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対照的な2人の新人投手。高校時代から注目された鉄腕・原樹理と、大学時代に覚醒した快腕・今永昇太

 交流戦も終わり、見る側もグダグダになりかねないペナントレース。開幕直後のようなフレッシュな目線で見続けるためには、新顔の存在が欠かせない。特にドラフトで指名されたルーキーたちに対しては、初々しさと若者らしいハツラツさが相まって、温かい声援が飛んでいる。

 今季のドラフト1位指名選手は能力の高いプレーヤーが多く、すでにソフトバンクと日本ハムを除いた10球団が金の卵を1軍の舞台に立たせた。オコエ瑠偉(楽天)や小笠原慎之介(中日)のように、高卒でも立派な戦力として躍動する例も近年では珍しくない。

 だが、本当の意味で「即戦力」と見なされるのは、やはり大卒や社会人出身の選手だ。

 3回目を迎える「高校球児コース別プロ入り物語」の段階コース編。高校・大学時代を順当に過ごしてプロで大成した【順当型】と、高校時代は無名も、大学時代で覚醒してプロで大成した【覚醒型】を紹介するこのコーナー。


 今回はともに大卒で、開幕からローテーションの一角を担ってきた原樹理(ヤクルト)と今永昇太(DeNA)に焦点を合わせ、彼らのプロ入りまでの歩みを振り返ってみたい。

原樹理のタフネス伝説


「とにかく投げまくる」。昨季のドラフト直前、あるスポーツ紙が原樹理のことをそう紹介していた。確かに、高校時代も大学時代も「投げまくった」エピソードに関しては事欠かない投手である。

 兵庫県で生まれ育った原は東洋大姫路高に進学。3年の夏、甲子園出場を賭けた加古川北高との決勝で延長15回196球を投げ切るも、2-2の引き分け。翌日の再試合は登板回避も考えられたが、志願の先発。ここで圧巻の2安打完封で甲子園出場を決めてしまうのだから、恐れ入る。甲子園でも先の登板過多で体がボロボロになりながらも、8強に進出。甘いルックスと珍しいその名前で、人気球児の仲間入りを果たした。

 東洋大に進学すると、1年春の開幕戦から神宮のマウンドを経験。順調にいけばエースの座は4年間安泰と思われたが、野球の神様は原に試練を与える。1年秋のリーグ戦直前に開幕投手に指名された気負いが裏目に出て絶不調に陥ると、2年時には右ヒジの状態が思わしくなくオフにクリーニング手術を経験。チームも2部降格の屈辱を味わった。


 復調したのは3年秋のこと。立正大を相手に2日連続の完封をマークした。2日目に至っては「感覚を忘れたくない」と志願の連投で1安打完封。3部との入替戦もちらつく中で結果を残し、最終学年での飛躍を予感させた。

今永昇太は進学校の無名左腕から名門のエースへ


 腕立て伏せが10回もできない新入生。今永昇太はどこにでもいるような、進学校の野球部員の1人だった。

 福岡・北九州市で育った今永は、近隣の進学校である北筑高で野球に勤しんだ。入学当初は体も小さく平凡な選手でしかなかったのだが、持ち前の勤勉さと地道なトレーニングの成果もあり、2年時のひと冬で球速が10キロも上昇。県内屈指の速球派左腕として、プロのスカウトの熱視線を浴びる存在となった。

 駒澤大に進学後は2年春からエースの座をつかむと、3年秋にはMVP・最優秀投手・ベストナインの個人3冠に輝く。一人で7勝を挙げ、89奪三振はリーグ史上5位の快記録。明治神宮大会でもチームを優勝に導き、ドラフトイヤーを前に「大学ナンバーワン左腕」の称号は揺るがなかった。


最後の秋、プロ入りと入替戦での邂逅。物語はまだまだ続く


 迎えたラストシーズン。原は主将に就き、1部昇格のために腐心した。その結果が春秋2シーズンで14勝13完投の驚異的な成績。8月に行われた巨人とのプロ・アマ交流戦では、8回までノーヒットノーランの快投。ケガの間に習得したシュートが冴え、ゴロアウトの山を築く投球スタイルを確立した。

 一方の今永は、春のリーグ戦前に左肩の肉離れを起こしてしまい、年間を通して本来のパフォーマンスができないでいた。プロ入り、それもドラフト1位間違いなしと言われた逸材にもかかわらず、社会人でステップを踏むことを視野に入れるまで苦悩していた。

 対照的なラストシーズンを送っていた両者だが、最終的にはともにプロ志望届を提出。原は外れ1位でヤクルトへ、今永はDeNAに単独で1位指名を受けた。

 ドラフト会議から数週間後、2人はリーグの入替戦で相対する。今永が1回戦で12奪三振を記録する完封勝利を挙げると、原は2回戦で好救援を見せ対戦成績をタイに戻す。3回戦、勝った方が下級生に神宮でのプレーを置き土産にできる一戦は当然のごとく両者が先発。原は完投勝利、今永は5回途中KOと対照的な結果となったが、その存在が入替戦という独特の雰囲気にさらなる緊張感をもたらしていた。

 プロ入り後は開幕ローテーションに入り、一定のクオリティーを見せてきた両者。ここに来てともに2軍に行くこととなったものの、実力は十分我々に伝わったことだろう。逞しくなって再び1軍のマウンドで躍動する2人の姿を楽しみにしたい。

 そして、彼らの投げ合いが最高の状態で実現することを願っている。


文=加賀一輝(かが・いっき)

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