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イチローと門田博光のバッティングは同じだと思います

 雑誌『野球太郎』の連載でも御馴染み「伝説のプロ野球選手に会いに行く」の「週刊版」。現在、文庫版“伝プロ”も絶賛発売中!


 前回の続きです。

 パ・リーグで現役を全うした往年の野球人にインタビューすると、オールスターの思い出話がよく出てきます。対戦したセ・リーグのピッチャー、バッター、そのなかでもやはり巨人の長嶋茂雄、王貞治に関しては、まず名前が出ないことはなかったほど。マウンド上で相対したピッチャーのみならず、バッターも試合前から注目していたようですが、それは永淵さんの場合も同じでした。

「あの頃、昭和40年代、オールスターといえば、長嶋さんと王さんぐらいしか、セントラルにはすごいバッターはいなかったような…。僕に言わせれば、そんな印象が残っています」

 永淵さんは、首位打者のタイトルを獲った1969年に始まり、70年、72年とオールスターに3回出場。セ・リーグのクリーンアップには、常に、長嶋、王の名前がありました。

「僕はその、人のバッティングを見て勉強しようという気はなかったですね。間近に長嶋さん、王さんを見たとしても。ただ、バッティングそのものはじっくり見て、参考にすることはありましたよ。普段の公式戦でも、たとえば、南海戦だったら野村(克也)さん。どういうバッティングしてるかな、とか思いながらね」

 ここで言う「勉強する」と「参考にする」は似ているようで違うと思います。バッティングを「勉強」というと、まだ何も結果が出ていない状態が想像されますが、「参考」というと、すでに確固たる自分のバッティングがあって、結果も出ている状態が思い浮かびます。


▲現役引退後、地元の佐賀市内で『やきとり あぶさん』を経営している永淵さん。お店は創業33年目を迎えた。

「野村さんの場合、あのバッティングは本当にコンパクトだったから、僕には参考になりました。脇を強く絞って、前足をちょっと内に入れてね、キュッとスイングする。でもボールはスタンドまで飛んでいく。フリーバッティングなんか見よったら、ものの見事ですよ」

 にわかに口調が早く、強くなって、ぜひ語りたいという思いが伝わってくるようでした。

「いや、それはね! あの頃、土井(正博/元近鉄ほか)でも、張本(勲/元東映ほか)さんでも、大杉(勝男/元東映ほか)でも、野村さんでも、長池(徳二/元阪急)なんかでも、試合前の練習中は半分以上、スタンドまで飛んでいきます。やっぱり、違う! 打球の飛び方が。そのなかで野村さんはいちばんコンパクト。極端にいえば、キュッとこれだけ。それでもヘッドスピードが速いから飛ぶ。あの人は2軍時代、一升瓶に砂を詰めて、しょっちゅう手首を鍛えてたと聞いてますよ。テスト入団ですからね、あの人は。それはもう、努力をされてますよ」

 映像では見たことがある野村克也のバッティング。確かに、構えたときのグリップは低い位置にあって、大振りするようなイメージはありません。ただ、ホームランの映像ばかり見たためか、「コンパクト」という印象はなかったので、永淵さんの話は新鮮に感じました。

「野村さんが、打つ前にちょっと前足を内に入れるのは、イチロー(ニューヨーク・ヤンキース)のバッティングにも通じるところがある。イチローは、どっちか言うたら内股ですもんね。それで、内股のまま、右肩を開かずに打ちにいくのがいい」

 野村克也からイチローにつながるバッティング話。やはり新鮮に感じます。

「イチローは右肩が絶対に開かないですもんね。要するに、振った後に初めて開く感じ。そのへんが彼のバッティングのすごさですけど、僕はその点、南海の門田博光も同じだと思います。彼のバッティングも、絶対、右肩が開かない、右足も開かない。門田はすごかった。あのバッティングをするのはね、昔は王さん、今はイチローのほかにいない。どちらかといえば、松井稼頭央(楽天)もそういうバッティングですけどね」

 歴代1位の通算868本塁打を記録した王、2位の657本を記録した野村、3位の567本を記録した門田と、日米通算4000本安打のイチローとの共通項が語られる意外さ、面白さ。しかも松井稼頭央までが出てきて、僕は、「こういうふうなバッティング話を聞くのは初めてです。特にイチローと門田さんが同じとは…」と永淵さんに伝えました。

「そうですか? 僕に言わせれば、おんなじようなスイング。背中でバッティングやってる感じで、これが理想ですよ。背中で振ってる、っていう。右肩が入ったままでピュッと打つ感じですね」

 初めて聞く、「背中で振ってる」という表現。なんとなくイメージできるようでいて、実際にはかなり奥深いものがあると感じられる永淵さんの言葉――。次にイチローを観るとき、あるいは松井稼頭央を観るとき、頭の片隅に置いておきたいと思いました。

※永淵洋三さんのインタビュー記事は、『野球太郎 No.006』の<伝説のプロ野球選手に会いに行く>で掲載されています。このコーナーでは3回にわたって、誌面に載せ切れなかった話をお伝えしてきました。


▲野球関連の装飾は何もない店内だが、カウンターには『あぶさん』がいた。


▲所在地:佐賀県佐賀市柳町2-13 営業時間17:00〜23:00 日曜定休


<編集部よりお知らせ>
 facebookページ『伝説のプロ野球選手に会いに行く』を開設しました。プロ野球の歴史に興味のある方、復刻ユニフォームを見ていろいろ感じている方、ぜひ見ていただきたいです。

文=高橋安幸(たかはし・やすゆき)/1965(昭和40)年生まれ、新潟県出身。日本大学芸術学部卒業。雑誌編集者を経て、野球をメインに仕事するフリーライター。98年より昭和時代の名選手取材を続け、50名近い偉人たちに面会し、記事を執筆してきた。昨年11月には増補改訂版『伝説のプロ野球選手に会いに行く 球界黎明期編』(廣済堂文庫)を刊行。『野球太郎 No.006』に掲載の<伝説のプロ野球選手に会いに行く>では、元祖[二刀流ルーキー]永淵洋三さんにインタビューしている。
ツイッターで取材後記などを発信中。アカウント@yasuyuki_taka

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