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第7回『ONE OUTS』『おおきく振りかぶって』『あぶさん』より

「球言(たまげん)」とは、名作&傑作マンガに登場する野球格言≠フことである。野球というスポーツの真理を突いた一言、技術を磨く名言、駆け引きを制する名台詞の数々は、現実のプレーや采配にも役立ったり役立たなかったりするのだ!

★球言1



《意味》
野球の試合をゲーム≠ニ呼ぶのは、弱者にも勝つチャンスが与えられているから。強者のみが勝てる競技≠ニは違う。たとえ力で劣っていても、決して諦めてはいけない。

《寸評》
ここで言うゲーム≠ニは、知恵や工夫によって力関係をひっくり返せる戦いのこと。一方の競技≠ニは、純粋に肉体の強さや美しさを競うものを指している。野球は、グラウンドの形すら統一されていないような、著しく公平性に欠けるスポーツ。言い換えれば、弱者の付け入るスキが残されたゲームなのだ。

《作品》 『ONE OUTS』(甲斐谷忍/集英社)第12巻より


《解説》
「ワンナウト」と呼ばれる野球賭博のプレーヤーである渡久地東亜は、沖縄県で米兵を相手に無敵を誇っていた。勝負師としての才能を買われた彼は、プロ野球の埼京彩珠リカオンズへ入団。年俸の計算方法として、博奕要素の強い「ワンナウツ契約」をオーナーと締結する。
シーズンが始まり、迎えたフィンガースとの3連戦初日。負け犬根性が染み込んだチームメイトの菅平源三に、渡久地が言い放つ。
「野球はゲーム≠セ 陸上や水泳のように 強い者でなければ 勝利を手にできない競技≠ニは違う 弱者にも勝つチャンスが与えられている遊戯=i※7)だ。(中略)勝つチャンスを探すことすらしないヤツは 真の弱者に成り下がるぞ」
野球選手として異彩を放つ渡久地の存在は、3年連続最下位に甘んじていたリカオンズの選手たちにも、大きな影響を与えていくのだった。
※7・作中では「遊戯」に「ゲーム」のルビ。

★球言2



《意味》
打ち気のない打者に対し、真ん中のストレートでカウントを稼ごう、と考えるのは捕手の思考。投手にとって真ん中のストレートは、気合いを入れて投げる分、疲労が溜まりやすい。

《寸評》
投手という生き物は、本能的に打たれることを嫌う。真ん中のストレートは、その本能にもっとも逆らう行為。意識的な開き直りが求められるため、リキんでしまうこともしばしば。長打の出にくい外角や、力の抜けやすい変化球のほうが、ストライクを取りやすいという投手も多い。

《作品》
『おおきく振りかぶって』(ひぐちアサ/講談社)第2巻より


《解説》
西浦高と三星学園の練習試合も、終盤の八回裏。1点を追いかける西浦高は、ランナーを溜めた状態で四番・田島悠一郎へ打席を回そうと、待球作戦を図る。
これを見抜いた三星学園の捕手・畠篤史。球数制限のある投手・叶修悟を何とか持ち堪えさせるため、「2ストライクまでは楽に入れさせてもらう」リードを選択する。
しかしマウンドにいる叶は、畠からのサインを見ながら思っていた。
「また真ん中……真ん中のストレートは気合いがいるぶん 疲れるんだぞ」
納得していないながらも、要求通りのピッチングを続ける叶。投手の気持ちを理解しないまま、西浦高の狙いを外すことに必死な畠。バッテリーの微妙な食い違いは、西浦高の打線を勢い付かせてしまい、無死満塁で四番・田島という最悪の場面を作ってしまう。

★球言3



《意味》
一番が出塁し、二番が送り、クリーンナップが返す……というような「打線の方程式」は、戦力の整ったチームが効率よく勝つためのもの。見合った打線を組めなければ、ムリしてこだわらず、力や勢いのある選手を上手く使うべき。

《寸評》
野球人にとって、小さな頃から刷り込まれてきた打順のイメージは拭いがたい。しかし、同じイメージで打線を組んでいる限り、優秀な選手を揃えたチームのほうが得点能力は高い。「一番強打者論」や「六番最強説」、「打つ二番」に「つなぐ四番」など、「打線の方程式」を巡る論争は尽きないが、詰まるところ自軍が1点でも多く取れれば、それが最善のオーダー。

《作品》
『あぶさん』(水島新司/小学館)第58巻より


《解説》
1995年5月12日、東京ドームでの日本ハムファイターズ対福岡ダイエーホークス戦。
自軍の層の薄さと、駒不足を嘆く上田利治監督は、強打者・田中幸男をトップバッターに起用。「打率のいい順番に」打線を組むという奇策に打って出る。
球場内にオーダーが発表される中、上田監督は己の考えを反芻する。
「長い球史の中で、それが(※8)当たり前のように定着してきた打線の方程式。(中略)それは得点を大事に取り、それを守る投手が揃った、いわゆる投打のバランスのいい常勝チームのオーダーなんだ。(中略)今の日本ハムは、打線を組むなど贅沢なことはいっておれない」
突飛なアイデアではあったが、上田監督の心には勝算もあった。
「点取りゲームの野球の本当の理想は、こういうオーダーかもしれない」
一回裏、いきなり一番・田中が先頭打者アーチ。壮絶な乱打戦の幕が開く。
※8・作中では「それが」に傍点。

文=ツクイヨシヒサ
野球マンガ評論家。1975年生まれ。著書に『あだち充は世阿弥である。──秘すれば花、『タッチ』世代の恋愛論』(飛鳥新社)、編著に『ラストイニング勝利の21か条 ─彩珠学院 甲子園までの軌跡─』(小学館)など。

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