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昨夏最大のヒーローとなった規格外の外野手! 夢を語りたくなる楽天・オコエ瑠偉の正味に迫る


『野球太郎 No.016 2015ドラフト総決算&2016大展望号』に掲載されている「野球太郎ストーリーズ」。ドラフト指名を受け、まさにプロの扉を開こうとするルーキーたちの野球人生を振り返る、人気企画となっている。

 今ドラフトでイキのいい野手を求めた楽天が“意中の人”平沢大河を外した後に指名したのは、抜群の身体能力で甲子園を沸かせた“あの男”だった。粗よりも夢を語りたくなるワクワク感で魅了する男の正味に迫る。


星野副会長誕生の効果!?


 ドラフトから数日後。あるスカウトと雑談レベルで各球団の指名を振り返っていると、楽天の話題になった。1位でオコエ、2位で大商大の吉持亮汰。スピードのある野手を続けた指名に「星野さんがね…」とそのスカウトは切り出した。

 曰く、星野仙一氏が9月初めに楽天の球団副会長となり、球団運営の全権を握ったことで、ドラフト路線に影響があったのだろう、と。確かに星野氏が新しい職に就き、間もなく平沢大河(仙台育英)の1位指名を公言。地元のスターであり、星野氏が中日の監督時代にドラフト1位で指名し、1年目から起用した立浪和義の再現をイメージさせた。残念ながら平沢は抽選で外れたが、そこで指名したのがオコエだった。

「星野さんが今のメンバーを見渡して『若い野手がおらんやないか』と言って、方向性が固まったようです」と先のスカウト。2015年はパ・リーグの最下位。投打に即戦力の選手が欲しいところだったが、イキのいい野手の指名を続けた。

 ただ、近年のドラフトではスケールのある高卒投手を続けて指名しており、今回は野手の側からもその路線を継続したとも言える。ともあれ、おそらくは星野の副会長就任と平沢の“外れ”により楽天・オコエが誕生した。


課題明白なバッティング


 指名後も何かと話題となり、メディアを賑わせているオコエ。梨田昌孝新監督も早々に来春の1軍キャンプ同行を明かしたが、気になるのはその実力だ。

 昨年発売した『野球太郎No.16 2015ドラフト直前大特集号』でも書いたが、夏の甲子園で関東一の初戦後に話を聞いた別のスカウトは当時、こう話していた。「力だけを純粋に考えたら3着…、(積極的に指名へ)いくところがあって2着。今年は上位候補の選手が少ないから24人には入るかな、という感じだと思いますが…」。

 冒頭のスカウトも楽天話からオコエの話題に移ると、まず「バッティングは時間がかかるでしょうね」と言った。これはオコエを語るときの決まり文句で、スカウトや、オコエをある程度知るマスコミ関係者は揃ってこの一言を入れて語り始める。

 ただ、夏の甲子園時も、戦前にスカウトや同業者から「外の変化球にはついていけない」「内角も相当厳しい」と聞いていたが、内角で言えば比屋根雅也(興南)から一発を放ち、上野翔太郎(中京大中京)からも会心のファウルを1本。このあたりは『ドラフト直前大特集号』に詳しく書いたが“意外に対応力がある”というのが、僕の甲子園を見終えたところでの感想だった。そして、この見立てに「確かに…」と頷いたのがU-18日本代表の指揮を執り、短期間とはいえオコエを近くで見た大阪桐蔭・西谷浩一監督だ。

「バッティングの課題はいろいろあるとは思います。ただ、U-18の大会期間中でも成長したところが見えましたし、練習でもちょっと言うと、その場ですぐ実践できる。ここはすごいと思いましたし、そういう面も持った選手だと、一緒にやってわかりました」

 もっと不器用、クセが強いと思っていたら、案外…ということだ。そんな西谷監督にオコエは合同練習が始まってすぐ、「どうですか?」と意見を求めてきたという。そこで「自分のバッティングをどう思ってるんや?」と質問を返すと、「変化球の見極めがあまり…」とオコエ。同じ認識だったため、引きつけて逆方向へ打つ形を意識させるべく、西谷監督が右打ちを指示。すると思いのほか、いい打球を飛ばしたという。ただ…。

「継続性があまりなくて。やるとすぐにできて『オッ!』となるんですけど、次の日になると元に戻っているんです」

 これは関東一の米澤貴光監督も語っていた“特徴の1つ”。もちろん関東一でも課題克服に様々取り組みながら、修正箇所がなかなか定着しなかった。西谷監督も中田翔(日本ハム)を指導していた当時によく、「すぐできるんですけど次の日には…」と口にしていたものだ。それほど、長年身についてきた形を変えるのは難しい。ただ、その場限りでも修正できるということは、プロの世界で朝から晩までスイングを繰り返していけば…と、希望も膨らんだ。

このひとコマが消えれば…


 さらに――。オコエのバッティングには、各球団のスカウト陣がほぼ口にした「あるクセ」がある。トップからステップをし、打ちに向かうなかで、そのままバットが出ず、一旦、右肩付近にバットを戻して振りにいくのだ。この点について米澤監督は『ドラフト直前大特集号』でこう話していた。

「トップを取ったら、そのまま出していかないと。体の近くに一回持ってきたいのか、単なる彼のクセなのか…。ここは修正しきれなかったので、今後の改善点です。無駄な動きが入ると振り出しも遅れるし、課題の変化球への対応でも“間”が取れませんから」

 西谷監督も打撃練習を見てこの点に気付いたが、同時にその「クセ」の直前に現れる一コマに目が引かれた。オコエにも「俺はお前のバッティングで“ここ”が一番好きや」と伝えたそうだが“ここ”とはテークバックのことだ。

「横で見ているとテークバックで腕が、ぐうううーっと伸びてくるんです。あれは独特。じわじわ、ぐぐ〜っと伸びてくる。このテークバックからの割れ、トップの深さ。最近は構えたところからそのままバットを出す選手が多いですが、自然に大きく腕が伸びる。あの形を見たら、これはロングもいけるな、と思いますよね」

 確かにそうなのだ。オコエのトップは深く、そのコマだけを見れば、昭和プロ野球界のスターの写真のようだ。近年は道具の進化、高校野球では特に金属バットの影響もあり、多彩な変化球を持つ投手も増えた。そのため打者は、体の動きを小さくし、浅いトップからコンパクトに振り出す形が主流になってきた。そのなかで…だ。

 ただ、この長所が現状では生かせていない。直後に、先の“クセ”が入るからだ。十二分に取ったトップの後、オコエは右肩の前にバットを持ってくる。この余分な一コマに「もったいない!」と西谷監督の言葉にも力がこもった。

「オコエに言ったんですよ。『せっかく鞘から刀を綺麗に抜いて、そこからシュパンッ! といくか思ったら、一回ククッと小さい動きが入る。シュパンといかんかい!それやったら最初から右肩(付近)にバットおいて打ちにいってるのと同じやないか。せっかくのテークバックがもったいないわ!』って。でも、わかってすぐできれば苦労はしないですよね」

 得意のたとえ話と、シュパン、ククッ! というオノマトペ指導。どこまでオコエに響いたかわからないが、指摘はまさしく、だ。

 西谷監督の予測では「結果を出したい、空振りをしたくないという気持ちが、ああいう形にさせているんじゃないかと思います。ティーバッティングの時は、あの余分な動きはないですからね」。

 当てたいという気持ちが割れをなくし、下半身と一緒に上体とバットが出ていく、いわゆる突っ込む形を作ってしまう。すると当然、変化球の見極めもあやしくなり、確率が落ちるということだ。

 オコエの今後の注目点は、どこで「余分なひとコマ」が消えるか。逆にここが解消されれば、時間がかかる、と言われていた男が意外に早く、1軍のグラウンドで活躍を見せているかもしれない。何と言っても足と肩はあの通りなのだから。


粗さより夢に期待を膨らませ


 すっかり西谷監督とのオコエトークが止まらなくなった。オコエは語るべき話題も多く、語りたくなる選手でもあるのだ。

「明るく人懐っこいし、コメント力もある。チームにいい影響を与える選手」。短期間ですっかり魅了された様子の西谷監督に「バッティング以外」の印象も尋ねてみた。「あの足はスピードに乗ってしまえば、それは速いですよ。エンドランで二塁から三塁、あわよくば一気にホームまで…、そんなイメージも沸きました。あのスピードにアグレッシブな姿勢、相手野手は怖いんじゃないですかね」

 ただ、盗塁はこれからでしょう、と加えてきた。U-18の大会では「行ってもいい」というサインを出したが、すぐにスタートを切らなかった。ここは印象と違った。

「イメージではフォアボールでも選んだら、一塁へ向かいながら、そこでもう「走ったるぞ」くらいの選手かと思っていたんです。でも、違いました。森友哉(西武)はオコエとスピードは違いますが「行けたら行け」のサインを出したらすぐ走りました。それでアウトになっても、サインを出した監督のせいやろ! くらいの雰囲気で帰ってきてましたから(笑)」

 大股でスタート時の重心も高め。トップスピードへの乗り方、バッテリーとの駆け引きなど、走塁面にも明確な課題がある。また、守備に関しても「あの打球捕るか?追いつくか? という守備範囲の広さ、反応のよさは抜群」(西谷監督)という一方、課題はスローイングだ。肩の強さは十分だがモーションがいかにも大きい。強い球を投げたい気持ちが強いのだろう。ここも早々の修正点だ。

 ただ、粗探しには困らないが、関東一へ入学した頃は、さらに打つも投げるも我流だった。それが2年半の取り組みのなかで“ここ”まできての今なのだ。西谷監督も笑顔一杯にエールを送った。

「粗を探せばいくらでもある、夢を持てばいくらでもある、そんな選手ですよね。僕のイメージでは新庄剛志選手(元日本ハムほか)のような、次に何をするかわからないワクワク感がある。あのボール捕るか! あさこから刺すか!敬遠のボール打つか! みたいな(笑)。ファンの人がオコエを見に行きたい! そんな風に思う選手になるんじゃないでしょうか。わずかでも関わらせてもらった者として、僕も応援しています」

 かつては大阪桐蔭の名コーチと言われた西谷監督も瞬く間に魅了したオコエ。プロの世界でも、その豊かな資質と愛すべきキャラクターで指導者たちの興味を一手に集めるはず。果たしてここからどう育っていくのか。…と、書きながら、1軍デビューが思いのほか近くにやってくるような、そんな気がしている。
(取材・文=谷上史朗)


この記事は『野球太郎 No.016 2015ドラフト総決算&2016大展望号』の「野球太郎ストーリーズ」よりダイジェストでお届けしております。


野球太郎No.016
2015ドラフト総決算&2016大展望号
発売日:2015/11/28
価格:1500円
ISBN:9784331803196

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