週刊野球太郎
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プロ野球は人間ドラマであり、栄光と挫折、嫉妬、色んなものがうごめく公共のカルチャーだと思うんです

記者の仕事って恋愛と一緒


菊地 加藤“デスク”としての腕の見せどころといえば、報知新聞でのデスクコラムがあると思います。

加藤 はい。「Gペン」というコラムを書かせていただいています。約800字の中に自分の色を出しつつ、どうやってひとつの読み物にするか。僕だけじゃなく、コラムを担当する人間は、コラム当番日ってみんな気合いが入ってますね。

菊地 記者の顔が見えるコラムというか。

加藤 そうですね。「Gペン」というと、白取晋さんという、巨人に対して厳しい筆致で人気だった方の系譜を受け継いでいるんですね。だから僕も、時には采配に異議を唱えるようなものを書くこともあるんですが、賛否どちらになるにせよ、何か印象に残るようなものを書きたいな、と常々思っています。


菊地 今回のイベントには学生さんなど記者志望の方も参加しているようです。せっかくなので、加藤さんへの質問を受けていきたいと思います。

加藤 クビにならない程度に、何でも答えますよ〜(笑)。

《質問1》
加藤さんは駆け出しのころから、どうやって選手からの信頼を勝ち取っていったんでしょうか?


加藤 勝ち取れたかは甚だ疑問ですけど(笑)。そうですね。まずはやっぱり、どんな仕事でも一緒だと思うんですけど「名を名乗る」ということですね。「報知の加藤と申します」と。これはどんな若手の選手に対しても、今でもやっています。記者の仕事って、恋愛と一緒だと思うんです。まずは顔と名前を覚えてもらう。その次の段階として連絡先をゲットする。その次は食事に行く。そうやって関係性を深めていき、いい原稿を書くための情報をつかんでいく。でも、まず顔と名前を覚えてもらうのが至難の業なわけです。

菊地 わかります。

加藤 ひとつ言えるのが、実は選手の皆さんって記事をよく見ている。どの新聞に何が載ったか、Webにはこんなコラムが載っているとか、よく読んでいる。だから、取材に手抜きは許されません。原稿を通じて「こんなに私はあなたのプレーをよーく見ています。あなたの野球人としてのすごさを観察、洞察しています」と表現するのは、その選手に食い込んでいくためのいいキッカケになるんじゃないかと思います。


《質問2》
「加藤さんが他の記者に、絶対ここだけは負けない、と思っていることはなんですか?」


加藤 僕は昔から、とにかく原稿が上手くなりたかった。原稿が上手くなるしか僕の生きる道はないと思っていました。投手対打者の「18.44メートル」という世界の中で何が行われているのか……ということに関していえば、僕よりも詳しく知っている記者ってたくさんいる。それこそ、東京六大学で野球をやっていました、どこそこでコーチをやっていました、強豪校の野球部でした、という記者はたくさんいます。そんな彼らに対して、僕は原稿では負けたくなかった。

菊地 「加藤って文章うまいよな!」と思われたかった、と。

加藤 だから、記者になりたての頃は、語彙を増やそうと思って、いろんなものを読んだりして、この表現いいな、と思ったら、次に自分が書くときに取り入れてみたりもしました。コラムニストのえのきどいちろうさんの文体にはかなり影響を受けています。現在はデスクという立場で、原稿を書くよりも記者の記事をチェックする方がメインの仕事になっていますが、40歳になった今でも僕自身、もっと文章が上手くなりたいと思っています。まだまだ伸びしろはあるんじゃないかと(笑)。

グラウンドの外で何が起こっているかも大事にしたい


菊地 プロ野球というのは、エンターテイメントの部分と、スポーツ競技としてのマジメな部分、両方を併せ持っているものだと思います。スポーツ新聞という媒体は、そのさじ加減が難しいというか、やっぱりエンタメの部分を刺激する媒体なんでしょうか?

加藤 これは皆さんの感覚とは違うかもしれませんが、僕自身は「プロ野球は文化だ」と思って、日々接しています。確かに優勝を争い、男と男の決闘である、っていうのは大前提です。ただやっぱり、人間ドラマであり、栄光と挫折、嫉妬、色んなものがうごめく公共のカルチャーだと思うんです。だからこそ、グラウンドの中だけじゃなく、グラウンドの外で何が起こっているかも大事にしたいな、と。

菊地 野球の周辺まで含めて考えていく。

加藤 たとえば僕、応援団が大好きなんですよ。パ・リーグ担当時代、西武ドームのプレスルームから見ていると、つい外野スタンドの応援にも目が行っちゃったりして。ビジターチームの客席を見ながら「あれ? 今日トランペット少ないな」とか思っていると、3回ぐらいに来るんですよ。あー、仕事だったのかな? とか想像して。

菊地 だんだん応援が盛り上がっていくんですよね。

加藤 札幌ドームのオリックス応援団だと、初回はトランペットがいなくて、太鼓と応援歌だけの場合があるんです。で、5回ぐらいからフルメンバーが揃って応援がますます盛り上がる、とか。そういうのも含めて全部が愛すべき対象なんです。スポーツ記者として、そういったプロ野球を取り巻くすべてにスポットを当てていきたい。そんな視点をこれからも大切にして、日々の仕事に取り組んでいきたいと思っています。


■加藤弘士(かとう・ひろし)
1974年4月7日、茨城県水戸市出身。水戸一高ではプロレス研究会に所属。慶應義塾大法学部法律学科を卒業後、1997年に報知新聞社入社。広告局、出版局を経て、2003年からアマ野球担当。アマ野球キャップや、野村克也監督、斎藤佑樹の担当などを経て、2014年より野球デスクとなる。

■ライター・プロフィール
オグマナオト/1977年生まれ、福島県出身。広告会社勤務の後、フリーライターに転身。「エキレビ!」、「AllAbout News Dig」では野球関連本やスポーツ漫画の書評などスポーツネタを中心に執筆中。『木田優夫のプロ野球選手迷鑑』(新紀元社)では構成を、『漫画・うんちくプロ野球』(メディアファクトリー新書)では監修とコラム執筆を担当している。近著に『福島のおきて』(泰文堂)。Twitterアカウントは@oguman1977(https://twitter.com/oguman1977)

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