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苦節5年、村田透(インディアンズ)が立った「スタート地点」

「ついに、この時が来たか」

 メジャー昇格を告げられた時の気持ちを村田透はこう語ってくれた。そう思うと同時に、これまでの様々なことが頭の中でフラッシュバックしたと言う。

 大学日本一、巨人ドラフト1位。大阪体育大時代から先輩になぞらえて「上原浩治2世」と呼ばれた。誰もが羨む野球人生の王道を行ったはずだったが、いつの間にか逸れてしまっていた。日本のプロ野球で残した成績は、2軍での2勝10敗のみ。村田のようなまとまりのある投手には実戦での経験がものをいうのだが、戦力の豊富な名門球団では、一度つまずくと、なかなかチャンスを与えてもらうことはできなかった。

 だから、3年目のオフに戦力外を言い渡されても、引退するつもりは毛頭なかった。しかし、当時24歳の村田に声をかける球団はもはや日本にはなかった。そんな村田の頭にひらめいたのはアメリカだった。2年目の秋に参加したアリゾナでのフォールリーグで体感した本場の野球が、彼の脳裏に焼き付いていたのだ。メジャー候補生とのプレーは、野球の楽しさを呼び起こしてくれた。

「“コレじゃない”はダメなんです、これを投げないといけないんです」

 クリーブランド・インディアンズのシングルAから始まったキャリアは、年々レベルアップしていき、5年目の今年は3Aの先発ローテーションを任されていた。

 アメリカへ行って村田がまず心掛けたのは、「適応」ということだった。日本からメジャーリーグへ移籍した投手の一番の悩みの種は滑るボールだというが、村田も1年目は気になって投げることすら、できなくなった。

「気にしてもダメなんですよ。日本のボールに慣れてしまったら、気にならないわけがないんです。でも、同じアメリカといっても、キャンプ地のアリゾナとクリーブランドのある中西部とでは乾燥度が違うから、ボールの滑り具合も全く違うんです。メジャーとマイナーでもボールが違うし。だから、細かいことを気にしてもダメなんです」

 マウンドでは、低めへ投げるコントロールに気を付けた。低めさえいけば、たとえ結果が悪くても評価が落ちないことを村田は肌で感じ取っていった。



 昨年からは、加えて、スピードも重視するようになった。力のあるストレートがメジャーへの最後のピースであることを自覚したからだ。少しずつ試行錯誤を重ねながら、村田は、自分のピッチングスタイルをアメリカに、あるいは自分のいるレベルに合わせて変えていった。

「またこの場所に戻ってくるぞ」

 6月27日、雨天中止となった翌日のダブルヘッダー第1試合の先発を言い渡された村田だったが、当日になって変更が言い渡された。同じダブルヘッダーでの先発だったが、第2試合、そして場所は親球団・インディアンズの移動先ボルチモアだった。

 すでにプロ8年目の30歳。初めてのメジャーのマウンドにも舞い上がることはなかった。

「自分では、いたって冷静に見えていたと思います。球場の雰囲気も楽しめましたしね。僕の所属していた3Aのコロンバスは、アメリカのマイナーでもトップを争うくらいの人気球団で、いつも1万人近くの観衆がいるんですが、メジャーのスタンドはそれとは比較にはならなかったですね。たくさんのファンの視線を感じました。それで余計に『やってやるぞ!』っていう気持ちが強くなりましたね」

「自分のピッチングをする」。それだけだった。なにも特別なことをする必要がない。3Aでの自分のベストピッチをすれば、そうそう打たれることはないと村田は確信していた。しかし、結果は無念なものに終わった。

 初回は無難に3者凡退に抑えたものの、2回に2死から味方のエラーで出塁を許すと、この後、連打で先制点を失うと、4回に2本の本塁打を浴び、3回1/3で自責点3というほろ苦いデビューとなった。

 それでも、村田は胸を張る。

「率直に悔しかったです。そして、またこの場所に戻ってくるぞ、という気持ちが強くなりました」

 この登板の結果いかんにかかわらず、村田の「ファーム落ち」は決まっていた。今回の昇格はあくまでダブルヘッダーという不測の事態のために発生した先発の頭不足を補うための臨時的なものだったからだ。登板後、村田はメジャーのマウンドの余韻に浸ることもなく、荷物をまとめて、3Aに合流した。



 メジャー復帰に向けての課題について水を向けたが、村田の答えはそっけない。

「そういうことは他人に言うことではないような気がするので、控えさせていただきます。自分の心の中に留めさせてもらいます。まあ、メジャーで通用する内容のピッチングをすることですかね。打たれはしましたが、やれる手応えは感じました。ホームランは自分のミスですので」

 今回の昇格で、メジャー40人枠には入った。次の目標は当然、再びメジャーの舞台に戻ることだ。

 村田透の進む道は、まだ先へ続いている。


(文=阿佐智)

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