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第十回:打者の重心と駆け引き

『野球太郎』で活躍中のライター・キビタキビオ氏と久保弘毅氏が、読者のみなさんと一緒に野球の「もやもや」を解消するべく立ち上げたリアル公開野球レクチャー『野球の見方〜初歩の初歩講座』。毎回参加者のみなさんからご好評いただいております。このコーナーはこのレクチャーをもとに記事に再構成したものです。
(この講座に参加希望の方は、info@knuckleball-stadium.comまで「件名:野球の見方に参加希望」と書いてお送りください。次回第5回開催の詳細をお知らせいたします)


試合の流れと重心の変化


キビタ:前回はバッターの重心のかけ方をタイプ別に分類しました。
久保:右バッターなら、踏み出した足が一塁側に流れるタイプと、三塁側に流れるタイプの2通りがありました。一塁に踏み出すのはミート中心で、外の球にも当てていこうという意識の表れ。逆に三塁側に踏み出すのは、軸回転で強打しようという意識が強い選手です。左バッターはほぼ全員が一塁側に向かいます。
キビタ:右バッターの場合、重心が一塁側に流れるタイプはつま先体重、三塁側に流れるタイプはカカト体重とも言われます。
久保:この重心のかけ方は、試合の中でも変化するものなのでしょうか?
キビタ:元々の傾向にプラスして、試合中の配球によっても重心のかかり方は変化します。元の形からどのように変化するかを観察すれば、バッターの特徴や考え方がさらに見えてきます。


▲右打者で重心が三塁側に向く選手にはどのような特徴があるのでしょう



試合の流れをわかっていれば…


キビタ:今回も中日の平田良介選手を題材に見ていきましょう。前回同様、阪神のメッセンジャー投手と対戦した去年の試合を振り返っていきます。
久保:平田選手は踏み出した左足が三塁側を向くタイプ。「真ん中付近の甘い球ならレフトスタンドに放り込んでやる」というのが基本線です。
キビタ:メッセンジャー投手との最初の対戦では、初球に真っすぐを空振り。2球目は外のスライダーを空振り。この外のスライダーで、平田選手の重心が少し一塁側に傾きました。だから3球目のインハイの真っすぐに振り遅れて、3球三振に倒れました。
久保:阪神バッテリーが平田選手の重心を崩す攻めができたということですね。


▲横からだと見にくいが、重心が三塁側にある平田選手。


キビタ:続く第2打席では、阪神バッテリーが徹底して外を攻めました。平田選手は粘りましたが、最後は2ボール2ストライクから外の真っすぐを空振り三振でした。
久保:この時の空振りから、何が見えてくるのでしょうか?
キビタ:平田選手の踏み出した左足を見ると、まだ少し重心が三塁側にかかっているように見えました。まだ内側にくるという意識があったのか、それとも外は軽く合わせて対応しようという考えだったのかはわかりません。メッセンジャー投手のキレがよかったという要素もあるでしょう。ともかく、ここまでの対戦で、平田選手は外のボールをかなり意識させられました。
久保:重心が通常よりも一塁側にかかるような攻めをされたんですね。
キビタ:その流れを受けて、今度は8回の平田選手の打席です。ピッチャーは右のメッセンジャー投手から左の榎田大樹投手に代わっていました。榎田投手との対戦が2ボール2ストライクになって、ここでの球に注目です。
久保:インコースのボール球を見逃しました。
キビタ:平田選手の踏み出した足を見てください。一塁側に踏み込んでいます。外に目をつけていた可能性が高いと言えるでしょう。バットの軌道からも「外を狙っていたけど、内側にボールがきたから途中で止めた」という感じが伝わってきます。
久保:これでフルカウントになりました。
キビタ:最後の勝負球は外の真っすぐでした。キャッチャーの小宮山慎二選手は外のストライクゾーンに構えましたが、ボールはそれよりも中に入りました。平田選手はフルスイングでレフト前ヒットにしました。
久保:随分気持ちよく振っていますね。
キビタ:そうなんです。ミート優先のカウントにもかかわらず、迷いのないフルスイング。外に目をつけていて、その周辺に甘い球がきたから、迷いなく振れたのだろうと推測できます。8回の1死ランナーなしでフルカウントでしたから、下手に歩かすよりは、という考えだったのかも知れませんが…。同じ外に投げさせるにしても、外のボール気味にキャッチャーが構えておけば、また結果は違ったかも知れません。


「ミステリアス」の正体


キビタ:先ほどの対戦では、平田選手が外の球を意識している様子が感じられました。でも平田選手は「前回はこういう攻め方で打ち取ったから、次も同じように攻めよう」というのがなかなか通用しにくい選手でもあります。
久保:それってどういうことですか?
キビタ:「さんざん外を意識させておいたから、そろそろ懐を攻めてみよう」と思って投げても、あっさりと打たれてしまうことがあるんです。これまでの流れや重心を崩すための駆け引きが突然リセットされてしまう。伏線が通用しないというか、ミステリアスな存在です。
久保:そういう選手は他にいますか?
キビタ:これは外国人選手に多く見られる傾向です。打席ごとにリセットされて、フレッシュな状態で向かってくるから、バッテリーとしては厄介です。西武のヘルマン選手はその代表例。日本ハムの武田久投手との対戦を見ていきましょう。
久保:初球のスライダーを見逃しましたが、えらく驚いています。
キビタ:おそらく外のスライダーに狙いを絞っていたと思われます。狙いどおりスライダーがきたから手を出そうとしましたが、あまり曲がらなかったし、コースも外ではなかったので見逃しました。
久保:インコースというほど厳しい球でもないのに、驚きすぎですよ。
キビタ:踏み出した左足が一塁側にいっていますよね。外に意識があるからです。それを見たキャッチャーの鶴岡慎也選手は、2球目に外のボール球で様子を見ました。念のために、もう一球外に目をつけさせました。
久保:となると、外は要警戒ですね。
キビタ:逆に言えば、内側に投げ込めるチャンスです。1ボール1ストライクからの3球目は内寄りの真っすぐでストライク。ここでもヘルマン選手はビックリしています。
久保:実況アナウンサーが「インコース」と言いましたけど…。
キビタ:実際に鶴岡選手のミットがあるのはストライクゾーン。ヘルマン選手の身体の近くですが、ほとんど真ん中に近い球です。鶴岡選手は「前の2球が効いているから、ストライクゾーンで勝負しても大丈夫」と判断したのでしょう。
久保:この後の4球目は、高めの真っすぐをヘルマン選手がファウルにしています。
キビタ:ここも鶴岡選手の構えはインコースでした。そして1ボール2ストライクからの5球目で、もう一度インコース低めを要求して、ヘルマン選手をショートゴロに打ち取りました。
久保:最後まで窮屈そうなスイングでした。
キビタ:ヘルマン選手は最後まで外を狙っていたと思われます。このように、相手バッテリーの配球に揺さぶられることなく、ひたすら自分の狙った球を待ち続ける選手は怖いんですよ。これまでの流れは関係ないから、3打席連続三振のあとでもホームランを打ちそうな雰囲気があるんです。
久保:これが「ミステリアス」の正体ですか!
キビタ:配球に対応して狙いを変えてくるのか、それともひたすら自分の狙いで待つのか。バッターの重心(踏み込み)を見ていれば、ある程度その狙いが推測できます。
久保:それが配球の根拠になるんですね。納得しました。



■プロフィール
キビタキビオ/野球のプレーをストップウオッチで測る記事『炎のストップウオッチャー』を野球雑誌にて連載をしつつ編集担当としても活躍。2012年4月からはフリーランスに。現在は『野球太郎』を軸足に、多彩な分野で活躍中。Twitterアカウント@kibitakibio

久保弘毅(くぼ・ひろき)/テレビ神奈川アナウンサーとして、神奈川県内の野球を取材、中継していた。現在は野球やハンドボールを中心にライターとして活躍。ブログ「手の球日記」

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