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野球留学と甲子園〜甲子園のために痛みを分け合うことで親子も成長する

●野球留学者の3分の1は「大阪・兵庫」出身!?

 3月7日に発売され、好評を博している野球太郎シリーズのニューフェイス、『野球太郎育児Vol.1』。その中で「緊急レポート・なぜ大阪は逸材を輩出し続けられるのか?」というタイトルの記事が掲載されている。

 データによると、2014年夏の甲子園大会でベンチ入りした全49校の球児のうち、出身地とは異なる都道府県の高校に越境入学し、甲子園の土を踏んだ選手は251人。その内訳をみると、最多が大阪府出身者の54人。次に多いのが大阪府の隣に位置する兵庫県出身者の26人。いわゆる「野球留学」をした上で甲子園の土を踏んだ選手の約3分の1が「大阪・兵庫出身」だった、という数字が明らかになった。

 記事によれば「こうした事象を説明するにあたり、語られる有力な理由は2つある」という。

 まずは大阪府の「人口」が多いこと。単純に人口が多ければそのエリア出身の有名人も多くなり、切磋琢磨が生まれる。もう1つは大阪が高校野球の「激戦区」であること。大阪桐蔭高を筆頭とする強豪がひしめく中、地元大阪の高校に進学しても甲子園出場は期待薄。それならば、地方の甲子園常連校の門を叩いたほうが夢の実現に近づく、と考える球児の割合は高くなる、という分析だ。

 しかし、大阪府と同程度に人口が多い都市圏は、ほかにも全国にいくつか存在するため、この説明は当たってはいるが、完全ともいえない。そこで著者は実際に大阪の地を訪問。少年野球チームなどに取材をしながら、このデータに潜む背景を探っていくという興味深い展開でページは進んでいく。

●野球留学にまつわる周辺事情

 筆者は兵庫県出身。現在も甲子園球場から徒歩圏内の地域に住んでいるが、言われてみれば周囲を見渡しても、ほかの都道府県の高校への進学を選択する球児は珍しくない。「野球留学」という行為に対する敷居は全国的に見れば低い、と言っていいのかもしれない。

「◯◯さんの下の子、青森の△△高校に行くんだって」
「□□さんちのお兄ちゃんは鳥取の★★高校に決まったらしいね」

 進路が決まる季節になると、そんな会話が買い物途中の奥様方の井戸端会議で繰り広げられていることも日常茶飯事だ。

 特に中学硬式クラブチームに所属している球児たちの野球留学志向は強く、「甲子園に出たいという志があるならば、高校は県外を選ぶ方がスタンダード」といわんばかりの雰囲気は間違いなくある。

 卒団生の大半が大阪、兵庫以外の高校に進学する硬式クラブチームも珍しくない。筆者の居住地域で耳にする野球留学先は、北海道、青森、福島、山梨、福井、石川、鳥取、島根、香川、岡山、広島、山口、鹿児島といったところ。隣の大阪府にも同様の流れがあるように思う。甲子園出場にこだわればこだわるほど、「ライバル校と学校数の少ない地方の強豪」という選択に行き着く傾向は強くなる。

「甲子園に出る確率を上げるために甲子園からあえて遠ざかる。そして、甲子園出場を果たし、地元凱旋を果たす」


 そんな最高ともいえるシナリオを強烈なモチベーションに変え、球児たちは住み慣れた我が家を出ていく。

●「これも野球育児のひとつの形」と信じて

 強い決意と覚悟とともに親元を離れるも、そこは中学を卒業したばかりの15歳。

「最初のうちは毎晩、枕を抱きながら泣いてた」
「なんでこんなところに来てしまったんだと思った。自分の選択を後悔したこともあった」
「家に帰りたいと何度思ったことか……」

 慣れない寮生活を送りながら、重度なホームシックに襲われた回想話を野球留学経験者から聞いたことは幾度もある。

 寂しさに襲われるのは出ていった者だけではない。ほぼ100パーセントの確率で、残された親、兄弟も、家族が1人欠けたことによる寂しさとの戦いを余儀なくされる。

「送り出すまでは入寮の準備に追われて寂しさを感じる暇なんかなかったけど、いざ送り出したら心がポカンとなってしまって……」
「今頃何してるんだろう。ケガなんかしてないだろうか。練習にはついていけているのだろうか。寮のご飯はちゃんと食べれているんだろうか。人間関係はうまくいってるのだろうか。そんなことを考えだしたら夜も眠れなくなる」
「メールしてもなかなか返事が返ってこない。様子を観に行きたくても、遠すぎて観に行けない」

 そんな母親たちの声を妻経由で知る事も多い。電話やメールなどの連絡に制約が設けられている寮も珍しくない。帰省できるのは正月休みを含め、年2、3回程度という高校も多い。

 息子がいなくなった寂しさをまぎらわすべく、急にペットを飼いだすケースも珍しくない。

「新学期の季節、犬の散歩タイムにニューフェイスが現れたらかなりの確率で息子ロスと戦う母親である」

 そんな「野球留学あるある」が筆者の居住地域には存在するほどだ。

 先日、息子を鹿児島の高校の寮に送り出したばかりの母親と話す機会があった。

「そりゃあ寂しいです。想像していた以上に寂しい。残された私や主人、そして弟もみんな心にポカンと穴が開いた感じです。でも、あの子が選んだ道だし、家族も背中を押したんですから。『かわいい子には旅をさせよ!』とよく言うじゃないですか? その言葉を毎日自分に言い聞かせています。『15歳で家を出た分、我が息子は強くなるんだ。喜ばしいことじゃないか!』と思えれば、寂しさも少しは癒されますから……」

 愛する我が子と離れることでしか機能しない野球育児の世界は間違いなくある。


文=服部健太郎(ハリケン)/1967年生まれ、兵庫県出身。幼少期をアメリカ・オレゴン州で過ごした元商社マン。堪能な英語力を生かした外国人選手取材と技術系取材を得意とする実力派。少年野球チームのコーチをしていた経験もある。

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