはまず引っ張れないだろう」という考えですね。神奈川だったら、桐光学園高の外野はいつも大胆なシフトを敷いています。
キビタ:そうですね。プロ野球ではあまりないかもしれませんが、左打者に対してはレフトが少し前に出て、ライン際を詰めて守るのがセオリーです。左のパワーヒッターがアマチュアには少ないというのが理由のひとつです。特に右投左打で小柄な左打者は、ヒットゾーンがだいたいレフトのライン際、もしくはショート後方になります。
久保:たまに守備位置を変えないレフトもいますが…。
キビタ:レフトがぼんやりしていて、ベンチからの指示で慌てて移動するといった光景をよく見かけますね(笑)。守備位置の意味を理解して、なおかつ「あぁ、ベンチからこんな声が出ているな」と思って見られるようになると、野球観戦が楽しくなります。



・あなただけを見つめている…
キビタ:ここでひとつ提案ですが、全体像を追うのが難しいというのであれば、1試合通してお目当ての選手だけを見るというのも面白いでしょう。
久保:それはいいかもしれませんね。たとえば、どういった部分を見るのですか?
キビタ:野手だったら、足を見ます。内野手でも外野手でも、足を細かく動かして準備している選手は、守備への意識が高い選手だと思います。
久保:これは投手でも言えますか?
キビタ:そうですね。それで頭に浮かんだのが日本ハムにドラフト1位で入った大谷翔平(花巻東)。彼は大柄だからモタモタしてそうな先入観を持たれがちですけど、バント処理がとても速いです。リリースしてからの動き出しが抜群に速い。実際にストップウォッチで測ってみたら、打席から一塁までの駆け抜けのタイムがU-18日本代表のなかで一番速かったのは大谷でした。
久保:選手個々の資質を見るには、いろんな角度から見た方がよいかと思います。そういう意味で、一人の選手に注目して観戦するという方法は、普段はなかなか得られない情報を収集できそうですね。
キビタ:はい。具体的には、投手も打者も、横から見た方がたくさん情報を得られます。
久保:そうですね。投手のテークバックや、リリースの位置がどのあたりか、前のひざに体重がしっかり乗っているかは、横から見ないとわからない部分です。それから一塁牽制のターンの巧さを見るなら、一塁側がお薦めです。この位置からだと、ショートやサードの送球や二塁ベース上のダブルプレーを見る楽しみもあります。
キビタ:横から見ていても、変化球を投げたかどうかはだいたい見当がつきます。捕手がどっちに動いたかと、ミットの位置などで推測できます。高校、大学レベルなら、投手の腕の振りや体の動きで球種を判別できます。真っすぐの時には腕がスムーズに振れていても、カーブやスライダーになると極端に腕の振りが鈍くなったり、落ちる球は腰を引くような感じで投げた方がよく落ちるから、真っすぐのときよりもへっぴり腰になってしまったり…。


久保:なるほど。見えないものは他のところからの情報で補うんですね。ここで少し視点をずらして、外野席はどうでしょう?
キビタ:外野で見るなら、ライトのポール際がお薦めです。知り合いに誘われて、たまたま神宮球場のライトのポール際で試合を見ることがあったんです。その日はヤクルト対巨人で、巨人の先発が左の内海哲也でした。「こんなところから見ても、野球が見えないよなぁ」と思っていたんですけど、しばらくすると内海の一塁牽制の癖が見えてきたんです。
久保:そんなところからでもわかるんですか。
キビタ:最近のプロ野球では、右足を上げてから切り返して一塁牽制する左投手が少なくなりました。そういう大きな動きをしていると、相手に癖を読まれてしまうからです。だからクイックで牽制する人が増えています。みんな癖を出さないように努力しているんですけど、ライトのポール際から見たら、なんとなく「次は牽制くるぞ」「次はもうないな」といった雰囲気が感じられました。
久保:意外にもそういう楽しみ方ができる場所なんですね。
キビタ:そのうち試合よりも牽制を予測する方が楽しくなってきたりして…(笑)。
久保:さて、このように、ちょっと引いた視点で見たり、違った角度から見たりすると、野球観戦の新たなヒントが得られる可能性が高まるということがおわかりいただけたかと思います。次回は変化球の見極め方を中心に話を進めていきます。お楽しみに。



■プロフィール
キビタキビオ/野球のプレーをストップウオッチで測る記事を野球雑誌にて連載をしつつ編集担当としても活躍。2012年4月からはフリーランスに。現在は『野球太郎』を軸足に活躍中。

久保弘毅(くぼ・ひろき)/テレビ神奈川アナウンサーとして、神奈川県内の野球を取材、中継していた。現在は野球やハンドボールを中心にライターとして活躍。ブログ「手の球日記」

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