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第3回 「記憶に残る引退試合を見せてくれた選手」名鑑

 「野球なんでも名鑑」は、これまで活躍してきた全てのプロ野球選手、アマチュア選手たちを、さまざまな切り口のテーマで分類し、テーマごとの名鑑をつくる企画です。
 毎週、各種記録やプレースタイル、記憶に残る活躍や、驚くべく逸話……などなど、さまざまな“くくり”で選手をピックアップしていきます。第3回のテーマは、「記憶に残る引退試合を見せてくれた選手」名鑑です。

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 今シーズンは長い間第一線でプレーした名選手たちが多く引退を表明しました。阪神の金本知憲選手、城島健司選手、ソフトバンクの小久保裕紀選手、広島の石井琢朗選手、昨シーズンまでオリックスでプレーした田口壮選手など、90年代後半から2000年代にかけての主役たちがユニホームを脱ぐことになりました。金本選手の表情や言葉から感じたことでもありますが、引退を決めた選手は、引退を決心するまでの葛藤から一気に解放されるからか、キャリアで最も素を出してプレーしているような気がします。引退試合でもその選手“らしさ”がよく表れてはいないでしょうか? 今回は引退試合で“らしさ”を示し、キャリアにピリオドを打った選手(80年代以降)を、選んでみました。

清原和博(オリックス)

 2008年も今年と同じように大物選手の引退が続いた年だった。3月にはメジャーリーグ、ピッツバーグ・パイレーツのキャンプに参加していた桑田真澄が、7月にはやはりメジャーで現役続行を目指していた野茂英雄が引退を表明。そして8月、彼らと同世代の清原和博が引退を示唆し、そこからの2カ月は引退試合までのカウントダウンとなった。9月29日には古巣西武の本拠地、西武ドームで引退セレモニーを実施。予行演習を経て、迎えた10月1日の京セラドームでの正式な引退試合では4打席に立ち、計18球すべてストレートを投じた杉内俊哉から1安打1打点。最終打席は空振り三振を喫し、ヘルメットをとって杉内に一礼した。試合終了後のセレモニーには歌手の長渕剛がギターを持って登場。直立不動でむせび泣く清原を前に、テーマソング「とんぼ」を熱唱するという不思議な引退セレモニーも行われた。試合前には王貞治監督との和解も。
 極限までショーアップされた引退試合であり、試合に至るまでの演出もあり、マスコミはオリックスと清原に注目した。グッズ販売は格段に伸び、引退試合のチケットは短時間で売り切れるなど興行的な貢献は大きかった。また、巨人を放出された自分を獲得したオリックス・仰木彬監督への感謝をことあるごとに述べていた清原の姿勢が表れた引退試合だったのではないだろうか。

[清原和博・チャート解説]

引退表明直前、桑田に打撃投手を頼み、最後の1軍昇格に向け調整したのにはじまり、引退を盛り上げるためのこれでもか、とばかりの演出は過去例がないほど。演出度は5。直球勝負に三振し頭を下げる姿は、変化球で勝負した投手をなじることもあった清原を考えると寂しいものが。哀愁度は4。それまでの催しが盛りだくさんで、意外とスピーチは記憶に残らず? 言葉力は3。
※チャートは、“記憶に残る引退試合”が生まれる上で大事な要素、周囲の協力や粋な配慮、偶然のめぐりあわせによる「演出度」、全盛期とのパフォーマンスの差、その上で全力を尽くす選手が醸す「哀愁度」、引退にあたり残した「言葉力」の響き方について、それぞれ5段階評価しました。(以下同)

池山隆寛(ヤクルト)

 長く厳しい現役生活で傷ついたベテラン選手が、力を落としながらも、心意気だけで自らの野球人としての哲学を体現してしまう引退試合も感動を誘う。2002年10月17日、ヤクルト一筋19年の現役生活、最後の試合を迎えた池山隆寛は右足の故障をおして3番・遊撃手としてグラウンドへ。久々のフル出場に右足は悲鳴を上げ、全力疾走もままならない。1点のビハインドで延長10回裏、「池山にもう一打席回そう」と1番・飯田哲也が一死からセーフティーバントで出塁、2番・稲葉篤紀がバントで送り、一打同点、本塁打が出れば逆転サヨナラ、という場面をお膳立てする。1球目、左足を高く上げ思い切り踏み込むも空振り。2球目、さらに高く足を上げ再びフルスイング。痛めている右の軸足ではバランスをとりきれず、ずるりとすべり倒れそうになる。3球目、池山はそれでも向かっていく。152キロのストレートに、無様でもボールを叩くことだけにすべてをぶつけた魂のフルスイング。バットは空を切ったが、それは誰がなんと言おうと“ブンブン丸”の豪快なスイングそのものだった。

[池山隆寛・チャート解説]

90年代のヤクルト黄金期をともに盛り上げた飯田と稲葉がバント&ヘッドスライディング。池山の晴れ舞台を笑顔なしで真剣に支えたチームメイトとの絆が熱い。演出度は4。右足のケガはフルスイングに耐えられないことは明らか。スイングするたびよろけるがそれでも一本足でバットを振っていくプライドが涙を誘う。哀愁度5。「必ず皆様の前に戻ってきます」と指導者を目指すことを示唆。言葉力4。

野村謙二郎(広島)

 自らがキャリア終盤を迎えるとともに低迷期に入っていった広島の人気は年々低下。空席が目立つようになった広島市民球場だったが、2005年の秋、野村謙二郎が1番・遊撃手として出場した引退試合は、平日のナイターにもかかわらず29777人で超満員となり、スタンドは真っ赤に染まった。この試合は、なんといってもスピーチに尽きる。 その大観衆に向かって、満員の中でプレーする喜びと興奮を伝え、最後をこう締めた。
「今日集まっている子どもたち、野球はいいもんだぞ! 野球は楽しいぞ!」
「頑張れ」でも「頼んだぞ」でもなく、「いいもんだ」「楽しいぞ」という言葉を選び、届けた未来の野球選手たちへのエール。野球に対する感謝と愛情の伝わってくる素直な言葉は、17年間の濃密なキャリアを経て出てきたものと考えると強い説得力がある。野球がしたくなってくる。

[野村謙二郎・チャート解説]

派手な催しよりも、野村謙二郎のプレーをしっかりと見せようという引退試合。演出度は3。数年間、右太もものケガなどで成績を落としてはいたが、6回の第3打席にはセンターオーバーの二塁打を放つなど力を発揮。哀愁度は3。「野球はいい」と、そのロマンをしみじみ伝えたメッセージは印象に残った言葉力は5。

その他印象に残った引退試合と引退選手

堀内恒夫(巨人)

 1983年10月22日、大洋戦(後楽園)の8回表より登板。その裏、打線の奮闘で回ってきた打席で通算21本目となる本塁打。セーブも記録した。

広澤克美(阪神)

 2003年、ダイエーとの日本シリーズで5打席連続三振というシリーズタイ記録をつくっていたが、10月27日の最終第7戦、5点差を追う9回二死に登場。和田毅から左翼席へ本塁打。

小野公誠(ヤクルト)

 2008年10月12日、横浜戦(神宮)の8回裏に代打で出場し本塁打。小野はプロ入り初打席でも本塁打を打っており「プロ入り初打席と最終打席が本塁打」という史上初の記録を樹立。

鈴木健(ヤクルト)

 2007年10月4日、横浜戦(神宮)の8回裏に代打出場。最終打席を惜しむかのように15球粘る。13球目には邪飛を三塁手の村田修一が見送る粋な計らいも。

ケン・モッカ(中日)

 1985年9月19日、巨人戦(ナゴヤ)の7回裏に代打出場。西本聖のシュートに詰まって三ゴロも大歓声を浴びた。予定を変え守備にもつき、試合終了まで出場。外国人選手としては異例の胴上げも。

諸積兼司(ロッテ)

 2006年9月24日。日本ハム戦(千葉マリン)に先発出場。試合後、周囲に促されホームベース上に敷いたシート上に水を撒きヘッドスライディング。雨天時のパフォーマンスを再現した。

伊藤智仁(ヤクルト)

 2003年10月25日、教育リーグ・巨人戦(戸田)で最後の登板。ストレートの球速は109キロながらも、復活を信じてあがききる姿が涙を誘った。

緒方孝一(広島)

 2009年10月10日、巨人戦(マツダスタジアム)で8回表にセンターの守備に入る。その裏の打席で三塁打。捕逸を突きホームに突入するも、足がもつれ転倒しアウト。全力プレーの意思はありながらついていかない肉体。哀愁漂うプレーがファンに決意を理解させた。

佐々岡真司(広島)

 2007年10月6日、横浜戦(広島市民)で9回表、二死から登板。迎えた打者・村田修一に高めのボールを本塁打されたが、試合後、頭を下げる村田に、佐々岡は「打たれて吹っ切れたよ。気持ち良かった」と対応。村田は最終的に本塁打王を獲得した。

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 こうやって見ていると、どの選手も“いかにも”な引退試合になっている気がします。引退試合が催される選手は、多くが長い現役生活を経験しています。そのキャリアによって築いた自らの個性が、引退試合に凝縮して反映されるのかもしれません。
 ただ、間違いなく言えるのは、引退試合にたどり着ける選手は非常に限られた存在であること。その幸せを噛み締め、初心に戻って素直な気持ちで出場しているからこそ、その選手の素の部分がゲームに表れるのかもしれません。今シーズン引退した選手の皆さん、本当にお疲れさまでした。

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