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「すぐクビになる過酷さが、大きく成長させてくれました」独立リーガー・西本泰承が語るアメリカ野球

☆約10日しかない米・独立リーグの春季キャンプ

 アメリカで2シーズンプレーした西本は、2014年シーズンに日本の独立リーグに復帰した。日本の独立リーグは、NPBと同じように2月にキャンプイン、3月のオープン戦を経て、4月に開幕する。

「おととしプレーした群馬ダイヤモンドペガサスは本拠地の高崎の練習場でやってました。高知ファイティングドッグスの場合は、最初本拠地でやったあと、県内の暖かいところに移動します」


 そういう点では、日本の独立リーグはアメリカに比べて恵まれているのではないか。アメリカ野球界の厳しい競争に勝ち抜いてきた西本には、それが少々ぬるくも感じられるのだろう。

 アメリカ独立リーグのキャンプは10日くらいだという。シーズンロースターの枠25に対して、参加者の数は35〜40人、つまり10数人はこの間にカットされるのだ。その上、チーム構想に合わなければ、それなりに結果を残した選手でもトレードに出されることもあるという。

「びっくりしましたよ。キャンプの初めからエンジン全開ですから。初日はノックとバッティングだけでしたけど、2日目からはもうピッチャーが本気で投げてのシートバッティングでしたから。この年から坂口(智隆/ヤクルト)さんたちと自主トレするようになったんですが、早めに体を作っておいてよかったな、と思いましたね」

 シーズンに入ってもメンバーは次々と入れ替わった。遠征先に着いた途端にクビになって、そのまま返される、ということもあった。そういう環境だから、選手の目の色も違う。


☆サインプレーが成長の弊害になってしまう日本野球

「試合中に足をスパイクで踏まれて13針縫ったのに、そいつ、クビがいやだから、次の日も試合出てましたね」

 そういう環境のため、プレースタイルも日米では違いがあるという。驚いたのは投手からの牽制だ。

「二遊間とピッチャーでサインなんかないですよ。リードがでかいなと思ったら、ショートの僕がランナーの背中越しにグラブを挙げながらベースに入るんです。そうしたら、ピッチャーは牽制を放るんです。変化球の握りからでも平気で投げてくるから、最初は驚きましたけど、いいことだと思いますよ。

 日本では、サインプレーの練習いっぱいするけど、実際シーズンで何回するの? って感じですよね。日本の場合、キャンプのメンバーで1年戦っていきますよ、っていうつもりだから、練習をするんでしょうけど、あっちはメンバーが入れ替わりますからね。1年目なんか、レギュラーのセカンドだけで4人。100試合だったから、平均すると25試合。これに3試合でクビになったやつ、代わりが見つかるまでのつなぎでおったやつもいましたから」

 この違いは、単にキャンプ期間やメンバー構成の流動性の相違のためだけではないと西本は考えている。

「日本ではできないでしょうね。日本人って器用そうに見えて、型にはまってますから。中学生からそういう野球なので、“サインで動く”というのが当たり前だと思ってるでしょ」

 だから個々の選手のスタイルも日本は画一化していると西本は指摘する。

「日本の選手は、みんな同じ捕り方・投げ方するでしょう。そういう意味では面白くない部分はありますね。むこうは無茶苦茶なフォームだけどすごい球投げるやつとかがいっぱいいるんです。日本の投手は確かにいいフォームからきれいなストレートを投げますが、それで打たれたら仕方ないじゃないですか」


☆ギリギリの環境での戦いから生まれた“新しい自分”

 さまざまなものを吸収した2年だったが、本場での修行を経て、特にバッティングに対する構えが変わったという。

「技術面ではなくメンタル面ですね。スイングとかではないです、吹っ切れたんです。アメリカに行った時点でNPBはもうないな、って思いましたけど、それで吹っ切れたっていうより、アメリカのフィールドにいることで吹っ切れた部分があったんです。

 もともとホームランを打つバッターじゃないんで、日本にいる時は初めから逆方向っていう意識が強かったんです。でも、アメリカでは強い打球を心掛けるようになりました。スイングも思い切ってするように変わりましたね。練習ではホームラン、打てるんですよ(笑)」

 アメリカでスピードに慣れたことも大きいだろう。毎日、140キロ、150キロの速球を体感した西本にとって、日本の独立リーグレベルの投手は怖くなくなった。

「スライダーやチェンジアップでも145キロなんですよ。そういうピッチャーと対戦してたら、日本に帰ってくると、もう上に立てますよね。実際、戻ってきて、速いなっていうピッチャーは見たことないですから。おととしプレーしたBCリーグには結構外国人投手がいましたが、僕はカモにしてました。だって、彼らだって、145キロ投げても、僕がいたリーグより下の投手ですから」

 西本に聞いた。なぜアメリカでプレーすることで吹っ切れたのだろうか。

「この一本で首つながるし、ここで打てなくて、次の日も打てなければ、もしかしたらクビになるかもしれない。そういうプレッシャーの中で日々プレーしていると、どこかでむちゃくちゃ必死でやってる自分が出てくるんですよね。

 もちろん、アメリカという環境は過酷だったけれど、自分にとってはいい環境でした。そこでやってきた自分があるから、初球から三振が怖い、監督に怒られる、ってチョコチョコしたバッティングする選手を見ると、歯がゆいですよね。日本でプレーする彼らは、そういう経験していないから、わからないんでしょうけど。まあ、日本では、きちっとした形を仕込むんで、そうなってしまうんでしょう。そういう所は全面的に悪いわけではないんですけど、どうしても小さくなってしまいますよね」

 西本も今年30歳。独立リーガーとしては大ベテランだ。アメリカに戻るとしても、向こうの開幕は5月。それまでは四国アイランドリーグplusでプレーする予定だ。年々、レベルを上げている日本の独立リーグ。今年はさらなる「西本イズム」の浸透を期待して球場に足を運びたい。



文=阿佐智(あさ・さとし)
1970年生まれ。世界放浪と野球観戦を生業とするライター。「週刊ベースボール」、「読む野球」、「スポーツナビ」などに寄稿。野球記事以外の仕事も希望しているが、なぜかお声がかからない。一発当てようと、現在出版のあてのない新刊を執筆中。ブログ「阿佐智のアサスポ・ワールドベースボール」(http://www.plus-blog.sportsnavi.com/gr009041)

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