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第3回 『やったろうじゃん!!』『大甲子園』『グラゼニ』より

「球言(たまげん)」とは、名作&傑作マンガに登場する野球格言≠フことである。野球というスポーツの真理を突いた一言、技術を磨く名言、駆け引きを制する名台詞の数々は、現実のプレーや采配にも役立ったり役立たなかったりするのだ!



《意味》
セオリーとは「理論」、パターンとは「型」のこと。試合の状況に合わせ、理に適ったバッティングをするのはいいが、何も考えず、ただ漫然と型通りの攻撃を繰り返してはいけない、の意。

《寸評》 「左対左は投手有利」「ツーボール・ワンストライクはスクイズしやすい」など、一見してセオリーなのか、パターンなのかを判別しにくい定説が、野球にはたくさんある。迷ったときは、守備側の気持ちになるべき。予測&対応しやすい攻撃は、往々にしてパターン通りのワナにハマっている。


《作品》
『やったろうじゃん!!』(原秀則/小学館)第4巻より

《解説》
創部3年目の朝霧高野球部で監督を務めることになった喜多条順は、かつての甲子園優勝投手。まだまだ未熟な部員たちを鍛えるため、彼は自らシートバッティングの投手を買って出る。
1死一塁の場面。四番の大垣は、コンパクトなスイングを心がけ、ファウルを積み重ねていく。
「オレはもうホームランなんて狙いません。右打者は右に、左打者は左に。これがバッティングの基本ですよ!」
主砲の意外な宣言に、喜多条が言葉を返す。
「おまえくらい力がある奴が小細工してどーする? しっかりミートさせれば、黙ってても外野へ抜けちまうだろ?」
周囲で耳を傾けるナインたち。喜多条は、彼らにも持論を説くのだった。
「いいか! セオリーどおりは構わんが、パターンどおりには打つな! まず状況をよく見て打席に入れ! そして考えろ! 勝つための……点を取るためのバッティングを考えろ!」




《意味》
一見、何でもないような守備でも、ランナーが目に入ったり、ゲッツーを焦った瞬間、ボールを捕り損なってしまうことがある。緊張する場面ほど、エラーを意識せず、普段通りのプレーを心がけることが大切なのだ。

《寸評》
勝負のかかった打球処理で、自分でも理解できない凡ミスを犯し、涙を呑む選手は少なくない。巨匠・水島新司は、こうしたプレッシャーが引き起こすエラーを「頭のイレギュラー」と名付けた。『大甲子園』の作中では、ランナーの殿馬一人が、わざと野手の視界に入るように走り、「頭のイレギュラー」を誘発している点にも注目したい。

《作品》
『大甲子園』(水島新司/秋田書店)第22巻より
《解説》
ドカベン・山田太郎が率いる明訓高と、怪童・中西球道が率いる青田高のドリームマッチは、延長18回を終えても決着に至らず、再試合へ突入。
四回裏、2死三塁で打席に入ったのは、明訓高の五番・微笑三太郎。中西の快速球に詰まらされた彼の打球は、平凡な内野ゴロに。余裕を持って回り込む青田高のセカンド・勝又。ところが、ふと三塁ランナーの殿馬が意識に入り、捕球の寸前にボールをお手玉してしまう。
結果は何とか間一髪のアウトになったものの、あわやのプレーに、中西は勝又へ声をかける。
「エラーしたら 点が入ると思ったんだろ…………つまり 頭のイレギュラーよな」
中西の言葉を聞いた勝又は、「頭のイレギュラーか そ そうか」と自らの守備を振り返るのだった。




《意味》
「ムービングファストボール」はその名の通り、「ファスト(=速い)」であることが前提の球種。いくらボールが動いても、スピードやキレと引き換えでは簡単に打たれてしまう。

《寸評》
本来、ストレートのバリエーションとして存在するはずの「ムービングファストボール」。日本人は「ファストボール(=速球)」という言葉の響きに慣れていないせいか、何となく「ムービング」のほうに意識が向きがち。変化球の一種のように捉えている人も多い。

《作品》
『グラゼニ』(森高夕次、アダチケイジ/講談社)第3巻より
《解説》
神宮スパイダースの中継ぎ投手・凡田夏之介は新人の頃、先輩の栗城里志から、よくアドバイスを受けていた。ファームで凡田にツーシームの握りを教えてくれたのも、栗城だった。
その栗城は現在、球団の「バッティングピッチャー兼スコアラー」に従事。現役は退いたが、凡田へのアドバイスは続いている。
ある日、ダッグアウト裏で凡田と会った栗城は、プロ野球界の技術的な現状に対する自身の見解を話し始め、「ムービングボール」についても言及。「ちょっとだけ動くボール」を「ヘタクソが投げる」と「けっこう打たれちゃったりする」理由について、アメリカ流で言うところの「ムービングファストボール」になっていないからだと分析した。


文=ツクイヨシヒサ/野球マンガ評論家。1975年生まれ。著書に『あだち充は世阿弥である。──秘すれば花、『タッチ』世代の恋愛論』(飛鳥新社)、編著に『ラストイニング勝利の21か条 ─彩珠学院 甲子園までの軌跡─』(小学館)など。

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