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今年もこれをきっかけに飛躍する選手が現れるはず!「フレッシュ(ジュニア)オールスターMVP獲得選手」名鑑/第26回

「Weeklyなんでも選手名鑑」は、これまで活躍してきた全てのプロ野球選手、アマチュア野球選手たちを、さまざまな切り口のテーマで分類し、テーマごとの名鑑をつくる企画です。
 毎週、各種記録やプレースタイル、記憶に残る活躍や、驚くべく逸話……などなど、さまざまな“くくり”で選手をピックアップしていきます。第26回のテーマは「フレッシュ(ジュニア)オールスターMVP獲得選手」名鑑です。

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 オールスターゲームに先出ち、7月18日(木)にフレッシュオールスターゲーム2013が開催されます。1951年に始まった本家に遅れること12年。1963年から毎年行われてきた歴史あるこの催しは、原則として「支配下登録から5年以内」「その年の2軍の試合に出場している」という条件を満たす選手の中から、NPBや12球団の2軍監督の選考で出場選手が決まります。現在のルールとして、その年のルーキーに限り2軍戦出場がなくても出場できるというものはありますが、基本的には、ファームで育成中のプロ入り5年以内の若手による祭典です。

 即戦力となったゴールデンルーキーや、入団早々レギュラーを獲得した若手が選ばれることはあまりなく、プロへの適応に一定の時間をかけている選手たちが成長を披露する舞台というのが実際と言えるでしょう。

 とはいえ、入団即活躍という一流コースは歩めずとも、1年に1回しかない試合で結果を出した選手がその後、出世した例は少なくありません。
(以下、記載する所属チーム名はすべて当時のものです)


1992年 鈴木一朗(イチロー/オリックス)

 イチローと登録名を変え、シーズン210安打を記録したブレイクの前々年。ルーキーだった“鈴木一朗”がジュニアオールスターゲーム(当時)に出場し、MVPを獲得したのは有名だ。

 この日のイチローはベンチスタートだった。ウエスタン選抜の先発外野手は町田公二郎(広島)、藤立次郎(近鉄)、村松有人(ダイエー)らだった。ほかにもチームメイトの田口壮、新庄剛志(阪神)、中村紀洋(近鉄)、矢野輝弘(中日)ら後にスター選手となる面々が選ばれており、戦力的にかなり有利に見えたウエスタン選抜だったが、先発の若田部健一(ダイエー)が失策がらみで3失点し追いかける展開になる。

 イチローに出番がやってきたのは3-3で迎えた8回表。中村紀の代打として打席に立つと、有働克也(大洋)が投じた2球目、チェンジアップを一閃。打球は右翼席に飛び込み、勝ち越しソロアーチとなった。9回にも打席が回ってきたイチローは橋本清(巨人)のグラブをかすめながらセンター前へ。その後、二盗も決める。ウエスタン選抜は結局この1点を守り切り4-3で勝利。イチローは先発で出場し序盤に本塁打とタイムリーを放っていた町田からMVPをかっさらった。

 ビッグネーム揃いの晴れの舞台で主役となったイチローだったが、十分な出場機会はすぐには得られなかった。オリックスには外野には藤井康雄や高橋智、本西厚博らがおり、93年からは長打力のある新外国人・タイゲイニーも加わった。首脳陣との関係も悪く、結局レギュラー奪取は3年目の仰木彬監督が就任するまで待たねばならなかった。

 なお、翌93年のジュニアオールスターゲームには先発出場。だが目立った活躍はできなかった。

[鈴木一朗(イチロー)・チャート解説]


【注目度:3】………大学球界を席巻した東北福祉大出身選手7名や一軍でローテの軸となっていた若田部、ブレイク直後の新庄など注目選手が多数いた年。“鈴木一朗”はほとんどノーマークの選手だった。
【仕上がり度:4】…代打出場ながら好球を迷わず振り抜いたスイングはその後の“イチロー”のそのもの。
【後の出世度:5】…翌々年、監督が仰木彬氏に替わると同時に大ブレイク。ちなみに2007年のMLBオールスターでランニングホームランを含む3打数3安打の活躍でMVPを獲得する。

【注目度】…フレッシュ(ジュニア)オールスター出場時点で、どれだけ注目されていたか
【仕上がり度】…選手としてどれだけ完成していたか
【後の出世度】…その後どれだけ活躍したか
を5段階評価した(以下同)。

1971年 大島康徳(中日)

 1969年に大分・中津工からプロ入りし、入団直後に投手から野手に転向した大島は、2年間にわたり1軍での出場はなし。だが、ジュニアオールスターゲームには2年連続で出場していた。1年目の69年は、有藤道世(ロッテ)、福本豊、加藤英司(ともに阪急)、村田兆治(ロッテ)、東尾修(西鉄)ら後の大物選手が多く出場した試合で代打3ラン。素質を披露していた。

 71年のジュニアオールスターゲームは、地元の中日スタヂアム(ナゴヤ球場)で開催されたこともあり、大島は異例の3年連続出場を果たす。大島はこの年6月17日に初めて一軍の試合に出場し、初打席初本塁打で鮮烈なデビューをしていた。

 勝手知ったる3度目のジュニアオールスターゲームの初回、大島は井原慎一朗(ヤクルト)から3ラン。このリードを保った大島属するウエスタン選抜は8-2で勝利。大島はMVPに選ばれた。

 ここ一番での集中力と長打力を評価された大島は、71年は主に代打として1軍帯同し7本塁打を記録した。翌年以降は100試合を超える出場機会を得たが、好不調の波が激しかったのと守備に難があったため代打要員となったシーズンもあった。

 それでも76年には代打本塁打を7本放ちNPB記録を更新するなど、集中力は図抜けたものを見せていた。この記録で知名度を上げた大島は、本家オールスターにも1977年、1979年、1983年、1984年と計4回出場を果たした。

[大島康徳・チャート解説]


【注目度:4】…………3度目のジュニアオールスター、しかも地元開催。一軍デビューを派手に果たした大島への注目度はそれなりにあった。
【仕上がり度:3】……集中力と長打力は光るものを見せたが、確実性と守備力を含め信頼を得るまでには時間がかかった。
【後の出世度:4.5】…大きなケガをせず44歳までプレーし2204安打、382本塁打を記録。名球会入りを果たした。

2004年 青木宣親(ヤクルト)

 青木が出場した2004年のフレッシュオールスターゲームにも豪華な面々が揃った。野手では明石健志(ダイエー)、鳥谷敬(阪神)、西岡剛(ロッテ)、吉村裕基(湘南)、小谷野栄一(日本ハム)、矢野謙次(巨人)らが出場。投手では馬原孝浩(ダイエー)、内海哲也(巨人)、岡本篤志(西武)などが登板した。

 試合はイースタン選抜の打線が爆発し10-0のワンサイドゲームに。2番センターで出場した青木は初回に右中間を破る三塁打。これで勢いに乗り、2打席目、3打席目、5打席目も安打を重ねた。結局5打数4安打2打点、盗塁も2つ決めるアグレッシブなプレーでMVPに。

 この年のヤクルトの外野は稲葉篤紀とラミレスが固定され、もう一角もベテランの真中満や佐藤真一、志田宗大らが競っていた。そうした事情もあり青木の1軍での出場は10試合に留まった。それでも2軍では打率.372、出塁率. 436とイースタンリーグでトップの数字を記録した。MVPにふさわしい記録を残し、レギュラー獲りへの準備を整えた。

 チームもこれを見越してか、オフにFAでメジャー移籍を目指した稲葉を全力では引き止めず、結局日本ハムへ移籍。翌2005年、青木は空いた席を確実に確保し開幕スタメンに名を連ねた。1軍の舞台でも変わらぬ打撃を見せ、セ・リーグ記録の192安打を超える202安打を放ち、いきなり首位打者と最多安打を獲得。さらに新人王、ベストナインにも輝いた。本家オールスターゲームには、2005年から2011年まで7年連続出場を果たし、06年と09年にはMVPも獲得している。

[青木宣親・チャート解説]


【注目度:4】………ドラフトは4巡目だったが、早大史上初の東京六大学4季連続優勝の立役者の1人として在京球団へ入団した青木への期待は大きかった。
【仕上がり度:5】…高いアベレージで安打を放ち続ける、という個性は1年目から十分に発揮。
【後の出世度:4】…NPB8年間の通算が打率.329、出塁率.402などNPB史上トップクラス。MLBでも年を追って適応を見せている。


その他のフレッシュ(ジュニア)オールスターMVP獲得選手
外野手として出世した選手

1976年 簑田浩二(阪急)
 入団1年目に出場しMVP。黄金期の阪急は選手層が厚かったが、内野手から外野手に転じ、翌々年に打力や走塁能力などを武器にベテラン・大熊忠義からレギュラーを奪う。この年は本家オールスターにも出場。3安打4打点に加え本盗に成功しMVPに。

1977年 島田誠(日本ハム)
 テスト入団から1年目で出場しMVP獲得。当時の日本ハムは、外国人選手を外野に2人入れていたため、その出入りを突いて翌1978年にレギュラー獲得。79年からは5年連続で本家オールスターに出場。チームの看板選手に。

1988年 藤井康雄(阪急)
 2年目に出場。この年はブーマーの離脱を埋める形で一塁に入り、序盤から1軍の主軸を打つような状況だった。ジュニアオールスターではその貫禄を見せ6回に決勝本塁打。1-0でウエスタンを勝利に導いた。このシーズンは111試合に出場し20本塁打。ブーマーが戻ると、福本豊が力を落とし、簑田浩二が巨人に移籍したことで手薄になっていた外野でレギュラーとなる。

1993年 桧山進次郎"(阪神)
 2年目に出場。初回に門奈哲寛(巨人)から本塁打を打つなど活躍しMVPに。亀山努、新庄剛志、八木裕、外国人やFAで獲得した石嶺和彦に阻まれながらも1996年よりレギュラー格に。

2009年 中田翔"(日本ハム)
 内野手として育成されていた2年目に出場。4番に入ると2本の二塁打を放ちMVP獲得。評価の上がらなかった内野守備をあきらめ、翌2010年は森本稀哲、スレッジが退団し層の薄くなった外野にコンバート。11年にレギュラーに。

内野手として出世した選手

1982年 金村義明"(近鉄)
 入団直後より打者転向に取り組み、その最中での出場だった。前年の夏の甲子園で投げ合った工藤公康(西武)からの三塁打など、イースタン投手陣からサイクル安打を放ちMVPに輝く。しかし、チームでは三塁のレギュラー・羽田耕一の壁は厚く、4年後の86年までレギュラーは奪えなかった。

1986年 広瀬哲朗"(日本ハム)
 本田技研から入団し1年目に出場。本塁打を放ちMVPを獲得した。しかし、なかなか打力は伸びず、レギュラー獲得までに7年を要した。大沢啓二監督の下で主将としてプレーした1993、94年は本家オールスターにも出場。

1990年 石井浩郎"(近鉄)
 プリンスホテルから入団し1年目に出場。2本塁打などでMVPに輝く。シーズン中盤以降は近鉄の強力打線に食い込み、ルーキーながら22本塁打を放った。翌年から指名打者、三塁、一塁などで主力として出場した。

1991年 種田仁"(中日)
 高卒2年目で出場し、2本の二塁打を放ちMVP。その年は107試合に出場し二塁手のレギュラーを手中にする。1992年は立浪和義と入れ替わり遊撃手に。96年に監督が星野仙一に替わるまで主力として活躍。

2001年 里崎智也"(ロッテ)
 ほぼ一軍で出場機会を得られずに迎えた3年目に出場。3人目の捕手としての選出だったが、4回裏に代打出場。5回からマスクを被った。4回に犠飛、8回に本塁打を放ったことでMVPに選出。それから2年を経て、橋本将と併用ながら1軍に定着。長打力を武器に存在感を示し、2005年の日本一に貢献した。06年にはWBC日本代表にも選ばれている。

2002年 藤本敦士"(阪神)
 1年目(2001年)は75試合に出場し頭角を現し、翌02年に出場。決勝本塁打を含む2安打を放ちMVPになる。その年は控え内野手として過ごしたが、03年は打率を上げレギュラーに。本家オールスター出場も果たした。その後3年を遊撃手、1年を二塁手としてレギュラーを張った。

2003年 今江敏晃"(ロッテ)
 高卒2年目で出場。満塁から走者一掃の決勝三塁打を放ちMVPに。しかしチームでは遊撃手のレギュラーを小坂誠に阻まれ、この年は1軍での出場機会はほぼ得られなかった。翌2004年は外野へのコンバート案を断り、三塁手としてレギュラー獲得を目指した。2005年にフランコ、初芝清から三塁手のレギュラーを奪い、チームの日本一に貢献。以来、現在までレギュラーの座を守っている。

2005年 鶴岡慎也"(日本ハム)
 入団から2年、1軍での出場機会がないまま迎えた3年目に出場。高卒1年目のチームメイト、ダルビッシュ有とバッテリーを組んだ。1打席目にレフトスタンドへ本塁打、二打席目には左中間へ二塁打を打ちMVPに。この年の9月に初めて1軍での出場を果たすと、翌2006年にはレギュラーだった高橋信二と併用状態に。その後も相手は大野奨太に替わったが併用起用されている。



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 フレッシュオールスター出場メンバーの充実度は、時代によってかなり異なります。イチローが出場した年などは、一軍ローテーションの軸になりつつあったダイエーの若田部健一が先発し、阪神からは亀山努とともにフィーバーを巻き起こしていた新庄剛志が出場するなど豪華な顔ぶれでした。球界全体が世代交代期にあれば充実しにくく、そうでなければ充実しやすいということなのでしょう。

 また興行上の理由から、活躍とは別にネームバリューで出場選手が選ばれるケースもあり、その判断も影響しているのと見られます。1982年に近鉄入りした金村は、野手に転向したばかり。二軍の試合でもまったく打てずにいた自分が選ばれたのは「甲子園の優勝投手だったからではないか」と後に語っています。

 歴代のMVP受賞選手のその後を調べてみると、外野手の場合は比較的早く大成しているように映ります。外野は3ポジションあるため、内野に比べて融通が効き、若手選手であれば一般的に高い走力で技術を補うこともできます。打力を優先し思い切って起用する判断もしやすかったのかもしれません。

 フレッシュオールスターのMVPは極端に野手に偏って選ばれることが多く、1990年以降だと、投手で選ばれたのは97年の倉野信次(ダイエー)、2000年の河内貴哉(広島)だけ。ただ、表彰はされなかったものの好投した投手は見られ、最近では2010年の西勇輝(オリックス)や山田大樹(ソフトバンク)、2007年の浅尾拓也(中日)や前田健太(広島)などが好投しています。

 フレッシュオールスターが、近い将来、各チームの投手陣を支える好素材を照らし出す機会であるのは間違いなさそうです。

文=秋山健太郎(スポーツライター)
イラスト=アカハナドラゴン

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