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《野球太郎ストーリーズ》中日2013年ドラフト1位、鈴木翔太。右ヒジ痛を乗り越えた静岡のシンデレラ右腕(1)

取材・文=栗山司

《野球太郎ストーリーズ》中日2013年ドラフト1位、鈴木翔太。右ヒジ痛を乗り越えた静岡のシンデレラ右腕(1)

12年ぶりのBクラスに沈んだ中日がドラフト1位で指名したのは、静岡の快腕だった。一時は故障に苦しみながらも、這い上がった右腕の高校時代を追った。

フォームの美しさに一目惚れ


 ドラフト1位で指名された直後の合同記者会見でのことだった。記者たちの質問に対し、鈴木翔太は涙を見せ言葉を詰まらせた。

「たくさん苦しいことを味わったので。支えてくださったみなさんに感謝の言葉しかありません」

 届かなかった甲子園、右ヒジの故障…。全国的に無名な投手がドラフト1位に。ここまでの道のりは決して平坦ではなかった。

 小学1年時に野球を始めた鈴木。中学時代は名門の「浜松リトルシニア」に所属していたが、体が華奢で際立った実績を残していない。本人も「そこまで球も速くないし、コントロールは自信があったんですけど、それほど目立つような選手ではありませんでした」と振り返る。

 ただ、体の線は細くても、高校入学直後から素質は抜群だった。 僕が始めて目撃したのは1年生の6月。入学して約2カ月が経った頃だった。その日、地元の大学生相手との練習試合に登板した鈴木は、7回を3安打無失点に抑える。しなやかなフォームと美しい腕のしなり。何よりフォームのバランスが抜群によかった。

 相手は下級生中心のBチームとはいえ、3歳から4歳も年上の選手たち。地元では名の通った選手もいた。そんな相手に対しての快投に、興奮したのを今でも鮮明に覚えている。

餅の効果で体重がアップ


 フォームの美しさは誰もが認めるところだったが、1年夏は常葉学園菊川高に打ち込まれ、秋は県大会で富士市立高に敗戦。大会では球質の軽さに加え、連戦になると、明らかに疲れが見えた。敗戦直後、鈴木翔太の目には悔し涙が溢れていた。

 その後、体重アップを目指した鈴木だが、もともと太りづらい体質。そこで、母・一重さんの協力の下、主食を米から好物の餅に変え、1日20個を雑煮にして食べると一気に効果が表れる。

 オフの期間で体重が10キロアップ。当然、球の勢いも変わった。当時、実際に鈴木の球を受けていた亀山裕輝(現常葉大浜松キャンパス)はこう証言する。

「一冬を越したら、球のスピード、重さが全然違いましたね。真ん中に入ってきてもそのまま押せるし、低めにも伸びてくるので、ショートバウンドになると思ったのが、そのままミットに入る感覚でした」

 細身だった体型が、2年春には下半身周りが一回り大きくなり、俄然、期待値が上がっていった。

静岡高撃破で全国区へ


 2年夏、いよいよ鈴木の名前が一気に世に出る瞬間が訪れる。県大会で順調に勝ち進んだチームは、4回戦で静岡高と対戦する。この年の静岡高は、中澤彰太(現早稲田大)らタレント揃いで、優勝候補の筆頭だった。

 そんな相手に鈴木は手がつけられない凄まじい投球を展開する。

 140キロに迫る快速球で相手打者の懐に切り込み、静岡高対策として温存してきたフォークを多投。投じた111球のうち、約半数がフォークだった。
「あの日は真っすぐがよくて、しっかりインコースを突けて。あとはフォークが決め球として使えたのが大きかったです。自分が思っていたよりも落ちました。夏の大会の見えない力もあったのかもしれません」

 終わってみれば、許した安打は2本のみ。相手打線を1失点に抑え、金星の立役者となった。

 ベンチで見ていた鈴木洋佑監督も、その激投に鳥肌が立ったという。
「『まだ抑えるの』『どこまで抑えるの』という感じで終わってしまった。我々の考えているところを超えた瞬間ですよね。でき過ぎです」

手に届きかかった聖地


 そして、甲子園まであと2つと迫った準決勝では常葉学園橘高と対戦する。この日、3連投となった鈴木は、静岡高戦に比べれば、球威、制球力ともに今一つだった。それでも、走者を出しながらも得点は許さない。相手の宮崎悟(現日本大)との投げ合いで、試合は0対0のまま延長戦に突入する。

 しかし延長14回、2死一、二塁から相手打者の三遊間の打球が遊撃手のグラブを弾き、二塁走者が生還。サヨナラ負けを喫した。

 鈴木は立ち上がることさえできず、先輩たちに抱えられながら、整列に向かった。それから鈴木は数十分間に渡り、記憶がないというほど、放心状態に陥った。甲子園に手が届きかけていただけに、大きな落胆と悔しさを味わう。

次回、「よもやの右ヒジの故障」

(※本稿は2013年11月発売『野球太郎No.007 2013ドラフト総決算&2014大展望号』に掲載された「30選手の野球人生ドキュメント 野球太郎ストーリーズ」から、ライター・栗山司氏が執筆した記事をリライト、転載したものです。)

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